第139話 後継者

王国軍が皇国軍によってズタボロに壊滅させられてから、少し経った頃オーリヤ・プリヴァの王宮にあるグレゴリの私室では、笑い声が響き渡っていた。


「ハハハハ、やはりあの豚王は無様に負けおったか」


「父上、戦死したとの報告も来ております」


「なんだ、皇国のために処刑する手間が省けたな」


ワインを片手に二人は笑っている、これでプリヴァ王国はモンドンヴィル王国になるのは間違いないと確信していたからだ。

その時、大勢の人たちがグレゴリの私室になだれ込んできた。


「なんだ貴様らは!! ここがどこか分かっているのか、身分を弁えぬ愚か者どもめ」


「もちろんここがどこかは分かっているつもりだ」


そう言って一人の男がかき分けて前に出てきた、ユーグ王子だ。


「こ、これはユーグ様。私に何か御用でもありましたか?」


「お前の目論見は分かっている。父を焚き付け戦争へと奔らせ、その責任を父と私にかぶせ、行く末はこの国の王となろうとしているといったところか?」


目論見がバレていたのか!? と、グレゴリは内心ひどく驚いたが、おくびにも出さずそれに応える。


「何をおっしゃいますか? 今までもこれからも私は王国ひいては王のために尽くしてまいる所存でございますぞ」


「なるほど、そうか」


ユーグが合図をすると一人の男が前に出てきた。


「(可愛がっている部下じゃないか!? 何をするつもりだ?)」


「グレゴリはそう言っているが真か?」


「いえ、グレゴリ様のご子息からユーグ王子の指示という事にして、何か良からぬ事をしているという話をこの耳で確かに聞きました……」


「ほう、グレゴリ。これはどういう事か詳しく説明してもらおうか」


「そ、それは……」


グレゴリは目が泳ぎ、じっとりとした汗をかいている。何とかして乗り切ろうと頭をフル回転して言い訳を考えていた時だった。


「くっ、くそおおおおお!! こうなったら死なば諸共だ!!」


グレゴリの息子が大声を上げ、腰にさしていた剣をかかげユーグ王太子に襲い掛かった。


「(ばっ馬鹿者が!! そんな事をしてはもう誤魔化しようがないではないか)」


ユーグも剣を抜き、グレゴリの息子の剣を容易に受け止めた。


「馬脚を現したと思って良いな、ふんっ!!」


そう言って、剣を跳ね上げ袈裟切りに切り捨てた。その場でぐしゃりと倒れ込むグレゴリの息子。それを見て、グレゴリは尻もちをついた。


「ひ、ひえええええ」


ユーグは剣を持ったまま、グレゴリの方に向き直り、じりじりと迫る。


「グレゴリ、最後に言い残す事はあるか?」


「お、お、お待ちくださいユーグ様!! 誤解です、私は王になろうとなどしておりません!! エドモン王が亡くなったのであれば、その後を継ぐユーグ様に誠心誠意お仕えいたします!! どうか!」


「それが遺言で良いのだな」


「たすっ……」


ユーグはグレゴリの首を容赦なく落とした。傍に控えている男から渡された布で血を拭い、剣を鞘に納めた。


「さて、まずは皇国との講和をなさねばならないな」


「おそらく厳しい条件を突き付けられるでしょう」


「向こうに非は全くない故、やむを得ない。出来る限り交渉して、講和条件を少しでもマシにするしかあるまい。とにかく皇国と早急に連絡を取りたい」


「ノルトラエとは多少、関わりがありますのでお任せを」


「ではお前に任せる。私の即位についてはどうする?」


老齢の執事がそれに応える。


「まずはエドモン王の死を確認し、それを知らしめねばなりません」


「皇国の兵器によって木っ端みじんになったようだが」


「別に遺体などなくとも良いのです、あの趣味の悪い鎧があれば十分な証拠足り得るでしょう。あとは、ユーグ様がお認めになられればそれで良いかと」


「よし、ではそうしよう」


「その後は即位式を形式だけでもやり、国民に広く知らしめるべきでしょうな」


「講和会議の前までに終わらせなくては。皆の者、今のを聞いたな? 各自手配を頼む」

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