第140話 バーベキュー

「三部隊の状況を報告しろ」


「第一部隊、三名脱落しました」


「第二部隊、五名脱落しました」


「第三部隊、二名脱落しました」


「よろしい、どの部隊も九割以上は残ったのであれば上々だな」


「ユーグ王子のご指示通り、近隣の町や村で暴れ回れ。これは任務ではあるが、言っていた通り何をしても良い。では部隊ごとに任務に当たれ」


それぞれが暗い思惑を抱え、部隊ごとに分かれて歩き出した。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



レッタッケの町に滞在してから、はや三日だ。やる事も無いのでのんびりとした、悪く言えば暇で仕方がない生活をしている。俺とミズーはそんな感じだが、ジルは家の中で祭りで演奏する曲の練習をしたり、時々町の人と祭りの打ち合わせをしたりしている。祭りが始まるまでもうすぐだ。


今日はミズーと共に町のマーケットに出て、野菜を色々と買ってみた。夜にバーベキューするためだ。


辺りに人がいないのを見計らって、ミズーが話しかけてきた。


『この黄土キビというのは美味いのか?』


黄土キビはトウモロコシに極めて似た野菜だ、多分同じ物なんだろう。


「俺が元いた世界だとよく食べられていたぞ。醤油を塗って焼くと美味かったな。ポップコーンというのもある」


そういやポップコーンってどうやって作るんだったっけ、乾燥したコーンを炒るんだったかな。なんかアルミで出来た鍋みたいになっているのが売られているのは知っていたが、買った事が無い。


『ふむ、そうか。今晩に色々試してみようぞ。ああ、タイキとダイチも今日来るらしい』


「とすると、目立たないように深夜にした方が良いか」


『まあ、我らが喋っているのに気づかれさえしなければ良い。黙っておれば、一応は大川辺猫だ』


本当にそうか? と思う事も多いが。


「そう言えば町で聞いたが、ここでは米を潰したものを棒に刺して焼いたりもするらしいぞ。五平餅がこっちにもあったんだな」


『ゴヘイモチとは?』


「炊いた米を粒がなくなるまで潰して棒に付けて焼いた物の事だ。元の世界だと餅という似たようなのがよく食われていた」


『それもバーベキューするのか?』


「やるなら潰した米を作らないと駄目だぞ」


『時間はあるのだ、我らでそれも作ってみようではないか』


うどん打ちと言い、最近ミズーは料理に興味が出てきたような? 巨大料理猫爆誕か?


「そう言うならやってみるか、まずは米を炊かないといけないな……」



深夜になったので、家の外でバーベキューパーティーを始める。少し前にタイキとダイチも来た。炭から火を起こして、油を塗った網をレンガで出来たバーベキューコンロのような物の上に置く。


トウモロコシこっちだと黄土キビという名前だが、それの表面に醤油をまんべんなく塗って網に乗せ、焼き始める。


『おっ、なかなか香ばしい匂いがするじゃない』


『うむ、お主が拘っておったこのショウユというのは色々応用が効いて良い調味料だな。協力して作ってやった甲斐があったというものだ』


『……』


デカい猫三頭がお座りしてトウモロコシが焼けるのをじっと眺めている。米を炊いてから潰した物も作ってみたので、棒にくっ付けてから、表面に砂糖醤油を塗って網に乗せてみた。

少し粘りが足りない気がするが、やはりそれ用の米を使わないと駄目なんだろうな。五平餅ってよく知らないが、その名の通りもち米で作ってたんだろうか?


「こっちも美味しそうだね」


「焼けたら適当に取って食べてみてくれ。トウモロコシはもう良いんじゃないか」


すかさずミズーが掻っ攫い、ガツガツ食べている。よく見ると芯までバリバリと噛み砕いている。


『おお、この粒のような部分は美味いな。ショウユが香ばしくて良いぞ』


「ミズー、その真ん中の部分は硬いから普通食わないんだ」


『いやに硬いと思ったらそうであったか』


『うん、確かにこれは美味しいね。どんどん焼いていこうよ』


そう言うなら手伝ってほしいが。さっきからせっせと醤油を塗って、網に乗せてるのは俺だけなんだ。


『……』


ダイチは黙ってバクバク食っている。


「おい、俺とジルの分も残しておいてくれよ」


「トール、この五平餅っていうのもモチモチして悪くないよ。甘辛くて良いね」


五平餅もそれなりに美味しかったようだ。しかし、こういう事をやってると焼き肉のタレが欲しくなるな。あれはどうやって作るんだろう?



トウモロコシやら野菜やら五平餅もどきやらをワイワイしながら食べていた時だった、急にミズー達が山の方を気にしだす。


「何かあったのか?」


『数十の人がこちらを目指して歩いてくるようだが?』


「こんな時間にか? 害獣じゃないよな?」


『ヒトだよ、僕が見る限りでは武装してるみたいだけど』


念のため、近くに置いてあった愛用の槍を手に取った。


しばらくして、鎖帷子に黒ずくめの恰好をした数十人の人が姿を現した。どう見ても普通の集団じゃないな。


「なあ、そこにいる女、なかなか良い女だぜ」

「ここのところ女を買えなかったからな、楽しませてもらおうや」

「おいおい、お前らすぐ壊すんじゃねえぞ」


盗賊団か何かか? 槍を握ったまま様子を見ていると、こちらに話しかけてくる小柄な奴がいた。


「あん? お前、もしかしてトールか?」

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