発明女王とその軌跡

「さあ、本日も始まりました『皇国偉人伝』。偉人案内人のマスオース・オルモです。」


パチパチパチパチパチ!!


「先週は、今を持ってなお皇国の治安向上に影響を及ぼしている偉大な賞金首狩人『死神アリーセ』をご紹介いたしました。

さて、今週紹介するのは……。その前に皆さんは『エアコン』や『冷蔵庫』や『掃除機』をご存知ですか?

おそらくご存じない方はいらっしゃらないでしょう、今日の便利な道具ですから」


「それらの便利な道具、実は同じ人が発明した物なのです。その偉大な発明家の名前は……『エーファ・アーヘン』その人です。

今晩ご紹介するのは皇国の偉大な発明女王『エーファ・アーヘン』その軌跡です」


「その他にも『砲』などの兵器の発明にも関係していて、過去の王国や小国群からの侵略に対する防衛にもこれらの兵器が大活躍しました』


「さて、そんな天才発明家エーファ・アーヘンを生まれから追っていきましょう。まずは、こちらの映像をご覧ください」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「エーファ・アーヘンはその姓の通り、アーヘン州の領主とその正妻の娘として皇国歴……年に産声を上げました。

生誕後ほどなくして、エーファ・アーヘンが『老若の加護』を授けられた事が分かり、生まれながらにして祝福を授けられた子として可愛がられたそうです」


「また、幼少期から非常に賢く、子供の頃から科学の知識を凄い勢いで吸収していき、七・八歳になる頃には大人も舌を巻くまでになったという事です。このようなやりとりがあったと記録されています、再現映像をご覧ください」



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三人の家族が話をしている。


『お父様、我らが住んでいるこの地は実は丸い球体なのではないでしょうか? 高い山々からその大きさを推察する事も出来ると思います』


『なんと、エーファ賢い娘だ。私と妻に似たのであろうな』


『仰る通りですわ、ドミニク様』


……


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「こうして周りの期待を受けながらも、すくすくと育っていきました」


「そしてしばらくして、皇国にて新しい皇帝陛下が誕生しその即位式に父であるドミニク・アーヘンと共に皇都で行ったエーファ・アーヘンは何かのきっかけで発明に傾倒していくようになります。こちらも再現映像をご用意しました」



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皇帝の即位式を、真剣な表情で見つめている少女と偉丈夫。


『皇帝陛下、なんて神々しいお姿なのでしょう。私も学問と言う分野でお支えしたいですわ、お父様』


『おお、エーファよく言った。流石は我が娘よ』


……


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「それもあってか、成人する前に皇国の学問機関で学び、皇国加護研究所に所属していた時期もあったそうです。この時期に、『精霊石』を動力とした自動車を発明しています」


オ~~~! ザワザワ………。


「当時は動力として利用できるのが、いわゆる『加護』の力を充てんした『精霊石』のみであったため、あまり利用している人は多くありませんでしたが、今日当たり前のように利用されている自動車の前身である事は疑いようもない事実なのです」


「何かのきっかけがあったのか、当時は最先端の科学を研究していた皇国加護研究所を辞め、彼女の生まれ故郷であるアーヘン州に戻ってきたと記録されています」


「その後しばらくは東都ザレの公邸で過ごしていたそうですが、何故か市井にて生活を始めます。この理由については未だに不明で、公文書にも記録は残っておりません」


「しかしながら、市井にて生活を始めた事で何かひらめきを得たのか、驚くべき快進撃を始めるのです」


「とその前に、後援企業の広告をご覧ください」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



『この冬、チョコレートと干しレムシャンをふんだんに使った特別なケーキが発売! 是非、ご家族でご賞味ください! レムシャン・キルシュトルテで家族を笑顔に!!


~お菓子と言・え・ば! ハイデンホーグにお・ま・か・せ!~』



『一々洗剤を入れるのが面倒ではないですか? 新型洗濯機は予め洗剤を入れて置けば都度都度の洗剤投入の手間が省けます! 楽になるねぇ~~~!


~くらしをあらため、新しい幸せをご提案します、エルファト株式会社~』



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「さて、エーファ・アーヘンの快進撃をご紹介する前に当時からしっかりした特許制度が皇国にはあった事をご存知でしょうか?

当時の文明からすると確固とした特許制度が設立されていた事は驚きですが、とある皇帝が突如思いついたとかで提案したそうですよ」


「我が国の皇帝は皆様もご存じの通り、代々最も優秀な者が次代皇帝になる仕組みですが、時々文明を一足飛びにする賢帝がいらっしゃったようですね。例えば今でも使用されている計測単位を定めた計量帝もその一人です」


「そう、その特許制度にエーファ・アーヘンが次々と画期的な発明を登録し始めるのです」


「その筆頭となるのが、一家に一台あるでしょう『エアコン』です。今や建物という建物にあって当たり前ともされる温湿度調整機の事ですね、後日の取材でご本人からは突如ひらめいたとの事ですが、何故『エアコン』という名前にしたのか不明です。

その他にも、冷蔵庫や掃除機なんかもエーファ・アーヘンの発明品ですね」


エー、スゴーイ!! ザワザワ……。


「ここで不思議なのが、エーファ・アーヘン単独で出願・登録をしていないと言う点です。もう一人出願人がいます。ですが、皇国貴族である特権を使ったのか出願人の素性については秘匿されております」


え~~? ザワザワ………。


「エーファ・アーヘンは今日に至るまで公的には独身ですが、もしかすると公私を共にする相棒がいたのかもしれませんね。

『老若の加護』を持っている彼女と共に過ごせるような人、もしいるとしたらどのような人なのか知りたい気もします。見目麗しい彼女に相応しいのはこんな人かもしれません」



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金髪ロングヘアーの線の細い優男系イケメン、筋骨隆々の赤髪のワイルド系イケメンが画面に向かって呼びかける。


『『エーファ、僕と一緒になってくれないか……?』』


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キャーッ!!


「皇国では特許有効期限が長い事もあり後年になって、エーファ・アーヘンは特許使用料による莫大な収入を得る事になります。ただ、彼女はお金にそれほど興味が無いのか、その多くを慈善団体に寄付しているようですね。

先週紹介した『死神アリーセ』が設立した『アリーセ財団』にも莫大な寄付をしています」


「エーファ・アーヘンは『老若の加護』を授かったのもあり今も元気に発明をされているようです。最後に、過去実施された貴重なエーファ・アーヘンの取材映像をご覧いただきになってお別れとさせていただきます」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



『エーファさんにとって発明とはなんですか』


『生きがいですね。発明があって私があり、私があって発明があるのです』


『……なるほど、しかしここまでなされてきた画期的発明の数々。ご自身でも天才だと思われているのでは?』


『いえいえ、天才は他にいますよ』


『というと?』


『言葉の通りです、それ以上を説明する気はないですね』



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「笑顔が眩しいエーファ・アーヘンですが、この取材からやはり謎の相棒の存在が類推できますね。次週は人物に焦点を当てずに、皇国における疾病対策や衛生意識の向上にもつながったとある重大事件について深く追究していきます」


パチパチパチパチパチパチパチ!!

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