第167話 神の要請

「天神教と協力?」


『そうだ。連中に協力をすれば良い。お前は天神教の成り立ちを知っているか?』


「いや、宗教には全然興味が無いもので。それもあって一切関わり合いになってないので、全く知りません」


『元の世界にも宗教があっただろう? 何かを信仰してはいなかったのか?』


「私がいた国は宗教なんか興味ないって人が多かったですからね。私もそうですが」


腹が痛くなると急に神様助けてと祈る人は多かったかもしれない。


『そうか、変わった国だな。では教えてやろう。天神教の教祖たる存在は、我々と繋がりがある者なのだ。いわゆる「加護」と呼ぶ力を持っている』


天神教は『大いなる天主』の事を知っているような教義の宗教だとは思っていたが、そもそも完全に繋がっていたとは。


『その「加護」によって、我々から神託という形で、様々な啓示を受け取る事が出来るというわけだ。それは教祖のみならず、天神教を経済的に支える者もだ』


「なるほど」


『我からの啓示は、連中にとって障害の回避や光明となる内容も多い。その恩恵を受ける代償として、我らからの要請を受ける義務も同時に発生している』


ふーむ、ギブアンドテイクというやつか。よく考えると、北の方にいた古の民や、南の方にいた獣人たちと調整者の関係に近いな。天神教は表から見ると真っ当すぎて、実は裏では激ヤバ宗教なんじゃないかと少し疑っていたが、こいつの言う通りならどうやらそうではないようだ。


「しかし、それはどういう目的でですか?」


『今回のように、「大いなる天主」様にとって不都合な事が起きた場合に、ヒトに対処させるためだ。我々がこの星に直接介入すると、「不動なる地母」との古い約束をたがえる事になるからな。その上、ヒトを介して何かをするにしても、約定にのっとる必要はある。今回の場合はそれに該当する』


「はあ、そうなんですか。しかし、悪徳宗教的なものがはびこるとどういうそちらにどういう不都合があるのです?」


『魂の色に関係するが、おそらくお前に説明した所で分かるまい』


魂の色? 悪い事をしている人間が死ぬとどうたらこうたらみたいな理屈だろうか?


「ミズーは分かるのか?」


『魂の回廊まで戻ったヒトの魂の取り扱いについては「大いなる天主」とその眷属の区分だ。我にもわからぬ』


「へえ、ミズーでも分からないのか」


『さっきから、そのミズーという名はなんだ? そ奴は「不動なる地母」の最上位調整者、トゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥであろう』


「契約した時に名前を付けてくれと言われたので、分かりやすい名前を付けたんですよ」


『ほうほう、そうなのか。しかしお前も天主様の使徒でありながら、最上位の調整者とも契約するとは剛毅よの。魂の性質ゆえに、両者の使徒となっても魂が爆散しなかったというのも興味深い』


「まあ、成り行きでというか」


というか、お前の主様が気まぐれに超強力な『加護』を与えて人間爆弾になったせいでもあるんだけどな。寿命もやたら延びちまったぞ。こいつもたった二千年ぐらいの寿命どうでもいいだろと言いそうな感じだが。


『とにかく、天主様の意向を伝えたぞ』


「分かりましたが、こっちから何か動く必要がありますか?」


『いや、天神教にも既に啓示を与えている。いずれ、ここへ使者が来るはずだ。連中の指示に従えば良い』


「その協力ですが無茶を言われたりしたら断っても良いんですかね?」


『お前は天神教が崇め奉っている至高神と直接の繋がりがある使徒なのだぞ。奴らは最大級の敬意を持ってお前を取り扱うはずだ。ゆえに心配無用だが、あまりにも無碍な扱いをされた場合は断っても良い』


「そうですか。とりあえずは分かりました」


これで用事も終わったしぽいし、ホルアクティも帰っていくんだろうと思って黙って待っていたが、一向に帰る気配が無い。


「……あの、何かまだ御用でも?」


ホルアクティは腕を組んで目を瞑っている。そのまま指をトントンしているな。


『……お前、元いた世界にあった食事をこちらの世界でも再現しておるそうだな』


「はあ、まあ色々やってますが」


『実のところ、我も地球の食事という物に興味がある』


そう言うと、黙りこくってじっと俺を見つめている。……これはもしかして、暗に食べ物を催促しているのか?

ミズー他調整者と言い、不動なる地母と言い、こいつと言い、こっちの神様ってどいつもこいつも食い意地が張っているのだろうか?


「……あの、良かったら食べていきますか?」


そう申し出た途端、嬉しそうな表情をすると同時に嘴をカチカチさせた。どうやら、この嘴をカチカチするのは感情が高まった時にやるらしい。


『ほうほう、使徒がそこまで言うのであれば味を見てやっても良い! 神たる我がヒトの作りし食物の味を見るなど、光栄な事なのだぞ? 喜ぶが良い!』


「そりゃどうも」


この神様もめんどくさい性格だなあ。ミズーを見ると難しい顔をしている。この顔は機嫌が良く無い顔だ。ミズーにぴったりとくっつき小声で話しかける。


「なあ、ミズー。こいつを追い返すのは流石に無理だよな」


『今の状態であれば容易い。だが、こ奴の本体は我と同格か、やもすればそれ以上の存在だ。今後の事も考えると、我も不満だが歓待してやるしかあるまい』


「やっぱりそうか」


こそこそミズーと話をしていると、ホルアクティがさらに続ける。


『ここに来る前に見ていたが、ウドンなる食物があるであろう? あの「不動なる地母」も賞賛しておったな。それの味を見てやろう』


うどんか、ミズーに打たせるか。


「ミズー、うどん作ってもらって良いか」


『良かろう。ホルアクティ、我の腕を見せてやろうぞ』


「ほほうトゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥ、貴様に作れるのか? では、お手並み拝見と行こうではないか」


……なんか剣呑な雰囲気だな。やっぱり、『不動なる地母』の調整者と、『大いなる天主』の眷属の神様って仲良くないのかな。



その後、ホルアクティはうどんが出来るまでしっかり待ち(その間ダーツを楽しんでいた)、まあ悪くはないなと言いつつミズーが作ったうどんを四杯も食べてから帰って行った。


どこが味見なんだよ……。

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