第109話 接敵
ブリーフィングが行われた翌日の朝、巨大竜に向かって軍と各クランが移動を始める。主には皇国軍が用意した馬で移動だ。
おそらく今日の夕方から夜付近に接敵して戦う事になるだろう。夜には巨大竜は動きを止めるため、そこを狙って攻撃する。
戦闘初動で皇国の有名な発明家が作ったとされる、『砲』と呼ばれる兵器で攻撃するらしい。相当な攻撃力があるらしいが……。
エルヴィンは聞いた限りでは、個人で対応できるような害獣ではないと考えていた。
『白銀』は我ながら相当強力なクランだと自負している、二級害獣を討伐した事も複数回ある。皇国内では五本の指に入るクランだという自信もある。
だが、情報を聞く限りでは巨大竜を倒せるヴィジョンが思い描けなかった。
移動しながらクララが声をかけてくる。
「エルヴィン君、昨日の夜に『視て』みたけど全く光が見えなかったよ」
「やはり見通しは厳しいか」
「無理はしない方が良いと思う、少なくとも『白銀』から怪我人を出さないように動いた方が良さそう」
「……」
ペトロネラン、ウラ、アーリンにも明るい雰囲気はない。対抗できるか怪しいと踏んでいるからだろう。
周りはと言えば、皆同じ雰囲気かと思ったら意気揚々に歩いている狩人もそこそこいる、ビルギッドもその内の一人だ。独自で動くと言っていたが、一緒に行動するようだな。
そんな中、『猛牛』のメンバーは『白銀』同様に重苦しい雰囲気が漂っている。
エルヴィンが見ているのに気づいたのか、フォルクマーが近づき話しかけてきた。
「エルヴィン、この案件どう思ってんだ?」
「……正直な所、相当厳しいと言わざるを得ない」
「やはりそう思うか、俺たちも討伐までは出来るとは思えない。ただ、皇都に住まう人のために出来る限りの事はやってやりてえ」
悪人面をしているが、フォルクマーはやはり熱い男だなとエルヴィンは再認識した。
「我々も出来る限りはやるつもりだが、無理をするつもりはない」
「そうだろうよ、お互い精々頑張ろうぜ」
そう言うと、フォルクマーは『猛牛』クランメンバーがいる方向に戻っていった。
重苦しい雰囲気のまま行軍は続く。
予定通り、その夜付近に巨大竜に接敵した。遠目に見ると、竜と言うよりは巨大なトカゲのような生物に見える。目を閉じじっとしている。先立って聞いていた通り、寝ているようだ。
全長としては聞いた通り数十メートあるように見え、高さもおおよそ数メートはあるだろう。聞きしに勝る巨大さだ。
「砲の用意急げ!!」
マルセルの声で、皇国軍が慌ただしく動き回っている。観察していると、巨大な金属で出来た筒のような物を設置している。
運ぶだけでも大変そうだ。
設置が終わったのか、兵が報告を上げる。
「マルセル様、砲の準備終わりました!」
「合図を出したら一斉に打ち込め!!………………撃てっ!!!」
ドォンという巨大な音と共に、金属の筒から何かが発射される。発射された何かが巨大竜の頭に命中した。
「命中!!!」
命中した部分からは煙が巻き起こっていてどうなっているかは見えない。
「おおっ、やったか!!」
「流石はあのエーファ殿の作った発明品だけある!」
「見たか、これが皇国軍の力だ!」
兵たちは嬉しそうな様子で口々に叫ぶ。時間が経つにつれやがて煙がはれてきた。巨大竜の頭をよく見ると、傷一つついていないし、目を閉じて寝たままだ。
「ばっ、馬鹿な。砲ですら傷すらつかないのか……!? ええい、弾が尽きるまで続けて打ち込め!!」
マルセルの号令と共に、『砲』が巨大竜に向けてどんどん撃ち込まれる。だが、巨大竜はほぼ傷がついておらず、ダメージを負っていないのか目を開きすらしない。
「ぐぐぐ、まさか砲ですら全く効かぬとは……」
マルセルが絶望したように小声を漏らした、その声に兵たちも騒ぎ出した。
クララが険しい顔でエルヴィンに話しかけてくる。
「エルヴィン君、これはちょっとまずいかもしれないね」
「……ああ、今の攻撃で無傷とは思わなかった。これは並の害獣ではあるまい。討伐は勿論、足止めすら厳しそうに見える」
ペトロネランが顎に指をあてて考え込む仕草を見せ、ボソッと喋る。
「……あれは私の加護でも傷つけられないかも」
我々『白銀』の最大火力はペトロネランの『加護』による攻撃だ、ペトロネランで歯が立たないとなると攻撃手段が無い。さてどうするか、エルヴィンがそう思った時だった。
「なんだいなんだい、あの程度の害獣にビビっちまったのかい?」
声がする方を見ると、大きな斧を抱えたビルギッドが余裕な表情を見せている。
「軍の攻撃で駄目となると、狩人サマの出番ってこったね。金札五万枚(約五十億円)はあたいたちで頂きだ! 行くよ、バルトメウス!!」
そう言うと、ビルギッドとバルトメウスが巨大竜に向かって走り出した。
その声を皮切りに、別のクランも口々に叫んで走り出す。
「俺たちもいくぞ!!」
「負けてられるか、何とかしてやる!!」
その様子を見ながら、クララがエルヴィンに問いかけてきた。
「エルヴィン君、私たちはどうする?」
「……何もしないわけにもいくまい、出来る限りのことをする」
「分かった、みんな行こう」
クララに声をかけられたペトロネラン、ウラ、アーリンは頷き巨大竜に向かって行った。
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