第124話 ヘルヒ・ノルトラエ再び
ヘルヒ・ノルトラエへ向かって今日も西へと進んでいく。途中でヒルデスの町に立ち寄った。総合ギルドで聞いた感じだと新しい盗賊が出てくるような事も無く、盗賊騒ぎについては完全に収まっているようだ。
ついでにヨダ村にも立ち寄ってみたが、村にいたアリーセはだいぶ前に村を出たらしい。賞金首狩人になるためだとからしいが……、やはり思う所があったのだろうか。
ジーゲー州からノルトラエ州に入って最初の町に入る際、皇国管理区域を出る時以上に検問が厳しく敷かれているようだった。もちろん、主には出る側だが。
前と同様に事情とシュナイダーからの推薦状を見せるとスムーズに通る事が出来た。
この辺りの町については、ぱっと見た感じでは普通に生活しているように見える。まだ、ヘルヒ・ノルトラエだけで病気が流行っているのだろうか?
どんどん進んでいって、ようやくヘルヒ・ノルトラエに到着した。行きが一か月以上かかったのを考えると随分早く着いたもんだ。
ヘルヒ・ノルトラエの門では、かなり厳しい検問が敷かれている。シュナイダーからの紹介状を見せたりなど、手続きが終わりようやく町の中に入った。
町の中はやや閑散としていて、前にここに滞在していた時と比べて明らかに人通りが少ない。もしかしたら、外出について戒厳令を出しているのだろうか。
出歩いている人の中に、重そうな咳をしている人も時々見かける。結構蔓延しているのは間違いなさそうだな。
「ヘルヒ・ノルトラエに着いたけど、ここからどうするの? トール」
「とりあえず、ボトロックの屋敷に向かおう。大きな邸宅が並んだ貴族街みたいなところにあったはずだ」
うっすらと残っている記憶を頼りに、ヘルヒ・ノルトラエを進んでいく。大きな邸宅が並び、それぞれの家の前には衛兵が立っているのが特徴の見覚えがあるエリアに入った。しばらく進んで記憶にある家が見えてきた。
「ああ、多分あれだな」
二人と一頭で門に近づいていくと、衛兵が声をかけてきた。
「そこの者止まれ! ボトロック家に何用か?」
「私はトール・ハーラーという薬師です。アーブラハム・ボトロック卿とユライシャイア様より来るように言われております」
「何? 少し待て、確認する」
そう言って、一人の衛兵が屋敷の中に入っていった。俺が来る事が伝達されてなかったのだろうか?
程なくして、屋敷に入っていった衛兵が出てきた。
「確認が取れました。トール・ハーラー様とそのお連れの方、中にお入りになる前に伺いたいのですが熱が出ていたり、咳が出たりなど流行病の症状はありませんか?」
「見ての通り、そのような症状は出ておりません」
「承知いたしました、中にお入りください」
門から中に入り、屋敷まで歩いていく。屋敷の扉から中に入ると、白いブラウスに黒のロングスカートをはいたユリーが笑顔で立っていた。脇にはいかついおっさんのボルソンが執事服を着て立っている。
流石に家の中だからか、前に見た皮の鎧は纏っていない。
「トール君! 連絡は受けていたが、まさかこんなにも早く来てくれるとは! 私の推薦に少しは恩義を感じてくれていたか!」
「お久しぶりですユリーさん、ボルソンさん」
ユリーは笑顔で手を上げて答え、ボルソンは軽く会釈をした。ちらっとジルの方を見るユリー。
「そちらは?」
「こっちは私の妻のジルヴィアです」
ジルヴィアが黙って会釈をする。ユリーが少し驚いた顔をする。
「なんと! トール君は既に結婚していたのか。ユライシャイア・ボトロックだ、以後よしなに」
「こちらこそ」
「……しかしその大川辺猫はどうしたのかね? 随分懐いているようだが」
「東に向かって旅している途中に懐かれてしまいましてね、金糸を付けている通り飼育許可も得ております。こいつに乗って向かったので早く着いたのですよ」
「なるほどな。しかし、大川辺猫がここまで懐くとは珍しいものだ」
「それで私に助力を求めていた件ですが?」
「うむ、ここに来るまで街を見ただろう? 君の目から見てどうだった?」
「前に生活していた時と比べると、少し閑散としていましたね。皇国執行令で戒厳令でも出ているのですか?」
「その通りだ、未曽有の感染症で不要な外出は強く禁止されている状態だ。今の所は、経済も回っているが時間の問題だろう。詳しくは父の寝室で話をしよう」
「寝室ですか?」
そう聞き返すと、少し険しい顔をして顔を伏せるユリー。ということは……。
「そう、君が考えた通りだ。父は少し前に流行り病に罹患してしまったのだ。今は兄がボトロック家当主代行を務めている」
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