第105話 大地の竜

葉っぱまみれの森の調整者が薬湯の喜びを伝えていたようだ。さらに続けて何やら訴えたい事があるようだが、俺には何と言っているのかさっぱり分からない。


「ダイチ、彼?(彼女か?)は何と言っているんだ?」


『……こ奴が治める森で』


「森がどうしたんだ?」


『……異変が起きた』


「異変?? それが俺と何か関係があるのか?」


『……ある、それもこの国の人全員』


「それで、具体的にどういう事なんだ?」


『……うむ』


ダイチは相変わらず無口なせいで話が中々進まないな。


『ええい、ブツブツ途切れて話が中々先に進まぬではないか。我が説明してやる』


話が進まないのにじれったくなったのか、ミズーがすかさず割り込んできた。


『この調整者が治めている森で、異変が起きた。それがこの国に住まうお主にも関わる事という話だ。続きを話せ』


ミズーに促されて、森の調整者が小さく頷きさらに続ける。


『£$&☆彡¥☆=△♂¥〇×&◎♯●>♀£………』


相変わらず何と言っているのかさっぱり分からない、やはり妙なお経のようにも聞こえる。


『ふむ、ふむ……。なるほど、こ奴の森で巨大な生物が突如として地面から沸いてきたようだ。それが北西に向けてかなりゆっくりではあるが移動をしていると』


「なんだそれは?」


『……大地の竜』


ダイチがボソッと呟く。


『しかし、ダイチ。この国は大地の竜が目覚めるような環境にないと思うが。全てを無に帰すべき劣悪な環境ではない』


大地の竜? なんか物騒そうな生物だが……。


『£$&〇×&♀£☆彡!! ¥◎♯●>☆=△♂¥〇&〇×&!! ♀£☆×&♀££☆×&………』


それを聞いてか森の調整者がまくし立てるように何かを言っている、お経がラップ調になった気がする。


『うーむ……、その特徴を聞く限りでは大地の竜に間違いが無さそうだな。本当なら厄介な事になったな』


「ミズー、その大地の竜というのは何なんだ?」


『ああ、「大地の竜」というのは祖が作り給うた巨大な半生物半調整者のような存在だ。以前お主が会うた水兎に近いと言えば分かるか』


「その大地の竜が何か問題なのか?」


『大地の竜は祖がとある目的によって作成したものだ。具体的に言うと、この星の表面に対処しようがない大問題が起きた時に大地の竜を目覚めさせ、その地を蹂躙させる。大地の竜はゆっくりと移動しながら全てを食らいつくしその地をまっさらに戻す。その後、地に吸収されていなくなる』


「巨大と言っていたがどれぐらいの大きさなんだそれ」


『そうだな……、お主の背丈で比べるならおおよそ三十倍から四十倍程度の大きさのトカゲのような生物だ』


俺の三十倍から四十倍となると五十~六十メートルある巨大トカゲって事になるが……、初代のゴジラがそれぐらいの大きさだったような。


「(テラフォーミング的な話だろうか?)なんでそんなもんが今更目覚めたんだ、皇国がそこまでムチャクチャやってるようには思えないが」


『然り。我らが聞き及ぶ条件には全く合致しておらぬ』


「何かの間違いで目覚めてしまったとか?だとしたら大迷惑だな」


話をしていると、空間に色がついてタイキが現れる。


『その様子だと、大地の竜の話をしていたようだね。見てきたけど、あれは大地の竜で間違いないよ。何がきっかけで生まれたのか分からないけど』


『うーむ……、困った事になったな』


『……』


三体の調整者は考え込むような仕草を見せる。


「お前らでも対処が出来ないようなとんでもなく強い存在なのかそれ?」


『否。我らであれば大地の竜を御するなど容易な事ではある、だが……』


『僕たちはお互いを直接攻撃する事を祖に許されていないんだ。そして大地の竜は僕たちに近い存在、つまり理由がどうあれ手出しできない』


「なんだって!? じゃあ俺たち人間だけで対処するしかないって事か」


『うむ、そうなる。しかしあれの皮膚は異常に硬く、生命体としても非常に強靭だ。まともな人間では太刀打ちできまい』


「それだけ大きい生物なら皇国もおそらくすぐに把握するとは思う、何らかの対処はするだろうが……」


『この国があれに対処できるぐらい強大な軍隊を持っておれば良いが』


『うーんどうだろ、確かに強者はいるみたいだけど……』


『……』


「言い方は悪いがそっちの落ち度っぽいし、お前たちが祖と呼ぶ『不動なる地母』が何とかしてはくれないのか?」


『してくれるかもしれないけど、次に祖とお会いするのはだいぶ先だからね。それまでに皇国自体が無くなっちゃってるかもしれない』


「いつも会えるわけではないのか?」


『然り。祖は常に目覚めているというわけではないのだ。おそらく、この異変を感じ取って早めにお目覚めになるとは思うが』


「これを知った所で、俺が出来る事と言えば精々ドミニクに南東の方でヤバい事になってるぞって連絡するぐらいしか出来ないが、やると俺がミズー以外の調整者ともやり取りできる人間ってバレてしまうな」


『それは良い事ではあるまい』


「しばらくは様子を見るしかないか」


ミズーは少し考えるようなそぶりをした後、俺に問いかけてきた。


『……お主とジルヴィアなら対処出来る可能性は無いか?』


「ええっ!? 俺たちがか? 勘弁してくれよ」


『ここまでこの国の人を大勢見てきたが、最も確度が高そうな強者はお主らだろう』


調整者側のミスの尻ぬぐいは勘弁してもらいたい。


「ジルヴィアはともかく、俺より強い奴なんていくらでもいるだろ。まあ、詳しく聞いてみないと何とも言えないけど一応は生物という事であれば、考えが無くはないが自信は無いぞ」


『皇国がどうにも出来ないってなったら、トールとジルヴィアに出張ってもらうしかないかもね。また進捗があったら連絡に来るよ』


「勝手に当てにされても困るんだが……」


話を終えたのか、森の調整者が腹の辺りに手を入れたかと思うとモゾモゾと手を動かし、ハート型の黄色い葉っぱを取り出し俺に差し出してきた。


「??」


『トールよ、貰っておけ。人にとって良い物だ、ジルヴィアと共に摂取するが良い』


「摂取するとどうなるんだ?」


『健康になるはずだ』


「何か曖昧な効果だな。……また寿命が延びるんじゃないだろうな? まあ一応貰っておくか、どうもありがとう」


お礼を言ってから、葉っぱを受け取った。森の調整者は小さく頷くと、グルグルと高速回転してから消えてしまった。

タイキとダイチも帰るのかと思ったら、そのまま遊戯室に留まっている。


『大地の竜は大地の竜として、今日は麻雀がしたいな』


「おいおい、余裕だな」


『……』


タイキだけじゃなくて、ダイチのその気なようだ。


『まあ慌てて仕方がないのも事実だ、トールよ。それに奴の歩みは極めて遅い、その上夜は動きを完全に止め寝るはずだ』


皇国が大地の竜を何とかしてくれれば良いのだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る