第166話 隼の神

遊戯室の中央に突如として現れた光の球が、俺に向かって話しかけてきた。なんだ、これは。


「う~ん、俺はこんな光の球の知り合いなんていないはずだけどな」


独り言のように呟くと、光の球がそれに反応をした。


『確かにこの姿では分からぬか』


そう言うと、光の球から鳥のような形に変化していき、やがて嘴が黄色、羽と頭が灰色がかった黒で、お腹の部分が白い羽の鳥の姿になった。たぶん隼か鷹だろうか?

ただし、その大きさは二メートル以上ありそうなぐらい巨大鳥だが。ロック鳥か?


「いやいや、こんなデカくて言葉まで喋ることが出来る鳥の知り合いなんていないぞ」


『まあ、待て』


さらに巨大な鳥が形を変え、頭が同じような鳥で体は人間の、獣人らしき姿になった。鳥人間?? こんな神様をエジプト神話の方で見た事がある気がするな。 

ちなみに服装は映画とかで見かける、古代ローマ人が着ているような白いローブを身に纏っている。足元はサンダルか? エジプト神話っぽい神様が着るには似つかわしくない服装だ。


『この姿なら見た事があるであろう。天主様の使徒よ、息災なようで何よりだ』


「いや、見た事ないですよ」


『なにっ!? この光の質にこの姿を見ても分からぬか? こちらの世界に来る際に世話してやっただろう!!』


いや、頭が鳥の鳥人間なんて知らねえし、そもそも光の質ってなんだよ……? 鳥人間は嘴をカチカチさせている。


「ええと……?」


『魂の回廊よりお前の魂を引き上げ、天主様へ謁見させ、こちらの世界への転生の許可を得てやったであろうが。よもや、忘れたとは言わせぬぞ』


もしかして、こっちの世界に来る本当の一番最初、太いチューブの中をよく分からない状態で彷徨っている時に、引き上げた巨大な手の持ち主だろうか? そう言えば、その後手のひらの上に俺の魂?を乗せて『大いなる天主』っぽい存在にお伺いを立てていたな。


「もしかして、あの時の光る巨人ですかね?」


『そうだ』


「いや、でもこんな姿だったのかは分からないですよ。めちゃくちゃ大きかったですし、光り輝いてもいましたし。光の質に至っては何の事やらさっぱりです」


『ふむ……、そう言われればそうか。こちらの世界に元のまま顕現したら、星ごと崩壊しかねんのでな。力のごくごく一部を使って顕現しておる。それに、こういう事が出来る者も限られている』


……神を騙った怪しい奴じゃないだろうなこいつ。


「……なあ、ミズー。この神様?が言っている事は本当なのか?」


『うむ。紛れもなく「大いなる天主」の眷属である存在だ。お主らからすれば神の一柱と言ったところであろう』


言っていること自体は間違いでは無かったようだ。


「それで、神様?はどういった用事でこんな所までお越しになったのですか?」


『その事だ。「大いなる天主」様の命を受け、お前に神託を授けに来たのだ』


「わざわざ伝えに来てくれたんですか?」


『お前が神託を直接、精神に受け取る能力を持っていれば来る必要は無かったのだがな』


「それはすみません。わざわざ、どうもご苦労様です」


『うむ、感謝せよ』


目上に向かってご苦労とは何事だ! と謎マナー講師みたいな事は言いださないようだ。


「ちなみにお名前は?」


『ふむ……。心して聞き刻み込んでおくが良い使徒よ、こちらの世界での我が名はホルアクティだ』


ホルアクティか。こちらの世界、という言い回しが少し気にかかる。


「なるほど、それでホルアクティ様。『大いなる天主』の命とやらは?」


『うむ。心して聞くが良い、世にはびこるクサーヴ教を殲滅せよとの仰せだ』


聞いた事が無い名だ、クサーヴ教? 新興宗教か何かか?


「一応聞いておきますけど、そのお願いって断る事って出来ますか?」


そう言うと嘴をカチカチし始めた。さっきもやってたけど怒ってるのかな、これ。


『お前は天主様の有難い「加護」を畏れ多くも直接賜った使徒なのだぞ? 一も二も無く従うしかない! 下手に逆らったりしたらとんでもない目に合う事すらある、お前と天主様には繋がりがあるのだ、どうとでも出来る』


やっぱりそうだろうなとは思っていた。言う事を聞かないからお前は死ね!みたいな事を言われて、辺り一帯を巻き込んで爆死させられたら困るので従うしかなさそうだ。


しかし、『大いなる天主』の使徒であると同時に、ミズーの使徒でもある俺って改めてとんでもない存在だな。……まさかとは思うが、俺が気付かない内にこっそり契約してる奴とかいないだろうな? ああ、そういえば二頭いたな。


「それは失礼しました。それで、そのクサーヴ教ってなんですかね? 聞いた事が無いですが」


『クサーヴなる全知全能たる神をあがめる宗教だ、ここから南に行ったところで広まりつつある』


この南って事は、最近行ったザルツギッタン州だろうか。確かに通り過ぎただけだから、町がどういう状態だったのかは分からなかったな。


「そのクサーヴという神様は実在するんですか?」


『おらぬ。それゆえ、天主様が大変お怒りだ』


自分を差し置いて、訳の分からない神を全知全能たる神としてあがめるとは何事だ!?みたいな感じだろうか?


『神の名において、良からぬ事もしておる悪党だ。お前たちにとっても害悪な存在であるぞ』


「しかし殲滅しろと言われても私はただの薬師ですが」


『分かっている、なので天神教と協力して事にあたれ』


えっ、天神教!?

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