第135話 王国の為政者たち

時はトールがヘルヒ・ノルトラエで流行病対策をし始めた頃の事。ここはプリヴァ王国の王都、オーリヤ・プリヴァにある王宮である。


エドモン・プリヴァの機嫌が非常に良い。というのも、送り込んだ病人を数人ヘルヒ・ノルトラエに送り込めたらしいことが分かったからだ。


「グレゴリよ。貴様の思う通りに事が運んでおるようだな、グフォフォフォフォ」


そう言われて、王に向かって軽く礼をするグレゴリ。


「陛下のご賢察に従ったまでです、今しばらくすればヘルヒ・ノルトラエは死の街となりましょうぞ」


満面の笑顔で大きく頷くエドモン。


「うむうむ。でかしたぞグレゴリよ。ヘルヒ・ノルトラエが死の街となれば、いずれ東へ病が進んでいき、皇国がズタボロになるのも時間の問題と言うわけだな」


「ご慧眼の通りですな。では、そろそろ?」


「うむ、今こそ皇国を滅ぼす千載一遇の好機ぞ。軍の準備を早急にせよ!! もちろん朕が直々に最高司令官として軍を指揮する!!」


「ははっ!! 留守は私にお任せください」


深く礼をしながら、グレゴリは密かにほくそ笑んでいたその時、玉座の間に一人の男が入ってきた。ユーグだ。


「父上!! 皇国に攻め入るなどおやめください!! 多少の損害程度で揺らぐような国ではございません!」


「全く愚かよのう、ユーグ。重篤な流行病に、朕のように周りの村ごと人も物も全てを焼き払うような英断は皇帝ごときが出来るはずもない。なれば皇国で病が流行り、全てを滅ぼすのは必定。さらには巨大竜もまだ討伐できておらぬだろう。つまり、皇国と言えども甚大な被害を受けているのは火を見るより明らか! 今こそ歴代の王たち、積年の宿志を果たす絶好の好機なるぞ!!」


「父上、今一度御考え直し下さい!! 皇国はそんなに甘い国ではございません!!」


「くどい!! 下がれユーグ!! 好機も見抜けぬ愚か者めが!! なれば腰抜けのお前は帯同せずとも良い!! グレゴリ!!」


「はっ!」


「軍の準備が整い次第、国境の門へと攻撃。その勢いままにヘルヒ・ノルトラエへと侵攻、撃滅する!! 貴様はオーリヤ・プリヴァで待機せよ!」


「承知いたしました、こちらはお任せください。軍の準備を急ぎます!」


そう言って玉座の間から足早にグレゴリが出て行った。


「貴様もとっとと出ていけ、ユーグ。全くここまでの愚か者に育つとは、誰に似たのやら。おいっ、こいつを追い出せ」


その声とともに、近くに待機していた近衛兵たちがユーグの前に立ちふさがった。


ユーグは悔しそうな顔をしながら玉座の間から出て行った。

何とかしてエドモンを説得したかったが、もうあれでは無理だと諦めてしまった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「まったく状況も見えぬ、愚かな豚王だ。ハハハハ。この程度で皇国が大きく揺らぐはずがあるまい。万一、流行病で皇国が揺らいだとして病の特効薬や対策手段も持っていない我が国が攻め入って何とするのか」


グレゴリがワインを片手に私室で笑っている。隣に控えた若い男がグレゴリに尋ねた。


「父上、ここから如何なさいますか?」


「予定通り、例の部隊に山を越えさせ、皇国の町や村を襲撃させる。そうだな、ノルトラエ州はおそらく警備を相当強化しているだろうから、襲うなら北のニーザクセ州の規模が小さめの町村が良いだろう。強盗、強姦、殺人、思いつく限りの悪逆を尽くさせろ」


「誰からの指示と?」


「おいおい、私を心配させるな息子よ。当然、ユーグからの指示と言うに決まっておるだろう。いずれは皇国軍に滅されるだろうが、愚かな王のみならずユーグの責任も皇国に追及させるのだ。あわよくば、何名か捕まってくれればしめたものだ」


「そうなると次の王は」


「フフフ、そういう事よ。戦後交渉には私が出て、現王の一族は全て処断すると皇国に伝える」


「しかし父上。皇国が厳しい賠償を求めてくるのでは?」


「愚かな豚王なら難しかろうが、この私であればそれなりの条件で講和条約を結ぶのも容易い事、今の皇帝は穏和で大した事が無い奴だしな。そしてその賠償金のツケは愚民どもに回せばよい、我らの生活はそのままだ。

ついにプリヴァ王国はモンドンヴィル王国として生まれ変わるのだ! 初代の王は私、次代の王はお前だ」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



ユーグは悩んでいた、このままだと王国は滅んでしまうと。自分も含めた王の一族が滅ぶのは良い、だが国民がどうなるのかと。


「父上も父上だが、グレゴリの奴も止めもしない。奴なら皇国が多少弱ったところで、王国が到底かなう相手ではない事を知っているはずなのに」


ユーグの前に何人かの若い男たちが立っている、その内の一人が発言した。


「ユーグ王子、ここは王子が立つべきですぞ」


「父上もそれを分かっているのか自分の周りの防護を厚くしているからな……。私が死んでしまってはどうにもならない」


「では、王子。こうしては如何でしょうか?」



王国の為政者たちはそれぞれの思惑を元に動き出した。

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