王国蠢動編
第118話 悪意
ここはヘルヒ・ノルトラエから数キメート(数キロメートル)離れた山沿いの街道。
ノルトラエ州軍に務める軍人四人が、今日も日課の警邏を行っている。
「異常なし、これよりヘルヒ・ノルトラエに帰還する」
「了解」
「了解」
「了解」
いつも通りと言えばいつも通りだが、特に異常はなかった。
ついさっきまでは。
「!! 隊長、あそこに人が!?」
「急行する、続け」
山の方からヨロヨロとしたみすぼらしい人が二人が出てくるのが見えた。
「ヒュー…ヒュー…、ゴホゴホゴホッ!! た、たすけ………ゴホッ!」
「………」
見ると薄汚れた外套のような物を纏い、粗末な服を着た黒髪の中年男性と中年女性だ。夫婦だろうか? 二人とも見るからに体調が悪そうだ。
「その髪の色、王国人か? 見るに国境を許可なく越えてきた不法難民か」
「ゴホゴホッ、そうです……」
隊長は厄介なものが来たなと思った、ここノルトラエ州は門と高い塀がある平原部以外にも、険しい山を介してプリヴァ王国に隣接している事もありこういう事がごく稀にある。
山はかなり険しく、その上ランクが高い害獣が棲みついているので簡単には山を越える事は難しい。それでも、たまに山を越えてくる人が出るのだ。
なので、こういう事が起こった時の手順書は既に用意されている。一時的に拘留し、王国へ返還する事となっている。
「ヘルヒ・ノルトラエに連行する」
「はっ!」
隊長は手順書に従い二人をヘルヒ・ノルトラエに連行する事にした。隊長がやった事は何も間違っていない、ルール上も人道上も。
だが、そこに王国からの悪意がこめられている事には気づかなかった。そして、ヘルヒ・ノルトラエが危機的な状況に陥るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大地の竜騒動からしばらく経った。
今日は薬屋の定休日だ、まあ定休日以外も今日はダルいから休んじゃおう的なノリで休みにすることもままあるわけだが。
それなりに金もあり、仕事を頑張る理由もない。あくせく一所懸命に働いてどうするのか。
今日は離れの遊戯室でダーツ大会が催される。二人でタッグを組んでカウントアップで勝負する大会だ。
別に俺が開催した訳でも何でもなく、ダイチがやりたいとやたら押してきたからだ。麻雀でミズーにやりこめられまくってるのに内心思う所でもあったのだろうか。
具体的には俺とジルが夫婦コンビで、ミズー・タイキ・ダイチは別の調整者を連れてくるらしい。
ウチの遊戯室がどんどん訳の分からない調整者のたまり場になりつつあるのは非常に気になるところだ。
『我はヴァンド湖の調整者を連れてきたぞ』
だいぶ前に、ヴァンド湖で色々あった時に出会った、白くぼやけたような女性のようなシルエットの調整者だ。
『トゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥ様、御指名頂き光栄です。今日はお任せください』
『うむ、頼りにしておるぞ』
「ミズー、こんな事のために湖の調整者を連れてきて良いのかよ」
『短時間であれば構わぬ、さらに言えば何かあればすぐ戻れるゆえ』
『儂は森の調整者だ』
ダイチが連れてきたのは、少し前に見た全身葉っぱの調整者だ。
『♀●>×&◎♯』
『うむ』
何と言っているのか相変わらず全く分からない、多分頑張るぞい!みたいな事を言ったんだろう。
『僕は部下とも言える調整者がほとんどいないから困っちゃうんだよね。とりあえず連れて来はしたけど』
『……』
タイキはもくもくとした白い煙のようなものを纏った人型の何かを連れてきていた、前に映画で見たマシュ〇ロマンに似ているような?
「トール、やるからには勝ちたいね」
ジルはやる気満々だ、彼女は割と体を動かす系の遊戯が好きだからな。ちなみに、俺も大学生時代にダーツは結構やっていたからそれなりに自信はある。ただ、やっていたのはソフトダーツで、ここではハードダーツだから少し勝手が違う。
「じゃあ、始めるか」
何度かやって、ダイチがやたら上手いので大地の調整者コンビが強い。次点が俺とジルのコンビだ。
『ぐむう……、腕さえ伸ばせれば……』
ミズーはダーツはあまり得意ではないのもあり勝てず、悔しそうだ。
『僕もダーツは何か上手く出来ないんだよね、ダイチはホント上手いなあ。ビリヤードなら僕が強いのに』
タイキはいつも通り飄々としている。
『……次だ』
いつもと表情はあまり変わらないダイチだが、少し嬉しそうに見える。ここで麻雀の憂さ晴らしをするつもりのようだ。
仕方ない、ダイチが満足するまでやるかと思った時だった。
ドンドンという何かが叩かれているような音が遠くから聞こえる、薬屋の扉が叩かれている?
「トール様!! エーファです、急ぎの用事がございます。いらっしゃいませんか?」
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