閑話 怒りのシンデルマイサー

時はトールがザレに帰る少し前に遡る。怒り心頭のシンデルマイサーは総合ギルドへと馬車で向かっている。お付きの人間も少しビクビクしている。


シンデルマイサーは怒りっぽいというわけではないし、むやみにキレ散らかすような人物ではない。むしろ上位貴族としては話が分かる人物として知られている。

腹を割って話せば、相応に応えてくれると頼りにしたり相談する者も多い。


ただ、とにかく厳正で曲がった事や人の道を外れたようなことが大嫌いで、それに対しては苛烈な対応をする。

そして現在、ザレの総合ギルドでそれが起こっている。間接的とは言えそのせいでヴェンデルガルドの治療が遅れる事になってしまった事も含めて怒り狂っているのである。


総合ギルドに馬車が付いた。シンデルマイサーが馬車から降り、総合ギルドに入る。

そのままずんずんと総合受付の方へ歩いていく。

歩いていく人物のただならぬ雰囲気に、その場にいる人たちは息をのむ。


総合受付には担当の女性が座っている、その女性に向かってシンデルマイサーが話しかけた。


「総合ギルド長を呼んでもらえるか?」


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


「皇国貴族、エーレンフリーコート・シンデルマイサーだ」


「シンデルマイサー様!?承知いたしました、少しお待ちください」


驚いた様子で女性はギルドの中へ小走りで入っていく。

シンデルマイサーがその場でしばらく待っていると、奥からでっぷり太った男が悠々と歩いてきた。


「これはこれは、シンデルマイサー様。私がここの総合ギルド長であるマヌエークと申します。ザレの総合ギルドに何用ですかな?」


マヌエークを見て、シンデルマイサーのこめかみの血管がビキビキとなった。


「貴様が総合ギルド長か……。聞いておるぞ、薬師の納品した薬にケチをつけ低い級を付けたと!!しかも罰として報酬は払わないと言ったらしいな!」


マヌエークは笑いながら答える。


「これは酷い言いようですなあ。こちらの正規職員が調べた結果、級をたばかっているのが分かったからそうしたまでですよ」


「左様か……、鑑定した職員と、件の薬師が納品した薬を持って参れ!!」


「ふぉっふぉっふぉっふぉっ、失礼ながらシンデルマイサー様がそのような権限をお持ちでないはずですが?まさか、総合ギルドの運営に貴族の特権とやらを振りかざすおつもりですか?」


「貴族の特権を振りかざすつもりはない、だが総合ギルドの執行権は使わせてもらう!!」


そう言って、何かをドンをカウンターの上に置いた。

置かれているのは模様が描かれた金属製のプレートである。先ほどまで余裕で笑っていたマヌエークはそれを見て、急に青ざめ震えだした。


「そ、そそそそそ、それはぁ!?」


「流石に知っておるか、ザレ総合ギルドでの全権委任証だ。ここに来る前、皇都の総合ギルド本部から了承を貰っておる!!」


「貴族に委任証を渡すなんてありえない!? しょ、しょんな馬鹿な………」


「もう一度言うぞ、総合ギルド長!!さっさと、鑑定した職員と、薬を持って参れ!!!」


マヌエークは力が抜けたようにその場でへたり込む、それを見たシンデルマイサーが振り返り大声を出す。


「この場に、件の薬師以外にこの愚かな総合ギルド長とその息がかかった職員に不当な扱いを受けた者はおるか!!

シンデルマイサーの名にかけて、全てを明らかにした上で保証させる!! 申し出るが良い!!」


シーンとなった総合ギルド内に、おずおずと一人手を上げる男がいる。


「私は革細工職人です、納品されたなめし皮の級を不当に下げられました。絶対に自信があったのに……」


「よく申し出た!!おいマヌエーク、この者が作ったなめし皮と、鑑定した職員も連れて参れ!!」


それを脇で見ていた者たちも次々に名乗り出る


「私は彫金師です、治めた金細工が………」

「俺は鍛冶師だ、俺のインゴッドにケチをつけられて………」

「旦那!! 俺の木工細工がよお………」


その様子を少し離れたところから眺める、エルヴィンとクララ。


「エルヴィン君、私たちが裏から手を回さないでも大丈夫だったみたいね」


「シンデルマイサー卿なら問題あるまい、後は任せよう」


人々からの訴えを、頷きながら聞くシンデルマイサー。そして再度マヌエークの方に向き直り、大声で責め立てる。


「何をしている、総合ギルド長!!さっさとしろ!」


消え入るような小声で、涙やら涎やら鼻水やらを垂らしているマヌエークが詫びを入れだす。


「どうか、どうかお許しくださいシンデルマイサー様……」


「許すも何もあるか!!総てをつまびらかにせよ!!そして、貴様と貴様の悪事に加担した者は一人残らず絶対に厳罰に処されるまで追及する!!」


シンデルマイサーのその宣言で総合ギルド内にわあっと歓声と拍手が上がる。

シンデルマイサーの苛烈な追及は始まったばかりである。



結局、シンデルマイサーの苛烈かつ執拗な追及によって、総合ギルド長であるマヌエークとその部下たちの罪はザレに来るまでの事も含めて、すべて明らかとなった。

その後彼らは皇都に連行され、皇国法にも触れる行いをしていたため拘束され裁判を受ける事となった。

またその罪のみならず、とある高貴なお方の病の治療が遅れる原因にもなったという情報が皇帝の耳に入りその意向も受けてか、前例の無い極めて重い罰を受ける事となった。


罰とは、皇国の北方にある非常に過酷な環境で有名な鉱山での永年労働である。実質、時間をかけた死刑に相当する重罰だ。


また、今回の事件を機に総合ギルドの人事システムにも大きなメスが入り、再発が起こらぬよう透明性が高められることになった。

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