第119話 ボトロックからの連絡

タイキ、ダイチと彼らが連れてきた調整者は遊戯室に残して、俺とジルとミズーで薬屋の方へ向かうと入り口のドアをドンドンと誰かが叩いている。


「トール様! エーファです、急ぎ伝えたい事が!」


エーファの事だから俺が家にいる事は把握してそうだし、居留守を使うのは無理そうだな。


「今開けます」


「すみません」


扉の鍵を外して、ドアを開ける。ドアを開けると、いつものつなぎのような作業着を着たエーファがお供を連れて立っていた。


「今日は定休日なんですが、何か御用ですか?」


「お休みにすみません、トール様。実は私がではなくてですね、ヘルヒ・ノルトラエから連絡が来ているのです」


後から聞くと、エーファが以前俺に持たせた遠くからでも文字で連絡できる金属板を、国からの要請で何個か作ってここザレや皇都、ヘルヒ・ノルトラエなど大きな都市の貴族に配っているらしい。

緊急連絡用として使っているようだ。ただ、あれは『加護』の力をかなり使うらしく、大きな精霊石を持っている大貴族のような人にしか使えないようだ。


しかし、ヘルヒ・ノルトラエから連絡? 連絡されるような覚えは無いけどな。ジルも同じような事を思ったのか、俺に尋ねてきた。


「トール、ヘルヒ・ノルトラエに知り合いでもいるの?」


「うーん、いなくはないんだが緊急で連絡するような事あったかなあ?」


「トール様、連絡してこられたのはアーブラハム・ボトロック様とユライシャイア・ボトロック様です。ご存知ですか?」


あー、ユリーとその親父か。


「ボトロックってノルトラエの業務貴族だったっけ? 知り合いなの?」


「正確には、ノルトラエ州の軍務の一部を担う七級業務貴族だったかな確か。知り合いと言うか、前に説明した通り俺は王国から皇国に移住したんだが、その際に推薦してもらったのがユライシャイア・ボトロックさんなんだ」


「へえ、移住推薦って結構面倒らしいのによくやってくれたね」


「向こうも何か思惑があってだろうと思うけどね、今回の連絡も関係してそうだな」


「そう言うわけですので、東都公邸まですぐお越し頂けますか? 父が待っております」


うーん、厄介事の匂いがぷんぷんするけど無視するわけにはいかないだろうなあこれは。


「仕方ない、東都公邸に行こう。ジルはどうする?」


「私も行くよ」


ミズーは言われなくても付いてくるだろう。タイキとダイチはこっちの事情には気づいているだろうからほっといても勝手に遊ぶなり、解散するなりするはず。


「ありがとうございます、馬車を待たせておりますのでこちらへ」



東都公邸に着くと、ドミニクが待っていた。


「トール殿、お待ちしておりました。ノルトラエのボトロックから急ぎの連絡が来ておりましてな」


「私宛の連絡でお手間を取らせました。それで、どういう内容の連絡ですか?」


「皇都からも情報が来ておるのですが、今ノルトラエ州では厄介な病気が流行っておるようで、それに関係する事のようです」


流行性の病気だろうか?


「という事は薬師の私に期待しての事でしょうか? しかしノルトラエ州は大きな州ですしヘルヒ・ノルトラエも大きい都市です。わざわざ私に連絡しなくとも薬業貴族の方や、市井の医師や薬師も大勢いらっしゃるのでは?」


「おっしゃる通りなのですが、ボトロックはトール殿に助けを要請しておるようですな。送られた文字を読み上げますぞ。

『トール・ハーラー殿に至急連絡願う。ボトロックが助けを請うていると。薬師の知識を持って疾病対策に手を貸してほしい、ヘルヒ・ノルトラエに来て貰いたい』との事です」


「うーん、なるほど」


腕を組んで考え込む。おそらく病気が何らかの厄介な物で、この世界にある従来の対策法では抑え込めていないのだろう、だから皇都にも連絡が行っている。

ユリーは俺が最上級の『薬師の加護』を持っている事は知らないはずだが、普通の薬師ではない事に薄々気付いている様子だった。


普通の医者や薬師では対応しきれないと見て、使えるものは何でも使えと、僅かな可能性にかけて俺を頼ってきたというのが実情だろうか? ユリーはこういう時のために移住推薦をしたんだろうしな。


「トール殿、どうしても嫌であれば要請を断る事も可能ではありますぞ。もしそうであれば、私の方から断っておきますが?」


「そうですねえ……」


確かに面倒だな厄介だなとは思うが、ユリーひいてはボトロック家には移住でお世話になって、皇国における俺の身元保証人みたいな立場だからなあ。

移住は出来たし後は知らん、で知らんぷりするのは人としてどうなんだって話だ。相手が貴族ということもあるし、後々の事を考えるとやはりここで恩は返すべきか。


俺の場合、ヤバイ伝染病であろうが『薬師の加護』で感染はしないしリスクは低いしな。


「ボトロック家には皇国への移住で世話になってますから無視するわけには行きませんね。分かりました、ヘルヒ・ノルトラエに向かいます」


「左様ですか、では私の方からそう連絡しておきます。しかし、使徒様とは言え病気は大丈夫ですか?」


「ええ、それに薬師として色々と対策を持ってますので大丈夫ですよ」


「馬車など必要でしたらこちらで手配いたしますが?」


「有難い申し出ではありますが、結構です。こいつに乗っていきますので」


「おお、調整者様はそんな事までしてくださるのですね!! 承知しました、お気をつけて」

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