巨竜侵攻編

第104話 遊戯室完成

ヴェンデルガルドに手術をしてから約三か月が経った、また旅に出るのかなと思っていたジルもまだザレに留まり続けている。

最初に出会った時には理知的でドライな性格の女性だと考えていたが、思っていたよりもスキンシップが多い印象だ。

数十年もの間、基本一人だったから人に飢えているのだろうか?


そして、昨日ついにミズー達ご要望の増築していた部分が完成した、思っていたより完成するのが早かったな。

ここは基本的に遊戯用の部屋だ。部屋は母屋より広めでミズー、タイキ、ダイチがいても十分に余裕がある。

総板張りで母屋の一階から外に出ることなく直接行き来できるようにした。

俺が店に出ている時等にも、タイキらが勝手に出入りが出来るようにするため、外から見られる窓は付けていない。


母屋の一階に置いていた雀卓を移し、遊戯室を確認する。


『おお、中々良いではないか。その内タタミも置きたい』


ミズーは畳がお気に入りなようだ。


室内は総板張りの床に、指定していた机や椅子などの最低限の家具が並ぶ。

ジルが椅子に座りながら手触りを確認している。


「これ中々良い机に椅子だねえ。結構値段が張りそうだ」


「そりゃミズー達の要望を聞いたんだから、良くなかったら困る」


『うむ、風呂も十分な大きさがあるな。これなら我も薬湯に浸かれる』


遊戯用建屋には石で出来た非常に大きな湯船があるバスルームが設けられている、水の出し入れは出来ないがそれは最初からミズーが全部やる算段で設置した。


『そう言えばタイキとダイチも普段我が使っている長椅子を求めていたから、近々買ってくれ』


「お前気軽に言ってくれるが、皮が特別な害獣製らしくて、あの長椅子結構値段が張るんだぞ」


『あのヴェンデルガルドとかいう小娘を助けた際に貨幣を大量に貰ったのを我は覚えておる。懐に余裕があるであろう?』


通貨には興味が無いとは言いつつも、見るべき所は見ているな。なかなか目ざとい。

奴らが来たら早く買えと三体でウザ絡みしてくる事は間違いないだろう。


『しかしここまで広いのだ、ビリヤード台やダーツボード等も欲しい』


ダーツは皇都でやった時割と気に入っていた、体の形を変えられるので前足をダーツボード近くまで伸ばすズル(ルール上はズルではないかもしれないが)をしようとしていた。

ビリヤード台は皇都で見かけて以降、我もやってみたいと時々漏らしていたからな……。その内、ボーリングのレーンも欲しいとか言い出すんじゃないだろうな。


「無尽蔵に要望されても、限度があるぞ」


『そこら辺は弁えておる、今日あたりタイキとダイチが来るであろう。麻雀しながら家具や遊具については話し合おうではないか』


「トール、今日も麻雀やるなら私もやりたい」


ジルはここまで一回も麻雀をやった事が無かったらしいが、俺と一緒に打つ事で大体覚えたようだ。俺の代わりに時々、ミズー達と麻雀を打っている。


『お主らは夫婦ゆえ、二人一緒でも良いぞ』


「おっ、なんだミズー余裕だな」


『麻雀は我の得意領域よ、お主にもジルヴィアにもタイキにもダイチにも容易には負けぬ』


確かに、麻雀に関してはミズーが相当強いのだ。とにかく放銃しないのが強い、それゆえに大幅に勝ち越している。それを聞いてカチンと来たのかジルが対抗する。


「へえ……、ミズー随分余裕なのね。良いわ、今日は私とトールで組んで麻雀をやる!」


『望むところ、かかってこい』


ジルが何故か燃えている、……今日も長い夜になりそうだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



遊戯室が完成してから一週間、今日も店を頑張った! ちなみに今日の客は十五人だ。ちなみに日中ジルは一緒に店番したり、請われて歌を歌いに行ったりしている、今日いないのもそのためだ。


『お主の店は繁盛せぬのう。おそらく希望通りの環境なのだとは思うが』


「生活できるぐらい稼げれば十分だろ、死んでも金はあの世に持っていけないんだぜ?」


『確かにな。定期的な大きな金が入ってくるようにもなってるし、どうしても贅沢したければ、お主の「加護」を使えばすぐに稼げるというのもあるか』


「そうそう、これぐらいが続くぐらいでちょうど良いんだ」


『今日はダイチが来ておるようだな』


ミズーと雑談しながら遊戯室へ入っていく、入っていくと巨大なマヌルネコに見えるダイチが長椅子で香箱座りしていた。その近くに見慣れない存在が一人? 頭から足まで全身が葉っぱにまみれた謎の存在が椅子に座っている。見た感じ調整者っぽいが。


「ダイチ、そいつは何者だ?」


『……ここから遠く南に行った森の調整者だ』


「いつも俺が行っている森とは違う所か」


『……うむ』


ミズーがそれに付け加える。


『お主がいつも薬草を取りに行くここから南にある大きな森から、さらに南へだいぶ離れたところにある森の事だ』


「しかし、その森の調整者が何故俺の家にいるんだ?」


『▲☆=¥〇●>♀×&◎♯£』


全身葉っぱまみれの森の調整者が俺に向かってよく分からない言語で話始めた? 聞きようによってはお経に聞こえる。


「すまん、俺には何と言っているのかさっぱり分からん」


『お主の薬湯がいたく気に入ったようだ』


ついによく分からない調整者までウチの風呂に勝手に入りだしたか。

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