第123話 皇国管理区域を出る
赤い果実のパイは二個と言っていたはずだが、たまにしか来ないからもう一個といつものウザ絡みをされ仕方なく三個買い与えたのもあってか、今日もミズー号は絶好調で飛ばしている。
途中、オットヴァの町に立ち寄ったがウドは今でも同じ町で貴族をやっているようだ。早めの昼飯を取るついでに食堂で軽く聞いた感じでは評判も悪くない。戦闘においては頼りない奴だったが、文官としての適性は高かったのかもしれない。
シュナイダーとは違い用事も無いし、アポイントも無しに訪問してもアレなので、会う事はやめておいた。仕えてくれとまた言われても困ると言うのもある。
オットヴァの町を抜けぐんぐん進んで前に西から来た時に通った門にさしかかった、ここを出れば皇国管理区域外だ。特に皇都へ入る側だが以前と比べてかなり念入りに検問しているように見える。おそらくヘルヒ・ノルトラエの病気絡みだろう。並んで検問の順番が来るのを待つ。
「次の者、こちらへ。国民証を提示してくれ」
「はい、こちらです」
国民証を読み取り装置に置き、確認作業をしている。
「二人と、大川辺猫か。うむ、金糸が結ばれているという事は飼育許可済みだな。よろしい」
実際には前足に結ばれた金糸に見えるようにミズーが毛を変化させているだけだが。
「それで、お前たちはどこへ向かって旅をしているか聞かせてくれ」
「目的地はヘルヒ・ノルトラエです」
そういうと検問を担当している兵士が少し難しい顔をする。なので、さらに続ける。
「ヘルヒ・ノルトラエのボトロック家から依頼されて向かっております、私は四級薬師です。皇都の医師である、シュナイダー・フィツンハーゲン卿の推薦状もこちらに」
シュナイダーから貰った推薦状を兵士に見せる。推薦状を見て頷く兵士。
「……という事は事情は分かっていると言うことで良いか?」
「はい」
「承知した。通って良し、状況はおおむね知っているとは思うがくれぐれも気を付けなさい」
「ありがとうございます、では」
門を通って、しばらく行ってからミズーに乗りこみ快速で進み続ける。
「やっぱり軍にはある程度の情報が回ってるみたいだね」
「まあ、皇都で流行ったりしたらめちゃくちゃマズいしなあ。入る側の人はしばらく拘留されるみたいだったし」
門を出る時に見たが、皇都側へ入っていった人たちは兵士に連れられて全員どこかに行っていたからだ。前の屍人症の時みたいに一定期間強制隔離されるのかもしれない。
しばらく進んで、夜に差し掛かってきた。ヒルデスの町よりだいぶ手前だが、無理して急いでも仕方ないので今日はこの町で泊りだな。
酒場兼食堂のような所で晩飯を取る、ミズーは流石にフォークやスプーンを使うわけにはいかないので皿から直食いしてるが若干不満そうな顔をしている。
ジルと雑談しながら食事していると、少し酔っぱらった中年女性が話しかけてきた。装備と言うよりは普通の平服だし、この町に住んでいる人かな?
「見かけない顔だね。そっちの姉さんが楽器背負っている所を見ると、二人は旅の吟遊詩人夫婦か何かかい? 大川辺猫までいるからもしくは大道芸人とか?」
こういう風に話しかけられるのに慣れているのか、ジルが流暢に答える。
「こっちは薬師で、私は吟遊詩人ですよ。こっちの大川辺猫は旅の途中で彼に懐いてしまって飼ってるんです」
「へえそうかい、旅の途中でこの町にたまたま立ち寄った感じかあ。どうだい、お金は出すから一曲頼めないかい? 景気のいい曲を頼むよ!」
そう言って、銅貨を二枚(約二千円)テーブルに置いた。
「では、一曲ご披露しましょう」
ジルが楽器を弾き始めると、食堂の人たちがなんだなんだとジルに注目し始める。ジルは前に俺が教えた、『あんたは分かっちゃいない』的な曲を披露し始めた。楽器に合わせて編曲されているがやはり上手いな。
歌い終わると食堂中から拍手が響き、何人かはテーブルに硬貨を置きに来てくれた。感心しながらジルに聞く。
「旅してる時は、こんな感じで路銀を稼いでいたのか?」
「これもあるし、一応狩人でもあるから害獣を狩ったりとかもしてたよ。酒場だとたまーに変なのに絡まれるけど、絡まれたところで、ねえ?」
まあ、ジルのタキサイキア現象を起こすことが出来る『加護』に太刀打ちできる奴は皇国にほとんどというか実質いないだろうし。
「まあ、この感じなら歌だけでも食っていけそうだな」
「へへ、ありがとう」
もしかすると、今後立ち寄る町でもこんな感じで歌を頼まれたりするかもしれないな。
その後もう一曲と言われ、ジルからトールも一緒に歌おうよと言われたので、恥ずかしながら今度は『うっせぇうっせぇ』的な歌をジルとデュエットしたが、兄さんも悪くは無いがもうちょっと修行が要るなと言われてしまった。
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