第106話 皇国の危機

「なるほど、私がいない間にそんな事があったのね。しかしそんな巨大な獣を人間が殺せるのかしら?」


麻雀をやりながらジルヴィアが聞いてくる。

今日はジルヴィアがやりたいというので、ジルヴィア・ミズー・タイキ・ダイチで麻雀をやっている。


「考えがなくもないけど、どうだろうなあ。ただ、皮膚を傷つける必要が出てくるんだが、俺の槍で何とかなるか?」


「どれぐらい深くなのかは知らないけど、とてつもなく硬い皮膚を傷つけたいだけなら私が何とか出来るよ」


「ええ? ジルはそんな能力も次元の翁に貰っていたのか」


「いや、能力じゃないんだけどね。私が持っている武器ならそれが可能なんだ。そういう状況になったらまた説明するよ。それポン!」


ジルヴィアの武器と言えば、あの細身でやや短めの片手剣か。前に見せて貰った感じでは、片刃はついているようだが細身でレイピアのような剣だった。いわゆる刺剣というやつだろうか。


『ほお、ジルヴィアはそんな物まで持っていたのか』


「これも次元の翁から押し付けられた物さ、癪だからあまり使いたくない気持ちもあるんだけど」


『貰った以上は便利に使ってやれば良かろう、良しそれで上がりだ』


ミズーがダイチの捨て牌で上がったようだ、相変わらずこいつは麻雀が強い。麻雀が強い巨大ラグドール、地球なら大人気者になるだろう。

ジャラジャラ……、三体の巨大猫とジルが麻雀牌を混ぜる。混ぜながらタイキがこっちを見る。


『皇国も大きな国なんだから何とか出来るような人材がいるかもよ? たまーにここに来てる金髪の男女二人組もさ、トールやジルヴィアには及ばないと思うけどあれ相当な強者でしょ? 

あの二人が大地の竜を倒せるとは思えないけど、同じぐらい強い人がたくさん集まれば何とかなるかもね』


「まあ、皇国に頑張って欲しいところだな。俺は正義の味方でも何でもないし、出来れば何もしないで終わる方が助かるよ」


『北西に向かっているとの事だったから皇都へ向かっておるのだろう、最も効率よく人や物を壊せる道を辿るはずゆえ』



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



トールが大地の竜を知ってから三日後、皇都にて緊急の会議が開かれていた。


「……という事で、レッリンハウゼ州の森より突如として生じた巨大な竜とおぼしき生物が極めてゆっくりではありますが皇都に向かって進行しているようです。

レッリンハウゼ州の軍隊が竜を討伐しようとしましたが全く歯が立たず、死者こそ出ていないものの怪我人は出ている状態です」


誰も一言も発さない重苦しい空気が会議室を包む。

シンとした会議室で、奥にある一番立派な椅子に座る男が声を出す。彼は皇国の現皇帝ニクラウス・ロンベルクである。


「して、その巨大な竜を倒せる算段は付いているのか?」


一人の男が手を上げる、その男の名は軍務卿マルセル・フォルクヴァルンツ。皇国の軍務すべてを取り仕切る男だ。


「大昔に認定され討伐された一級害獣・火炎竜よりもさらに巨大な竜です、当時それを討伐した勇者ももうおらず、おそらく相当な戦力で当たらねば無理でしょう。

皇都中央軍はもちろんの事、各州の軍隊や上位狩人たちにも声をかけねば対処出来ないと推定しております」


「うーむ……、それほどの害獣か。もしや、最悪の場合は皇都を捨てる事まで検討せねばならぬか?」


マルセルは俯きながら答える。


「あるいは。そうならないように尽力は致しますれば」


「……。その他に何か良案を持ち合わせている者はいるか?忌憚なき意見を欲しい」


その声に反応できる者は誰もいなかった。


「やはりそうだろうな。この件皇国存亡の危機と判断する。皇帝の名において命令する、直ちに皇国広域執行令を発布し、各員すぐにその対処に当たれ。

会議はこれで終了とする。マルセル、総合ギルドと早急にこの件について話し合いをしたい」


「承知いたしました、対応いたします」


その声を合図に、ニクラウスとマルセルそして内務卿であるバルタザール以外の者たちは全員が立ち上がり、急いで会議場を出ていく。


「……バルタザール、いざという時はどうする?」


「皇国を存続し維持する事が最も重要なれば。つまり、陛下はもちろん国民ごと遷都せねばなりますまい。竜の大きさが報告通りであればおそらくオーデルン川は超えられぬと推定いたします。

なれば西の町が候補となりましょう、王国と近いのが問題ですが規模としてはヘルヒ・ノルトラエが候補となりますか」


「なるほど、後はいつ知らせるかだが……」


それにマルセルが答える。


「それについては、まずは初動を待っていただければと。初動に全力で持って対処いたします、それで対処しきれぬとなれば……」


「覚悟はしておこう、くれぐれも頼むぞマルセル」


「承知いたしました」


マルセルも会議場を足早に出て行った。しばらくして、ニクラウスがぽつりと漏らす。


「よもや余の代でこのような事が起こるとはな、皇国が終わる事も考えておかねばならぬのだろうか?」


「弱気な発言は避けて貰いたく」


フフと笑いながら、ニクラウスが続ける。


「分かっている、これはバルタザールにだけ言っている。皇国や皇帝が終わろうとも、国民の生活を無惨に終わらせるわけには行かぬ。

バルタザールは最悪の事態まで考えて諸々準備をしておいてくれるか、手段は問わぬ。最優先は国民だ」


「承知いたしますれば」


この日を境に、皇国最大の危機として皇国軍や上位狩人が動き出した。

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