第107話 白銀再び

大地の竜が出現したのを知ってから四日ぐらい経った頃、今日も暇な薬屋を開く俺。

危険な害獣が皇都に向かって進行しているのに、ザレの日常は今日も変わらない。従って俺の日常もさして変わらない。


客がいないのを良い事に、コーヒーを飲みながら茶菓子をつまんでいる俺。一応、デブらないように定期的に薬の素材になる薬草を取りに森に行く際、害獣を狩ったりして体をしっかり動かすようにはしている。槍の勘が鈍っても困るし。


「トールはコーヒーが好きだよね。私はあまり好きじゃないんだよなあ、砂糖を入れてもどうも独特のあの苦みと酸味がね」


ジルはあまりコーヒーが好きではない。


『我もコーヒーはあまり好かぬ。炭酸飲料の方が美味い』


ミズーは辛いのも甘いのもイケる口だがコーヒーはあまり好きではない、前に作った炭酸飲料をいたく気に入っている。

それもあってか時々コーラについて思い出せ、飲んでみたいのだとせがまれる事がある。せがまれた所で作り方など分かるはずもない。そう言えば何かの漫画でコーラを代用素材で作ってたな、内容を全く覚えていないが。


「うーん、そうかあ? 苦いのが嫌いなら牛乳を入れるとまろやかになって美味くなるんだけど長期冷蔵の手段や低温殺菌法が発達してない以上この世界じゃ使えないだろうしなあ。脱脂粉乳の作り方も分からないし」


「牛乳というのは牛の乳の事だよね? 牛を育てている村なんかでは飲まれているみたいだけど」


「ああ、俺が元いた世界だと広く飲まれていたんだよ」


「でも、あれってすぐ腐るから町に住んでいたら飲めないでしょ?」


「それを防ぐ術が開発されてたんだ。皇国でも二百年ぐらいしたら町でも飲めるようになるんじゃないか?」


「ふうん……、じゃあそうなるのを待ってから私はコーヒーを飲むことにするよ」


そう言いながらお茶を飲むジル。茶葉に関しては日本で飲まれているようなお茶が栽培されているので、お茶は広く飲まれている。そのまま飲む人もいれば砂糖を入れる人もいる。


雑談をしながら、営業時間とは思えないゆったりとした時間を楽しんでいたら、ドアのベルが鳴った。誰かが買い物に来たようだ。


「いらっしゃいませ」


一応声をかける俺、入ってきた人を見ると『白銀』の面々だ。リーダー・副リーダー夫婦である、エルヴィンにクララ。

二人だけかと思ったら、今日は後ろに主要メンバーも連れてきている、何かあったのだろうか?


「やあ、トール殿。お邪魔させてもらう」


「これはどうも、エルヴィンさん。今日は大所帯でどうされました?」


その問いにクララが答える。


「実は極秘の大型案件だとかで総合ギルドから強制招集がかかりまして、準備を念入りにとの事だったので薬を頂きに来ました。薬を買い次第このまま集合場所に向かう予定なのですよ。四級加護回復薬と四級傷病回復薬は置いてありますでしょうか?」


極秘の案件を俺に話して良いのだろうか? このタイミングだし、もしかしたら『大地の竜』絡みの案件かもしれない。

しかし、どうもこのクララさん見た目こそ柔和な美人なんだが、腹に一物抱えてそうなんだよな。スーパー上得意のお客様ではあるが、正直油断できない相手だと思っている。


「ああ、四級でしたら在庫がございますよ。いかほど必要でしょうか?」


「あるだけ貰えますか? もしかしたらトールさんにも大型案件の話が行っているのではないですか?」


「いやあ、私はしがない町の薬師ですよ。そんな話聞いた事すらないですね」


「本当ですか? トールさんはもしかしたら御存知なのではないかとも思っていたのですが、ふふふ」


「いえいえ、買いかぶり過ぎです。ははは」


クララの柔和な笑顔の裏に、何か黒い物を感じる気がする……。


「では、それぞれ四つずつ。こちらでいかがでしょうか? 鑑定なさいますか?」


「トール殿であれば不要だろう、このまま貰い受ける。いくらか?」


エルヴィン・クララとやり取りをしていると、他の主要メンバーが二人の後ろから声をかけてきた。


「……トール、今日はそこで本を読んでる暇がない、残念」


そう言うのは小柄な女性、彼女も『白銀』の主要メンバーに数えらえる。名前はペトロネランだ。

彼女は皇国で史上初の『火水風土の加護』を持っている。

名前の通り、火・水・風・土の加護全てを使う事が出来、その全てがかなり強力と言う話だ。


「トール、今日はかれえは無いのかい? かれえを食べる暇ぐらいはあるんだけどな!」


元気にカレーを要求してくる大柄な女性、彼女も『白銀』の主要メンバーに数えられる、名前はウラだ。

彼女は小国群から皇国に移住した過去があり、小国にいる『四つ耳』という種族に該当する。彼女は異常に身体能力が高く、獣や害獣に詳しい上、サバイバル能力に長けているので極めて優秀な斥候という話だ。


「トール、いい加減薬湯と肌の手入れ用の塗り薬を売ってくれないか? お金ならいくらでも出すんだが」


カンゾウから抽出できるグリチルリチン酸、他にも医薬品に使われてる美容成分があるからと、暇に任せて『薬師の加護』を駆使し色々検討して俺が試作したスキンケア製品を買おうとしているスラッとした男装の麗人、彼女も『白銀』の主要メンバーに数えられる、名前はアーリンだ。

彼女はとある貴族の末子らしいが、貴族の生活を嫌い家を飛び出したらしい。だが、いつも執事が近くに付いている。

彼女は古今東西のありとあらゆる武術を学んでいるらしく、対人戦闘のエキスパートらしい。


この三人とも実は色々あったのだが……。その話はまたおいおい。




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お読みいただきありがとうございます。読者様の応援もあって、この度書籍化する事となりました。詳細につきましては本日付けの近況ノートをご覧ください。

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