第108話 ブリーフィング
『白銀』のメンバーがトールの店で四級薬を買ってから少し経っての事。皇都から南東にしばらく行った、とある町に皇国軍や有力なクランなどが集結していた。もちろん、その理由はレッリンハウゼ州にある森から突如として現れた巨大竜に対抗するためだ。
例にも漏れず、『白銀』のメンバーもそこにいた。
今回の強制招集を行った皇国軍の責任者が、もうすぐ有力クランに対してブリーフィングを行う予定だ。集合場所は大きな集会所のような場所、ドアを開けて『白銀』のメンバーが中に入る。
中を進みエルヴィンが指定された席に座ろうとすると、太く低い声で呼び止められる。
「おっ! エルヴィンじゃねえか。相変わらず女をはべらせやがって、軟派な野郎だな」
声が発せられた方をエルヴィンが見ると、浅黒い肌のスキンヘッドに茶髪の髭を生やした、黒い金属の胸当てを付け身長が2メートルはあろうかという筋骨隆々の男が立っていた。
男の周りには、同じような体格の男が数人いる。
「お前のクランは相変わらずむさ苦しいままだな、フォルクマー」
エルヴィンにそう言われたフォルクマーと呼ばれた男は、ゆっくりとエルヴィンの方に近づいていく。
集会所の中にいる人たちに、ピリッとした緊張感が走る。一触即発か、と思ったらフォルクマーが右手を差し出し両者がガッチリと握手をする。
「はははっ! エルヴィン元気そうじゃねえか!」
「フォルクマーもな。最近はどうだったんだ?」
「ここ最近は北の方で害獣狩りしまくっていたぜ、少し前に金色狼が出たって話を聞いて探し回ったが結局見つからなかったな。クララちゃんも相変わらず奇麗で羨ましいなエルヴィン」
「あらフォルクマーさん、いつもお上手なんですから」
クララの声と共に集会所内の空気が一気に緩んだ。
フォルクマーと呼ばれる男がリーダーを務めるクラン『猛牛』は、筋骨隆々の男のみで構成されているクランだ。
上級の害獣狩人の資格を持ち怪力自慢の男たちで構成されていて、『白銀』と並ぶ実力派の有名クランである。
フォルクマーは見た目こそ怖く口も悪い、だが正義感が強く頼れる男だ。そんなフォルクマーの元に集まるのは同じような性格の男ばかり、人助けする事も多く『猛牛』は評判の良いクランである。エルヴィンとは旧知の仲だ、過去には一緒に害獣討伐を行った事も。
「エルヴィン、今回の獲物は相当ヤバそうな奴だって聞いてるがどうなんだ?」
「俺も詳しくは聞いていない、だが火炎竜を上回るような害獣だとか」
「はっ! そこまでヤバい奴が出るとはな。腕が鳴るぜ、ユストゥスの後継者になるのは俺だ!!」
ユストゥスとは火炎竜や危険な害獣を倒しまくったとされる、皇国狩人の英雄である。巨大な斧を小枝を振り回すがごとく軽々と扱い、火炎竜もこの男が倒した。
エルヴィンとフォルクマーが雑談をしていると、集会所内に数人のお供を連れた立派な軍服を着た男が入ってきた。
「集まってくれた皆の者、巨大竜討伐について説明を始める。各々の席についてくれ」
フォルクマー達は軽く手を上げてから、自分たちの席に戻っていった。
それぞれが席に着いたのを確認して、集会所に入ってきた男が説明を始める。
「では説明を始める。まず最初に名乗らせてもらおう、我が名はマルセル・フォルクヴァルンツだ。皇国で軍務卿を務めておる」
エルヴィンはそれを聞いて驚いた、皇国の軍務のトップである軍務卿がわざわざ現場にまで出張ってきたのだ。つまり、それ相応に重大な案件という事だ。
クララが小声で話しかけてくる。
「エルヴィン君、この案件……」
「ああ、相当危険な案件なのは間違いなさそうだ」
マルセルが説明を続ける。
「さて、自己紹介も終わったので早速巨大竜討伐について説明させてもらいたい。レッリンハウゼ州軍や斥候によると、
全長が六十メート(六十メートル)近くある巨大な竜が討伐対象だ。竜は非常にゆっくりではあるが皇都に向かって進み続けている。
レッリンハウゼ州軍が進行を止めるために様々な手段で攻撃はしたが、皮膚が異常に硬く傷をつける事すらままならない状態だ」
そこまで巨大な害獣は聞いた事が無い、しかもほぼ物理攻撃が通じないとは……。エルヴィンが息をのむ。
「目標は巨大竜の進行を止める事だ、可能であれば討伐してしまいたい。皇都まで辿り着かれると皇都の民が犠牲になりかねない。諸君には巨大竜を攻撃して討伐するか、進行を止めるかしてもらいたい。もちろん手段は問わない。夜間は必ず一定時刻になると寝る事が分かっているので、その隙に攻撃を行う予定だ」
そこまでの相手、俺たちでも太刀打ちできるものなのか……? エルヴィンが考え込んでいると、一人の女が声を上げる。
「討伐は良いけどさあ、肝心の報酬はどうなってんだい!? 話はそれからだよ!」
声を上げたのは巨大な両刃の斧を脇に置いた、百九十センチはあるかという体格のいい女だ。その隣にはその女より頭二つ分ぐらい大きい男が座っている。
確か、女性がビルギッドで男性がバルトロメウスとかいう名前だったか。『暴風』という二人組のクランだ、賞金首から害獣までどんな厄介な相手だろうと力でねじ伏せると聞く。
女の声にマルセルが答える。
「ここにいる者は皆、相当な猛者と聞いている。参加だけで金札十枚(約百万円)を支払う。さらに巨大竜の進行阻害を行った者に対しては、功績に応じて金札数百枚を支払う。
さらに巨大竜を討伐せし者は金札五万枚を支払う」
マルセルの回答に、ビルギッドがヒューッと口笛を吹く。
「へえ、中々気前が良いじゃん。ま、それほどの相手って事だろうね。それだけ聞けりゃ十分さ、あたいらは独自で動きたいからもう行かせてもらうよ。良いよね旦那?」
それにマルセルは頷きながら答える。
「構わぬ、諸君らの働きに期待している」
それを聞いて、ビルギッドとバルトロメウスが集会所がから出て行った。
「各自で準備したい者は出て行ってもらって構わない。巨大竜について聞きたい事などある者はここで尋ねてくれ、可能な限り答える事を約束する」
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