第116話 皇国にて
ここはゾーゲン皇国、皇帝の私室である。
部屋にある立派な造りの椅子に、皇帝であるニクラウス、軍務卿のマルセルと内務卿のバルタザールが腰掛け話し合っている。
「……という事となり、なんとか巨大竜を討伐する事が出来ました」
「巨大竜の討伐の件、真にご苦労であったマルセル。皇都が蹂躙されずに済んだのは勿論だが、皇国軍や狩人たちに死人が出なかった事が何よりだ」
それに応えて軽く頭を下げてから、マルセルがさらに続ける。
「お褒めにあずかり光栄です。殿として残したエリーアス中隊がやってくれました、目や口の中に砲を打ち込むことで損害を与える事に成功したようで」
「なるほど、果敢に挑んだエリーアスとその中隊には十分な褒美を取らせてくれ。しかし一つ疑問なのだが」
「とおっしゃると」
「貴殿の報告にもあったが巨大竜には複数の砲による連続攻撃や、皇国でも指折りの狩人の強力極まりない攻撃ですら全く通じなかったと。そんな相手の目や口の中に攻撃したぐらいで殺せるものなのか?」
「そこは私も疑問に思っていた、どうなんだマルセル」
二人に聞かれたマルセルは難しい顔をしながら答える。
「実は私も疑問には思っておりました。調べると目や口の中に多少の損壊は見られましたが致命傷かと言われますと……。」
「もちろん、エリーアス中隊の功を無しとするつもりはない。ただ、根本に違う原因があるなら追究すべきと思っているだけだ。再度現れても困るからな。皇国加護研究所は調べなかったのか?」
「巨大竜の死を確認してから皇国加護研究所に連絡し、調査隊を派遣させはしたのですが……」
「何かあったのか?」
「巨大竜が死んでから二日ほどで、死体が全てが土くれへと変わってしまったのです」
「なんと! それは一体どういうことか?」
「調査隊も目を丸くしておりました。おそらく巨大竜は通常の生物ではなく、加護を与えし神や調整者が関わる存在の可能性が高いと推測はしているようです。
現在もその土くれを調べてはいますが、今のところは特別な成分が見つかってはおらぬようです」
「ふうむ、珍妙な事だな。その土はどういう物なのか?」
「加護の力は含んでおらぬようですが、非常に栄養豊富な土で作物を育てるのに向いていると」
「そうか、今回の出動にかかった費用を竜の素材で賄えるかと思っていたが算段が外れたな。やむをえないか、バルタザール?」
バルタザールが頷いている。
「幸い死人も出ず早めに処理が出来ましたゆえ、出動にかかった費用や被害の損失については、予備費で余裕をもって処理できましょうぞ。全く問題ありません」
「ならば良し。そう言えば、南の方は作物がやや不作で景気動向が若干良くないのではなかったか?」
「仰る通りです」
「では、これを機に被害があった地域を中心として、辺りの建物や道の再整備を国とレッリンハウゼの主導で行うのはどうか?」
「工事による事業で、レッリンハウゼ周辺の金を回すという事ですな。予算的には問題ありませんし、よろしいかと」
「諸々の手筈はバルタザールに任せる、レッリンハウゼ卿と調整して進めよ」
「承知いたしました」
「マルセルは軍務とは少し離れるが、巨大竜の死体だった土くれの調査を皇国加護研究所と共に念入りに行ってくれ。特に余は巨大竜が再度現れる事を懸念している」
「かしこまりました」
「バルタザール、巨大竜討伐については皇国民に知らせるべきか?」
「既に地を進む竜という存在が市井に広まっておるようです、大々的に討伐の発表をなさるのが良いかと」
「協力してくれた狩人たち、皇国軍、そしてトドメはエリーアス中隊の尽力によりなされたと発表するか。被害の損失は国が全て補填する旨も合わせてな」
「よろしいかと、そちらの手筈も進めておきます」
「うむ、頼んだ」
主にはトールとジルヴィアの活躍によってだが、大地の竜による被害は皇国にとって極めて軽微で済んだ。
皇帝の意向もあり、皇国加護研究所が主体となって大地の竜の死体だった土くれを調べるだけ調べたが、結局めぼしい情報は得られなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます