第117話 王国にて
ここはプリヴァ王国の王都、オーリヤ・プリヴァにある王宮である。
プリヴァ王国は完全な世襲で基本的には歴代の王の長男が、代々王を引き継いでいっている。
現王であるエドモン・プリヴァも同様の王である。男はキラキラ光り輝く宝石がついた指輪をいくつも指にはめ、金糸をふんだんに使った服を纏い、ギラギラと脂ぎった黒髪にでっぷりと太った体をさらしていた。
そのエドモンが王宮の一番上に存在する玉座に行儀悪く座っている。
「グレゴリ、皇国は例の竜に蹂躙されボロボロになっているというのは真か?」
恭しく礼をしてから、筆頭大臣たるグレゴリ・モンドンヴィルが答える。
「ご慧眼です、国王陛下。数十メートにも及ぶ竜ともなれば、いかに皇国と言えども簡単に討伐は出来ますまい」
「だろうな、であれば今であれば我が国であっても皇国を滅ぼし得るのではないか?」
「可能性はありますかと」
「そうかそうか、グフォフォフォフォフォ」
国王が愉快そうに笑っている。グレゴリの口の端にも笑みが浮かぶが、それは嘲笑にも見えた。ちょうどその時、玉座の間の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「父上! 巨大竜に蹂躙されているとは言え、皇国は強大な国です! 我が国の国力では遠く及びますまい!」
国王がめんどくさそうに男を見据える。
「相変わらず細かい男よのう、ユーグ」
「皇国とは今のところは表立って敵対しているわけではありません。あくまで協力していくべきかと存じます」
「は? ユーグ貴様はご先祖様に恥ずかしくないのか? 歴代の王は皆、隙あらば皇国を簒奪せんと燃えていた者ばかりぞ」
「しかし父上!」
「まったくいつもうるさいのお、お前は。そんなに神経質だから髪が薄くなるのだ。グフォフォフォフォ」
それを聞いたユーグは怒りで顔が赤くなる。
「私の髪は関係ありません! それよりも……!?」
「分かった分かった、お前の意見も考慮に入れてやるからさっさと下がれ」
エドモンは心底鬱陶しそうな顔をして、ユーグに向かってシッシッと手を払った。
「ユーグ様のご意見もごもっともですが、王とて考えなく仰っているわけでもないのです。ご理解ください」
グレゴリにも言われ、ユーグは部屋から出て行った。扉が閉まるのを見てからエドモンがグレゴリに問いかける。
「ユーグの意見はどうなのだ、グレゴリ。巨大竜と我が国の精鋭両方を相手にする余裕があるとは思えぬし、隙あらば四つ耳どもの小国群とて攻め込む可能性もあろうぞ?」
「確かに皇国は強大ですからな、ユーグ様が御懸念なさるのももっともではあります。では、念には念を入れると言うのはいかがでしょうか?」
「ほう、念には念をとな。そこまで言うからには具体的な妙案があるのか?」
「いかにも。例の村で発生したアレを使おうと思っているのですが」
エドモンの顔が醜悪な笑顔に歪んだ。
「ほう、アレか。体よく送り込むと言うわけか?」
「流石は王、ご賢察でございます。アレであれば、我が国の懐も兵も傷みませんが皇国の力を削るにはもってこいでありましょうぞ」
「よかろう! 諸々お前に任せる。見事、皇国の力を削って見せい!」
「ははっ!」
恭しく礼をしながら、王が見ていない所で歪んだ笑みを浮かべるグレゴリなのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
自分の部屋まで戻ったユーグ、お付きの者と相談している。
「まったく何故父上はああも愚かなのか、我が国と皇国では赤子と成人ぐらいの力の差があると言うのに。成人が病気で調子が悪かろうとも、赤子の腕をひねるぐらい造作もない事なのは誰でも分かろうぞ」
白いひげが目立つ、老執事がうっすらと笑いながら答える。
「先代の王も、エドモン様とよく似ておいででしたぞ」
「どうにもならないな。仮に皇国へ侵略するにしても、まずは我が国の国力を上げる事が先決。政治・経済・軍事全てにおいて良い状態ではない。
今は皇国と敵対せず、むしろ利用して国富に務めるのが筋であろう」
「そう考えるユーグ様の方が珍しい存在なのです」
「万一、父上が皇国に攻め入るともなれば、どんな手を使ってでも止めねばならない。今、皇国と争えば王国は滅亡させられるだろう。
グレゴリに諭されて余計な事をしなければ良いのだが」
結果としては心配していた通りになってユーグの苦悩は、これからも続くのだが。
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