第141話 部隊の末路(1)

「はて、どちら様でしょうか?」


「何だお前、俺の顔を見忘れたのか」


暴れ〇坊将軍みたいな事を言いだした男がこちらに近づいてくる。見ると、低めの身長に吊り上がった小さい目、上を向いている鼻が特徴的な男だ。こいつだけ装備がやや貧弱なのは何か理由があるのだろうか?


「トール、知り合いなの?」


ジルに聞かれるも、全く記憶にない。


「さぁ? こんな奴記憶にないな」


そう言うと、男が憤慨しながら叫び出す。


「てめえ、兄の顔を忘れやがったのかよ!! ノルン様だよ!!」


ノルン?? 兄?? あ~~、そう言えば俺が転移?転生?した元の体のトール君には王国に家族がいたな、よくよく考えるとこっちに来た初日に絡んできた奴がこいつだった。しかし、王国の人間が何故皇国にいるんだ? どうせ、良からぬ理由だろうが。


「ああ、思い出したよジル。こっちの世界の家族だわ。元々縁が薄いし、ロクでもない奴だったから完全に忘れていたよ」


「トールの場合、事情が事情だし仕方ないよね」


ジルと話をしていると、手に持ったこん棒のような物をこちらに向けてきた。随分粗末な武器だな。


「トール、てめえ家を追い出されてどこでのたれ死んだのかと思ったら皇国まで来てやがったとはな。しかも飛び切り良い女と一緒と来た。おい、その女は俺が貰ってやるからよこせ。そうすりゃ命だけは助けてやっても良いぜ」


「寝言は寝て言えよ、お前なんかにジルを渡すわけないだろ」


「んだと、テメェ!! じゃあ死んどけよ!!」


そう言って、こん棒を掲げて襲い掛かってきた。上段から振り下ろしてきたので槍で受けてはじき返し、胴に向かって力いっぱい槍で突いた。

姿勢を崩されつつもノルンは突かれる直前に、辛うじて槍をこん棒で受け止めようとする。


だが、こん棒はあっさりと破壊され、槍はそのままノルンの胴を深々と貫いた。粗末なこん棒では、俺以外にとって超重量物になってしまう特殊効果が付いているこの槍を止められるわけもない。


「ゴボァッ……、ば、ばかな……。トール……てめぇっ………」


悪態をつきながらノルンは絶命した。元の体からすると一応は家族だったが、特に思う所は無いな、死ねと言って襲い掛かってくる奴に手加減をする必要もない。もしかすると、元のトール君は悲しんでるかもしれないが。


槍をノルンから抜き、彼の服で刃についた血を拭い去る。この槍、手入れしなくても切れ味が落ちない優れものだが、後でミズーに出してもらった水で洗っておこう。


「は~あ、例の病気が蔓延した村の生き残りで、そこそこ活きが良かったし病気に耐性がついていそうだから、焼却処分せずに連れてきてやったが、やはり村人じゃこの程度か」


例のインフルエンザらしき病気は俺が元いた村で流行ったものだったのか。とすると、この世界の家族はもう全員死んでるかもしれないな。


「おい、この部隊で最も弱い雑魚相手とは言え、こんな寂れた町にいるにしては中々の槍の腕前じゃないか」


集団の中でも一番立派な装備をしている男が続けて話かけてきた、集団のリーダーか何かだろうか?


「だが、この人数を相手に戦えるとは思っていないだろう? これからこの町が地獄になるんだ。大人しくその女を渡して逃げ出すならお前だけは助かるかもしれないぞ、ハハハハ」


集団の男たちもそれに合わせて笑っている。


盗賊なのかどうかは分からないが、ロクでも無い集団なのは間違いなさそうだな。


「うーん、持ってる武器は質も良くないし、皇国製じゃないみたいだね。山を越えてきた王国出身の盗賊なのかな?」


そう言いながら、『加護』で連中が持っていた武器をいくつか鹵獲してジルが眺めている。自在にタキサイキア現象を起こす事で、他の人からは超高速に動いているように感じるジルの『加護』はやはり無双だ。


「なっ!?」

「俺の武器が!?」

「いつの間に!?」


その内の一人が激昂しジルに襲いかかる。


「黙ってりゃ良い気になりやがって女ァッ!!」


が、当然ジルは捉えられず、鹵獲された剣によって、文字通り目に見えない速度で胸を深く刺されその場に倒れ込んだ。


「盗賊かは分からないけど、町を地獄にするって宣言してるしロクでもない連中なのは間違いないんじゃない?」


「そうだな、ここで全員いなくなってもらう方が俺たちにも、この町にも、皇国にとっても良さそうだ」


ジルが気付かれない内に武器を鹵獲し、目にもとまらぬ速さであっさりと一人殺したのを見てか、集団は少し怖気づいているようだ。


『先ほどの小男は棒にもかからぬ雑魚であったゆえほっておいたが……、奴めの行動、そ奴らの言動、つまりはお主らの敵で良いか?』


「ああ、出来るのかはともかく俺を殺してジルをめちゃくちゃにしたうえ、この町を地獄にするらしいからな」


『では、手早く片付けようぞ』


俺の隣まで来て、エジプト座りしたミズーが前足を集団に向けると細い水のレーザーのような物が出た。そして前足を横に振ると水の線も横へ動き集団の首あたりを横に薙いだ。


「はっ??」


リーダーらしき男がそう言うと同時に、集団の首が一斉に落ち、血が噴き出す。ウォーターカッターみたいな感じだろうか、相変わらず調整者はデタラメだな。


『ゴミは片付いた、ばーべきゅーを続けるぞ。我は黄土キビが気に入った』


「噴き出してる血や死体がそのままは困るぞ」


『分かっておる。ダイチ、早々に片付けてくれ』


そう言われるとダイチが頷き、前足を集団の死体に向ける。間もなく、噴き出した血や死体が土へと変化していき全てが土くれとなった。いつ見てもヤバイ能力だ。


『僕の出番が無かったなあ』


『タイキ貴様そうは言いながら、トールと我らが色々やってる隙に程よく焼けた黄土キビとゴヘイモチを全部食いおったな!』


『へへへ~、バレたか』


「潰した米も下茹でしたとうもろこしもまだ大量にあるし、どんどん焼くから喧嘩するなよ。おい、そっちの玉ねぎも美味そうだぞ、焦げる前に食え」


玉ねぎはこっちの世界でも玉ねぎという名前だ。完全に同じ物かは分からないが、味や見た目は同じように見える。


しかしあの連中、盗賊団にしては全員の装備が揃い過ぎてた気がするし、自分たちの事を『部隊』と言っていたし、結局何者だったんだろう? 土になってしまった以上どうも出来ないし、まあいいか。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ななななな、なんなんだアイツらは!!!」


トールとジルヴィアに襲い掛かった集団の内の一人が、窪んだ所に立っていたため、たまたまミズーの攻撃を避ける事が出来、必死で息を殺し山の方へ逃げ帰っていた。


皇国と言えど、小さな町や村は非戦闘員しかおらず好き放題暴れられると聞いていたのに話が違う。深夜に何をやっていたのか知らねえが、俺たちと余裕で渡り合えそうな強い狩人らしき男女二人に、さらにはそれを上回るヤバすぎる害獣までいやがった。あのヤバい害獣を手懐けてるって事は、あの二人相当な実力者に違いねえ。皇国はそこらの村にこんなヤバい奴らがゴロゴロしてやがるのか!?


とにかく王国まで逃げ帰るしかない、山に入って害獣がいないルートを慎重に進む。


進んでいると前方からガサガサという音がする、このルートには害獣がいないはずだが……。すかさず身を隠すと、金色の毛皮を纏った害獣が現れた。


「(あ、あれはもしかして金色狼か!? なぜこんな所に)」


金色狼は俺の存在に気付いているのか、こちらをじっと見続けている。


「ガウッ」


小さい鳴き声と共に、一メート(メートル)程の金色狼がさらに三体現れる。


「ガウッ!」


その鳴き声と共に、三体の金色狼が襲い掛かってきた。


「待っ、やめ……!?」


大きな金色狼は俺には目もくれず、村の方をじっと凝視している。それが俺が見た最後の光景だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る