第115話 顛末と怒られる猫
エルヴィンが朝目覚めると、エルヴィン達狩人と皇国軍が駐留していた町が何やら騒がしい。何かあったのだろうか?
クララら『白銀』のメンバーと外に出ると、皇国軍の兵士たちが慌ただしく動き回っている。
この町に巨大竜が着くまではだいぶ時間がかかるはずだが、急な動きでもあったのだろうか?
周りを見るとフォルクマー達、他の狩人たちも戸惑っているようだ。
そうこうしていると、兵士が伝令して回っているのが目に入った。伝令兵がエルヴィンの近くに寄ってくる。
「ああ、『白銀』のエルヴィン様ですね。急遽お伝えしたい事がありますので、向こうの天幕までお集まりいただけますか」
「承知した」
「では、お願いします」
伝令兵は他の狩人たちにも同じことを伝達して回っているようだ。エルヴィンに気付いたフォルクマーが声をかけてきた。
「朝から騒がしいみてえだけど、何かあったのか?」
「いや、俺も分からない」
「向こうに集まれとの事みてえだが……」
「とりあえず行ってみよう」
天幕には前のブリーフィングに集まった狩人たちが揃っている、ビルギッドは大あくびをしている。
集まった狩人たちは皆戸惑ったような様子をしている、誰も事情を知らないのだろう。
天幕内にマルセルが入ってきて、前壇に立った。一気に静かになる狩人たち。
「急ぎ集まってもらって感謝する。急遽報告する事が出来たのだ。結論から言うと、我が軍の中隊が巨大竜の討伐に成功した」
その声に一気に騒がしくなる天幕内。エルヴィン自身も驚いた、あれを中隊ごときが倒せるはずが無いと。
「諸君が信じられないのももっともだ、私自身も驚いている。この後全軍で巨大竜の元へ向かい、討伐を確認する予定である。
狩人諸君も助力いただける者がいればついてきてもらいたい」
クララが小さな声で話しかけてきた。
「エルヴィン君、中隊ぐらいがあれを倒せるものなのかな?」
「いや、ペトロネランやビルギッドを上回る攻撃が出来る者など中隊にいなかったはずだ」
「とすると?」
「君が視た『金と銀』が秘密裏に竜を討伐し、その功を上手い具合に中隊が掠め取ったという所じゃないか?」
「やっぱりそうなるよね」
エルヴィンとクララが小さな声で密談していると、急に大きな声が響き渡った。
「ええ!? じゃあ報酬はどうなるのさ?」
見ると、さっきまで大あくびしていたビルギッドがマルセルに質問をしたようだ。
「もしかすると貴殿や他の狩人たちの攻撃が後になって効いてきていた可能性はあるが、あくまで討伐したのは我が軍の中隊だ。よって、参加報酬のみの支払いという事になる」
「ええ~~~~!? でも、まあ仕方ないか。あたいの攻撃で直接倒せたわけじゃないしね。まだまだ鍛え方が足りなかったって事。参加費が貰えるだけ御の字だね、大人しく帰る事にするよ。討伐の確認は遠慮させてもらう」
「ならば、表の兵士による参加確認の後、報酬を受け取って帰ってもらって結構だ」
ビルギッドとバルトロメウスが天幕から出て行った。それに続くように何人かの狩人も出て行った。
「エルヴィン君、私たちはどうするの?」
「本当に討伐できたのか気になるから見に行きたいと思うが、皆はどうか?」
それを聞いて『白銀』の面々は黙って頷く。
「決まりだな、しかしこんなに早くあれを討伐できるとは。一体何者の仕業なのか」
「……例の薬屋だったりして、ジルヴィアさんは銀髪だったよね」
そう言いながら、クララが笑う。それを聞いたエルヴィンは苦笑いをする。
「トール殿は金髪でも無いしあれを倒す事は出来まい。ジルヴィア殿はかなりやるようだが、それでもただの人間それもたった二人だ」
しかし、何者が討伐したにせよ皇都や東都が巨大竜に蹂躙されることがなくなったのは良かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大地の竜を討伐した次の日の夜、ミズーとタイキが遊戯室で話をしている。
『今回の一件は、祖も含め我ら調整者の不備ぞ。トールとジルヴィアが何とかしてくれたから良かったが、よもやの事態もありえたな』
