第111話 トールの考え

『……………というわけで、この国の軍隊や腕に覚えがありそうな人たちの攻撃は全然「大地の竜」に通用していなかった。前に見た個体よりはだいぶ小ぶりだけど、それでも人には重すぎる相手みたいだねえ』


皇国軍や『白銀』の面々が大地の竜と接敵し交戦した翌朝、見てきたままを伝えるタイキ。それを聞いてミズーが考え込んでいる。


『ふむう……、やはり「大地の竜」はヒトがまともに太刀打ちできるような相手ではないか。祖はまだお目覚めには?』


ミズーがダイチに聞くが、ゆっくりと首を横に振った。


『……まだだ』


『そうか、となるとどうするか……』


俺は疑問に思っている事を聞いてみた。


「ちなみにだが、その大地の竜が皇都まで到達して皇都を破壊しつくした後はどうなるんだ?」


『ここに来る可能性が高かろう。この町は皇都の次ぐらいに大きく、大勢の人が住まう場所ゆえ。他は特に構わぬが例のパン屋が壊れると我は困る』


「(パンジャンキー猫……)パン屋に限らず、それは確かに困るな」


色々あったが一応安住の地を得たし、皇国をめちゃくちゃにされたらまともに生活も出来なくなってしまう。皇国や上位狩人でも当てにならないとなると……。


『ねえ、トール。前に君とジルヴィアなら対処できる可能性があるかもみたいな話してたよね? 二人なら何とか出来るの?』


「いや出来るかもしれないが、流石に巨大竜と戦うのは嫌だぞ」


そう答えるとタイキが纏わりついてきた、頼みごとをする時に纏わりついてくるのはミズーと同じなんだよな。調整者の性質かなんかか?


『何とか出来そうならお願い出来ない? トール。僕たちとしても皇国が滅びるのは本意じゃないし君たちだって困るだろ?』


困ると言えば困るが……、そもそも俺が何とかしようとして竜にやられて死んだらこの国ごと滅亡するんだがそれは良いのか。


しかし嫌だと言い続けたら、最終的に三体でウザ絡みしてきそうだな。俺にも関わる事だし仕方ない……のか?


「……まあ、条件にもよるが考えがなくもない。ミズー、お前らは大地の竜を攻撃する事は許されていないって話だったっけ?」


『然り、我らなら簡単に葬り去れるのだが』


「それは例えばだけど、大地の竜の特徴を話したり弱点を教えたりとか、必要な物の準備とか大地の竜まで運んでもらうとか、要は補助してもらうのも含まれているのか?」


『否。そこまでは含まれていない。あくまで許可されていないのはお互いを直接攻撃する事のみだ』


「じゃあ、俺が大地の竜の特徴を聞けば知ってる限りは答えてくれるし、手伝ってもらえる所は手伝ってくれると思って良いわけか」


『然り、今回の件は明らかに大地の竜の暴走としか考えられぬ、我らの落ち度とも言えよう。ゆえに、もしトールとジルヴィアで何とかするのであれば出来得る限りは助言するし、手伝える範囲は手伝おうぞ』


「そうか、なら可能性はあるかもしれないな」


それを聞いて目を見開き、じっと俺を見てからまた纏わりついてくるタイキ。


『トールなら何とか出来るのかい? 本当なら凄いけど……。具体的にどうやるのか聞いても良い?』


「結論から言えば毒殺するんだ」


『でも、僕が見た限りだと開いた口に毒が入った袋のような物を投げ込んだ人間がいたけど、吐き出されていたよ?』


「異物を放り込まれたらまあそうするだろうな、だが毒を投与する手段は他にもある」


ここまで椅子に座って黙って聞いていたジルヴィアがトールに問いかける。


「トール。この前、私にとてつもなく硬い皮膚に傷をつける事が出来るのかって聞いてたよね。もしかしてそれが関係ある?」


「ああ、大いに関係がある。その前にミズーに聞きたいんだが大地の竜には血管があるのか?」


『血管とは血の通る管の事で良いか?』


「ああそうだ。という事は大地の竜も、ヒトや生物と同様生きるために全身に栄養分なり酸素なりを回す必要と、老廃物と二酸化炭素を回収する必要があって、そのために血管を持っているという事で良いのかな」


「へー、血ってそういう役割を持ってたんだ。聞いてはいたけどトールの世界って本当に医学や科学が発展してたんだね」


ジルヴィアは感心して聞いている。


『大地の竜にも血管は持っておるぞ、一応は半生物だからな』


「もう一つ聞きたいのは、さっきのタイキの話だと大地の竜は攻撃された所でほとんど効かず、痛がってすらいないようだった。

大地の竜には痛いと感じる感覚、つまりは痛覚を持っているのか?」


『いや、痛覚を持っていると奴の目的を果たすのに不便ゆえ持ち合わせておらぬ。もっと言えば感情も持ち合わせておらぬ』


「ふーん、そうか。ならジルヴィアに手伝ってもらえばなんとかなるかもしれないな」


纏わりつきながら受け答えを聞いていたタイキがすかさずトールに問いかける。


『今の話でトールとジルヴィアに大地の竜を何とか出来る要素は無かったような気がするけど……。ジルヴィアの剣って大地の竜の首を落とせるぐらいの切れ味があったりするって事?』


「ううん、私の剣でそれは無理だよ。多分、切れない物質はこの世界には無いと思うけど凄く脆いんだ。数メート(数メートル)もある首を落とす前に剣が壊れてしまうと思う。壊れても鞘にいれて一晩経ったら元に戻るんだけどね」


『大地の竜は治癒力も高いから一晩経ったら傷は治ってると思うし、それじゃ大地の竜を殺せないじゃん』


「その辺りは折り込み済みだ、あくまで手段は毒殺だよ」


『ええ、分かんないなあ……。詳しく教えてよトール』

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