第99話 村の長
古の民の村に着いた夜、久しぶりと言う事もあり三体は麻雀でずいぶん盛り上がっていた。黙っていても時々お茶や茶菓子が出てくるのは楽だな。三体もコーヒーやら飲み物やら食い物やらを要求してくるので、家だと俺がコーヒーやら炭酸飲料やらを用意していたし。
次の日の朝、というか惰眠をガッツリむさぼってしまって正確には昼前ぐらいに起きた。起き上がって、机が置いてある部屋の方へ向かうと香箱座りしたミズー、タイキ、ダイチと巫女のような衣装を着た金髪の女性が座っている。
『おお、トール起きたか。ここの長を紹介しておきたくてな』
トールの横にいる女性が座ったまま礼をする。
「使徒様、お初にお目にかかります。私、この村の長をしているイエーヴァと申します」
見た感じは20代に見えるような若い女性だが、多分実年齢はもっと高いんだろうな。
「これはご丁寧に、トール・ハーラーと申します」
軽く礼をして挨拶をする。
「しばらくはここにご滞在なさると伺っております、調整者様と使徒様にご滞在いただけるとは光栄の至りです」
『うむ。しばらく厄介になるぞ』
「食事、寝具などの用意はお任せください。もし他に必要な物があればすぐにお申し付け頂ければ、こちらで用意できる限りは用意いたします」
『いいね、トールもここだと楽できるんじゃない?』
『……』
「ありがとうございます、御厄介になります」
「使徒様、いやトール様はご丁寧ですね。そう言えば、トール様に一つ伺いたい事があったのです」
「なんでしょうか?」
「実は古の民に変わり者がおりまして、見聞を広げたいとかで人の里を旅して回っている者がいるのです。たまにこの村に帰ってきては色々報告をするのですが、外でうっかり子供を作ってしまったと聞いております。お心当たりあったりしませんか?」
もしかして、エーファの事だろうか?
「その人かどうか確信はありませんが、皇国の街ザレに古の民とそこの領主との子がいるのは知っております。付き合いもありますよ」
「ああ、おそらくその子です。息災に育っておりますでしょうか?」
「領主の子として普通に育てられているように見受けられました。本人も日々楽しそうに見えましたが」
「それは良うございました。迫害されてなどおれば、我が村にて保護した方が良いかと話し合っておりましたので」
「おそらくそれには及ばないと思います、ザレに戻ったら本人に言っておきますよ」
「トール様ありがとうございます、よしなにお伝えください」
すぐザレに戻っても商売出来ないし、しばらくはここでのんびりするか。これはこれでスローライフと言っても良いだろう。
『トールー! 暇だろうしカードゲームやらないか?』
『うむ、麻雀ばかりというのも能がないしな』
『……』
「ああ、構わないが何のゲームをやるんだ………」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シンデルマイサーがヴェンデルガルドを連れて、ザレを目指して皇都を発ってから結構な時間が経った。医師が看てはいるものの日に日にヴェンデルガルドの具合は悪くなっている。
「(ザレでトール殿が見つかり、何とか治療してくれると良いが……。見つかった所で必ず治療できるとは限らないが、これは賭けだ)」
シンデルマイサーの気持ちは逸るばかりだが、そうしたところで移動速度が速くなることはない。ジリジリした憔悴感がつのっていく。
そうこうして、ようやくザレに到着した。ヴェンデルガルドの容体についてはまだ余裕があるようだ。何とかなるかもしれない、まずは旧知の仲であるドミニクがいる東都公邸に向かう事とした。
東都公邸につき、シンデルマイサーが来た旨を伝えるとすぐにドミニクの執務室へ通された。
「ドミニク殿、久しぶりです」
「これはシンデルマイサー様、わざわざザレまでお越しになるとはどういったご用件ですか?」
「緊急でとある人物を探している、理由についてはここだけの話としてもらいたいのだが………」
「なんとヴェンデルガルド様がそのような具合だとは……、しかもその治療をトール殿が行える可能性があると。まずはヴェンデルガルド様に我が公邸にてお休みいただきましょう」
「ありがたい。しかしドミニク殿はトール殿を御存じなのですか?」
「ええ、よく知っております。我が街の賓客と言っても良い存在です。しかし間が悪い事になってしまいましたな。」
「なんと! ドミニク殿とそのような仲だったとは。しかし間が悪いとはどういう事ですか? 出来ればすぐに連絡を取りたいのですが」
そう聞くと、何故かドミニクは眉を吊り上げた。
「結論から申しますと、トール殿は今この町におられません。ふざけた理由がありましてな。私としても如何様にしてやろうかとあらゆる手を打っている所なのです」
「……それは困った、してその理由とは?」
「それはですね………
理由を聞いてシンデルマイサーは憤慨した。やっとの思いでトールが見つかったのにヴェンデルガルドの治療の依頼をする事すら出来ない可能性があるのと、厳正を地のままで行く彼からすると総合ギルドの対応に心底腹が立ったからだ。
「なるほど、結構!総合ギルドの方は私の方で処理いたしましょうぞ。奴らただでは済まさぬ……」
「しかし、中央から口出しすると面倒な事になるのでは?」
「そこは問題ありません、ドミニク殿。それより、トール殿と何とか連絡は取れませんか?」
「北の方へ向かったとは聞いておりますが、具体的にどこへ行ったのかまでは……。バーロザドンを経由する事までは知っているのですが」
うーむと二人腕を組んで考え込む、しかし考えども考えども良い案が思い浮かばない。
それはドミニクただの思い付きだった、藁にも縋るという気持ちでの事だった。
「うーむ……、試しに我が娘に聞いてみますか」
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