第110話 巨大竜討滅戦

ビルギッドが巨大竜に向けて一直線に走っていく、走りながら柄が長い大きな両刃の斧を構える。


「さあて、あたいの斧が通じるか試させてもらおうじゃないか!」


そう言うと、走ってきた勢いそのままに大きく飛び上がり一回転して斧を巨大竜の鼻頭に叩きつけた。ドガァアンという大きな音と小さい破片のような物が辺りを舞う。並の害獣なら一刀両断は免れない強力な一撃だ。


だが、巨大竜は全くの無傷。先ほどの破片は斧の物かもしれない。


「かってぇ!! あたいのこれでも全然通じないのかい!? なら、こっちはどうだい!?」


掛け声と共に、斧を両手でしっかり握り差し出して、自らを中心の軸としてコマのように回転をし始める。回転が目にもとまらぬ速さになると同時に、巨大竜に攻撃を仕掛ける。斧の重さを生かした高速回転の連撃で巨大竜を攻撃し続けるが、傷もつかず全く怯む様子も無く微動だにしない。

相棒のバルトロメウスが得物の巨大ハンマーを同じく巨大竜に叩きつけるがこちらも全く効いている様子が無い。


そうこうしていると、巨大竜がわずかに目を開いた。そして、口をゆっくりと大きく開き、ビルギッドとバルトロメウスを一口に飲み込もうとしている。


「クソッ!!!」


ビルギッドは巨大竜に斧を叩きつける勢いを利用して、大きく後ろに宙返りしてそれを避ける。バルトメウスは大きく横に飛びのいてそれをかわした。

その様子を見た各クランの狩人たちは少し躊躇した、あれじゃ俺たちの攻撃が通じるわけが無い、と。


「エルヴィン、私がやってみる……」


そう言うと、ペトロネランが前に出て両手を上に掲げる。そうすると、左手の上からつむじ風のような物が噴き出し、右手の上からは大きな火の玉が出現した。

両手を前に出すと、つむじ風と火の玉が混ざり大きな炎の竜巻になり、巨大竜に襲いかかる。


そう、ペトロネランが皇国内でただ一人だけ持っている『火水風土の加護』は四属性それぞれの加護が使えるだけではなく、二つの属性を混ぜて使用が出来る。

この攻撃は非常に強力で、並の害獣なら簡単に屠れる『白銀』の切り札でもある攻撃だ。


「おおっ、あれが音に聞こえし『火水風土の加護』か!」

「あれならあるいは!?」


巨大竜の頭が炎の竜巻に包まれると同時に、軍や各クランから歓声が上がる。だが、大きな火に包まれつつも巨大竜は一切怯む様子が無い。

そのまま燃え続け表面が少し黒くはなっているものの、巨大竜にダメージを与えるには至らなかった。


「なら、こっちはどう……」


ペトロネランが同じように両手を上に掲げる、左手の上から拳サイズの礫のようなものが無数に現われ、右手の上からは先ほどと同じように大きな火の玉が出現した。

両手を前に出すと、炎で赤熱した無数のつぶてが巨大竜に高速でぶつかっていく。だが、やはり巨大竜には効いている様子が無い。


「私の攻撃が通じない……」


ペトロネランは顔から大汗を噴き出して座り込んでいる、どうやら『加護』を相当消費したようだ。


「もう十分だ、加護回復薬を飲んで休んでいてくれ。アーリン付き添いを頼む」


その声にアーリンが頷き、トールから買った四級加護回復をペトロネランに飲ませている。


「エルヴィン君、これは流石に無理じゃないかな」


「ああ、ペトロネランのあれで無理なら俺やウラの攻撃も通用しないだろう」


諦めムードが漂う中、フォルクマーの大きな声があたりに響く。


「なにビビってんだてめえら、個の力で駄目なら皆の力を合わせりゃ良いだろ!! 一斉に攻撃するぞ、続け!!」


そう言うとフォルクマーが一気に駆け出し、得物の大きな両手剣で攻撃する。

その声を聞いた各クランの猛者たちも一斉に攻撃を始める、だが全く効いているようには見えない。


「皮膚が硬くても目や粘膜になら攻撃が通じるだろう、弓を使える奴で一斉に矢を撃つぞ! 目や口の中を狙え!!」


とある狩人の掛け声で、軍や狩人たちの弓を持つ者たちが一斉に矢を放つ。中には矢じりに火を付けている者もいた。矢が竜の眼に向かって雨のように降り注ぐ、その内の一本が右目に当たった。


