第113話 竜の毒殺

夕方になって、ダイチが集めてきた鶏冠草、凄い量だったがそれを順次純粋な毒に変えていった。

トリカブトの毒の成分ってなんだったか、アコチニンだっけ? アコニチンだっけ?そんな感じの名前を聞いた記憶がある。


そういえば『加護』は使いまくると、マジックポイント切れというか加護のエネルギー切れを起こすはずだが、特に問題なかった。やはり俺の『加護』は規格外なのだろう。


さらに透明でこそ無いが構造自体はしっかりとした大きめの注射器をダイチが作り、準備は整った。準備は終わったのでザレを出て、ザレの西の門から少し行った所でダイチとタイキと落ち合う。


「とりあえず準備は整った、あとは現地で注射するだけだが……」


『前足の辺りにお主が言うところの静脈が近く皮膚が比較的薄めの場所がある、そこから注入するのが良かろう』


「どれぐらいの深さまで刺せば良いのかな」


ジルヴィアが当然の質問をする。


『そこまで深くは必要ないはずだ、お主が今までやってた手術と違って深く傷ついて静脈が痛んだところで問題はないからな、思い切ってやれば良かろう』


「俺も注射器を使った経験は元の世界でも無いし、正直なところ諸々手探りでやるしかない」


「そっか、とりあえず出たとこ勝負でやってみようか。失敗しても大丈夫そうだし」


『よし、では我の背に乗れ。タイキ頼む』


『うん、分かった。もちろん僕たちもついていくよ』


『……』


タイキとダイチも着いてくるらしい。俺とジルヴィアがミズーの背に乗ったところで、ミズーが凄い速度で移動を始める。

これならすぐに大地の竜の近くまで着くだろう。



しばらく行って、高台になったところでミズーが立ち止まった。


『見えるか、あれが大地の竜だ』


「ああ、あれか確かにデカいな」


高台から見渡すと、だいぶ先の方に全長が数十メートルはあろうかという巨大なトカゲのような物が見える。既に寝ているらしく移動せずじっとしている。

ゲームとかで出るアースドラゴンのようなイメージか。そう言えば、俺が好きなハンティングアクションゲームにこんな竜がいたな。……発表だけされて楽しみにしていた最新作がもう出来ない事を思い出してしまった。


『今ならしっかり寝入ってるから近くで多少騒いだりしても起きないから大丈夫だよ、このまま注射するところまで移動しようよ』


『然り』



高台からさらに移動して、大地の竜の右前足の近くまで来た。

ミズーから降りて大地の竜をあらためて見る、やっぱりかなりデカいな。


『トールよ、この部分辺りが比較的皮膚が薄めで言っておった静脈が通っておる部分だ』


トールが指示したのは前足の内側の部分だ、大地の竜のゴツゴツした皮膚の上から見ただけでは血管は見受けられない。


「血管の流れはどっちからどっちの向きなんだ?」


『こちらからあちらへ向かって流れておる』


なるほど、なら注射器を沿えてジルの剣をその流れに向かって角度を付けて刺せば良い……のか? それで上手く行くかは分からないが。


「前にやった手術みたいに大地の竜の血を止めるのは流石にダメなのか?」


『うむ、体への干渉は駄目だ』


となると、血が噴き出そうとも無理やり剣で穴をあけて注射器をねじり込んで毒を押し出すしかないか。


「とりあえずやってみるか、血管の正確な位置を教えてくれミズー」


『ここだ』


そう言って、ミズーは後ろから俺にピッタリとくっついて寄り添う。これもあすなろ抱きなんだろうか、いつもの妙なしっとり感が体を覆う。


ダイチとタイキも俺を囲むような形ですぐ近くに待機している。


「……くっついているのは、万が一大地の竜が起きた時に攻撃されないためだったか?」


『然り、お主が死んでは何の意味もない。ジルヴィアもそうしろ』


「分かった」


そう言って、ジルが俺とミズーにくっつく。………一体何をやってるんだと少し思ってしまったが、深く考えないようにしよう。

ジルヴィアが剣を鞘から抜く、見た目は普通の細剣に見えるがこれで異常に硬い皮膚を通せるのだろうか。


俺がそう思ったのを察したのか、ジルが剣の説明を始めた。


「見た目はただの細剣に見えるでしょ、これ。でも実際は、この細剣には目に見えない筒のような物があって、それを私の意思で出し入れする事が出来るんだよ。

その筒は『次元の翁』が言うところによると、次元ごと物質を切断するからこの世に存在する物なら自在に切断する事が出来るんだって。ただし、トールの槍みたいな特別な物は無理だけどね」


思った以上にとんでもない剣だった。


「この筒は伸ばそうと思ったら五メートぐらいまでは私の意思で自在に伸ばす事が出来るんだ。元の剣自体が脆いし、この筒も使い過ぎると元の剣の方が傷んでしまって消えてしまう、結構制限がある厄介な剣なんだよ」


「前も言っていたが、大地の竜の首を落とすというのは難しいって事だよな」


「うん、そうだね。静脈まで貫くのは何とかなると思う」


「よし、じゃあやってみよう」


ジルが細剣を両手に持ってミズーが指示した静脈がある部分に当てる、そして俺がトリカブトから抽出した毒が入った注射器を剣に沿わせる。

ジルと差し込む角度を相談し、いよいよ毒の注入が始まる。


「いくよ」


ジルが細剣を前に差し出すと、抵抗もなくすっと皮膚に剣が差し込まれた。聞いていた通りの切れ味だ。

切り口から血が漏れだす、ちなみに血は青色だった。地球だとカブトガニが青色の血液をしていると聞いた事がある。


『もう少し先まで差し込めば静脈に届くはずだ』


ミズーの助言に従ってジルがさらにぐっと奥に細剣を差し込む。差し込まれると勢いよく血が流れ出だした。血管まで到達したのか?


『静脈に到達したようだ、毒を差し込め』


細剣に沿わせるように奥まで注射器の針を差し込んでいく、結構抵抗があるな。力を込めて押し込んでいく、それと同時に血が勢いよく噴き出て俺やジルの服が汚れていく。


『よし、注射器の先が血管内に届いておるようだ』


ミズーにそう言われたので、注射器を思いっきり押し込む。


ピストンがかなり重たかったが何とか押し込み切った。これで大地の竜の血管に毒が入り切ったはずだ。


「ジル、剣を抜いてくれ」


「分かった」


注射器と剣を抜く、抜くと少しして傷口が塞がっていく。どうやら思っていた以上に大地の竜は治癒力も高かったようだ。


毒殺が駄目だったら、太い動脈をジルに傷つけて貰い、そこに鉄パイプのような物を差し込み失血死を狙おうと思っていたが、この治癒力だとそれは難しかったかもしれない。


そう言えば空気を血管に注入すると人間は死ぬという話を聞いた事があるが、どれぐらい入れると死ぬんだろう? 仮にそれが二十ミリリットルとすると体重ベースで大地の竜は人の約一万倍だから、二十万ミリリットルつまり二百リットル入れれば死ぬのか? その量で合ってたとしても、こっちはこっちで無理があるな。


『トール、ジルヴィアよくやった。その汚れは任せて置け』


ミズーがそう言うと、俺とジルについた血や汚れがパッと落ちて奇麗になった。


やる事はやった。

さて、大地の竜がどうなるか……。

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