『ほんと良かったよね~。トールは「加護」の力も凄いけど、前の世界の知識も有用なのが分かったね』
『然り、これは我らの「借り」だな』
『何かで返せたらいいけど、トールって便利な生活環境でのんびり暮らせればそれで良いって考えで無茶な要望や要求をして来ないからなあ。あったとしても自分で何とかしちゃうし、ジルヴィアまでいるともう大体の事は出来ちゃうよね』
『うむ、まあ何かあれば返せばよかろう』
『そうだね』
話をしていると、地面がボコボコと沸き立ちダイチがそこから現れた。
『おお、ダイチ。どこに行っておったのだ』
『……祖がお目覚めになった』
『なんと、少し早くはないか?』
『……今回の一件で』
『なるほど、それで早くお目覚めになったのか。して、何とおっしゃっていたのか?』
『まずはトールとジルヴィアに感謝と、直接褒美を取らせたいと』
『おお、祖はそこまでおっしゃっていたか。しかしどうやって褒美を?』
『ミズー、そろそろアレの時期が来る頃じゃない? 多分、トールとジルヴィアも呼ぶんじゃないかな。しかし祖のご褒美ってなんだろう、またトールの寿命が延びたりして、ハハハ』
タイキにそう言われて、合点が行ったという表情をするミズー。
『そう言えば、そろそろアレであったな。してダイチよ、その他に何か仰っていたのか?』
それを聞いたダイチがじっとミズーを見つめている。
『?? なんだダイチ、我に何かあるのか?』
『……大地の竜の原因は、トールとジルヴィア』
『なんだと!? 二人に何か問題でもあったのか!?』
黙って聞いていたタイキ、上を向いて考えていたようだが考えがまとまったのかミズーを見据える。
『……あのさああれから考えてみたんだけど、トールとジルヴィアってどちらもこの世界にとってかなり特異な存在じゃん? その二人が出会うだけなら良いけど、出会ったその日に次元の翁が現れて、その後急に二人とも発情して性交して結婚して一緒に暮らし始めたよね?』
『……………よもや?』
『そう、時間をかけて一緒になるなら良いけど、突然そんな事になるのは世界にとって不自然だと判断されちゃったのかもしれないね』
『ぐぬぬ……』
『この大陸が小さいからだと最初は思ってたけど今回の大地の竜が小さめだったのも、きっかけが二人だけだからじゃないかな。近くに来るまでトールとジルヴィアが感知出来ないのか、ヒトが多い所へ向かって行っていたみたいだけど。それでさ、その根本原因は?』
『…………つまり我が原因か』
ここまで黙っていたダイチが口を開く。
『……それゆえ、祖がお前をお呼びだ』
『……祖も我のせいだと?』
黙って頷くダイチ。ガックリと項垂れるミズー。
『……いない間トールはタイキが保護せよとの事だ』
『あはは、これはミズーが悪いよ。祖とお話してきな。僕もトールと契約はしてるから保護役するのは不自然じゃないし』
『…………分かった、トールとジルヴィアを頼んだぞタイキ』
『しっかりね、ミズー』
ミズーは霧のようになり、窓から出て行った。タイキが笑いながらダイチに話しかける。
『いくらなんでも二人の件は性急すぎたよねえ。ミズーってとにかく結果を急ぎたがるから、これを機に自分を見つめなおさないとね。ハハハハ』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
珍しく朝早くに目覚めたのでそのまま起きるとミズーがおらず、その代わりにタイキがいた。勝手に俺とジルの朝食兼昼食用パンを食べ炭酸飲料を飲んでいたタイキに事情を聞くと、ミズーは祖に呼ばれたためここにおらず、その間のボディガード係をタイキが務めると言う。一言声をかけて欲しかったが何か事情でもあるのかもしれない。
タイキをあまり表に出したくないので、当日は臨時休業とした。
程なくダイチもやってきたので、麻雀したりのんびりしたりして過ごしていた。深夜になってミズーが戻ってきていた。
戻ってから数日ミズーはずっと何故か落ち込んでおり、それもあってか体のサイズも一回り小さく見えたが、祖からお叱りでも受けたのだろうか?
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