「よしっ!! 命中!! ……無傷なのか、目まで頑丈なのかよ!?」


眼球に矢を食らった竜だが、目に突き刺さるどころか一切傷ついているようには見えない。効かないにしても鬱陶しいのか、巨大竜が先ほど同様に首だけ動かしながら大きく口を開けフォルクマー達、直接攻撃している面々を食べようとする。


そんな中で黒いローブを纏った老女が直接攻撃している狩人たちの後ろに隠れるようにして立っていた。手には革袋のような物をいくつか抱え込んでいる。


「ヒッヒッヒッ、外からの攻撃が通じないから内側から攻撃すりゃええわいな」


そして、大きく開いた口に袋を複数投げ込んだ。


「わし特製の猛毒じゃ、飲み込みさえすれば大きな図体であろうと殺せるわいな」


巨大竜が口を閉じる、そしてモゴモゴしたかと思ったら老女が投げ込んだ袋を勢いよく吐き返した。吐き返された袋を避けた拍子にバランスを崩し、老女は転んだ。


「ま、まさか毒を判別する事が出来るのかいな……」


どうやら、巨大竜は毒殺も難しいようだ。巨大竜の噛みつき攻撃をかわしながら、各クランのメンバーや軍がひたすら攻撃を続ける。

だが、傷もつかず状況が好転しているようには見えない。


これは撤退するしかないか、とエルヴィンが心の中で思った時だった。マルセルが大きな声で号令を出す。


「現時点で巨大竜を葬る手段が無い、このまま攻撃し続けても消耗するだけでどうにもならない。一旦町まで撤退する!!」


その声と共に、全員が一斉に撤退を始めた。

だが、このまま手が無いと皇都が蹂躙されるのは間違いが無いだろう。



皇国軍と有力クランが巨大竜と戦っているのを遠くから眺めている大きな猫がいた。


「う~ん、並のヒトじゃあやっぱり駄目かあ。トールとジルヴィアなら何とかなるのかなあこれ。最悪、僕たちで処理せざるを得ないと思うけど祖はいつお目覚めになるのやら」


そう言うと、猫は徐々に薄くなっていき完全に消えてしまった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



夜通し移動して町まで撤退した。マルセルは状況をどう立て直すか軍議を続けているようだ。だが、この町もいずれ巨大竜に蹂躙されて跡形もなくなってしまうだろう。エルヴィンにも妙手は一切思い浮かばなかった。


知る限りの有力な害獣狩人はほぼ集まっていたようだし、あと何とか出来そうな人間となると、皇国における武の頂点とされるグートハイル家の達人たちぐらいしか思いつかない。だが、大地の竜の実物を見た感じではいかに彼らとて討伐できるとは思えない。


『白銀』の面々は町の宿の一室に留まっていた。そんな中、クララが目を瞑って『視る』能力を使って今後の展望を見ているが、結果は良くないようだ。


「クララ、先は見えるかい?」


「駄目ね、真っ暗なままだよ…………あっ」


クララがハッとした表情を見せる。


「何か見えたのか!?」


「分からない、でも金と銀が巨大な竜を破壊する絵が見えた……」


「金と銀?? 何の暗示なんだそれは……」


「分からない……、でも私たちとは違うと思う……」


もう俺たちや皇国軍が巨大竜を討伐するのは厳しいだろう。だがクララの『視』に間違いはないはず。その『金と銀』とやらに期待しても良いのだろうか。

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