第114話 竜の死と目くらまし

ミズーがじっと大地の竜を見ている。


『お主が注入した毒が全身に回っていっておるようだ。お主の計算が合っておれば死ぬはずだが』


「そうなってくれる事を祈るよ」


急にタイキがピクリと反応し、大地の竜の頭の方を見出した。


「タイキ? 何かあったのか?」


『よく分からないけど、大勢の人間がこちらに向かってきているようだよ』


「皇国軍かな? 倒すのを諦めて戻ったんじゃなかったのか」


『どうだろう、僕にもよく分からないよ。ちなみにこの毒殺ってトールがやったってバレても良いの?』


「良くない、変に目立つのは避けたいからな。とっととここから離れよう」


『よし、我の背に乗れ。さっきの高台に戻るとしよう』


俺とジルを乗せたミズーは凄い速度で走り始めた。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



エリーアスは昨日、巨大な竜に圧倒的な力の差を見せつけられた。だが、このまま諦めては我らの皇都があの竜に皇都が蹂躙されてしまうのだ。

自分の命を賭しても竜をなんとかしたいその思いで燃えていた。


エリーアスを始めとする中隊は、巨大竜を攻撃できるなら攻撃、適宜状態を報告するために現地に残された皇国軍だ。

巨大竜はあれから朝になったらゆっくりと移動し、夜にはやはり動きを止め寝だしたようだ。


「隊長、また攻撃するのですか?」


「諦めきれない、砲で再度攻撃してみようと思う。矢では通じなかったが、砲でなら目や口内に有効な損傷を与え得るのではないかと思ってな。

砲の弾を持ち歩いたところで打開する事もあるまいし」


「承知いたしました、我らは隊長についていきます」


「よし、奴が寝たら俺が囮になって口の付近で攻撃をする。奴が起きて口を開けたり目を開けたら砲を打ち込め」


「隊長自ら囮になられるのですか?」


「俺に砲は打てない、ならこの中で一番単体戦闘に長けた俺が囮になるのが妥当だろう。安心しろ、こんな所で死ぬ気はない」


「………分かりました」


「全隊、巨大竜まで移動するぞ!!」



夜になり、巨大竜が動きを止めた。巨大竜の口から少し離れたところにエリーアスの部隊が到着した。

エリーアスが両手剣をぐっと握りしめる。


「よし、いくぞ。砲の準備を頼む!」


「承知しました。くれぐれもお気を付けを!」


エリーアスが巨大竜に向かって走り出した、両手剣で口の辺りを攻撃する。ガンッという低い音と共に両手剣が弾かれてしまう。


「なんの!! これしきで諦めるものか!!」


エリーアスは何度も渾身の一撃を口に叩き込み続ける、それはペトロネランの『加護』は勿論、ビルギッドやフォルクマーの攻撃に劣るものだった。

だが、執念で攻撃をし続ける。


やがて巨大竜は鬱陶しいと思ったのか、目を開けエリーアスを飲み込もうと口を大きく開ける。

エリーアスは飲み込まれそうになるのをギリギリで避けながら大声で叫ぶ。


「今だ!! 撃てぇっ!!!」


エリーアスの大声と共に、巨大竜の口内や目の辺りに砲が撃ち込まれる。大きな爆発音が辺りに響き渡る。


「(どうだ……)」


爆発による煙が収まったが特に動きはなく効いている様子はない。


「(くそっ、やはり駄目か!?)」


エリーアスがそう思った時だった、急に巨大竜がもがき始めた。


「効いた!? 砲を打ち込み続けろ!!」


エリーアスの号令と共に、砲が撃ち込まれる。巨大竜は暴れ続けている、巻き込まれないようにエリーアスは急いで離れた。

暴れている巨大竜に砲が撃ち込まれ続ける。


時間にして十分程たった頃だろうか、巨大竜は少しずつおとなしくなりやがて動かなくなった。

辺りは静寂に包まれる。


「……まさかあれで死んだのか?」


エリーアスと中隊がおそるおそる近づき、巨大竜に攻撃するが一切反応が無い。

寝ている最中は移動はしないものの腹や喉の部分が動いていたが、それも無くなっている。


「やったぞ!! 巨大竜を倒したぞ!!」


うおおおおという中隊の歓声が辺りに響き渡る。涙を流して喜んでいる者もいる。

そんな中でエリーアスが中隊に指示を出す。


「クヌートは急ぎ馬にてフォルクヴァルンツ閣下にお知らせしてくれ! 残りの者は巨大竜が本当に死んだのか慎重に確認を続ける!」


「はっ!」

「承知しました!」


あれだけ苦労していた巨大竜がこんなにあっさりと死ぬものだろうかとエリーアスは少し疑問に思ったが、その疑問も倒した喜びにかき消されてしまった。

皇国の危機はこうして霧散したのである。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



遠くで歓声が上がるのを、二人と三体が高台から見つめている。


多めに入れたとは言え毒の注入量はあれで本当に正しかったのか、そもそも竜相手にトリカブトが本当に効くのか、正直かなり不安だったがしっかり効いて死んでくれたようだ。


「無事に大地の竜を討伐できた上に、丁度良い目くらましが来てくれた。これであいつらが大地の竜を倒した事になるだろ。竜の死体を詳しく調べられるとマズいかもしれないが……」


『その心配は不要だ。大地の竜は死ぬか役目を終えれば少しして土へと還る』


ミズーの言う通りなら俺が毒殺したって事はバレなさそうか、それなら良かった。


『大地の竜を倒した者は凄い報奨金が出るみたいだけど、良いのトール?』


問いかけてくるタイキに、俺は頷いて答える。


「別に金に困ってると言うわけでも無いし、英雄になりたいわけでもない。報奨金は良いかもしれないがそういうのには漏れなく面倒なしがらみが付いてくるからな」


「そうだね、私も同意見」


ジルも俺に同意してくれるようだ。


『そういうのは、お主がやりたいすろーらいふの対極にあるものだからな』


『そっか、トールがそれで良いなら僕も別に言うこと無いよ。それより解決したし早く終わったから遊戯室で麻雀やらない?』


『うむ、悪くないな』


『……賛成』


おいおい、今から麻雀やるのかよ。まったく、困った奴らだな。

そう思いながらミズーの背に乗りその場を離れたのだった。

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