第81話 領主の娘

馬車から降りてきた金髪の女性が、ドアから薬屋に入ってくる。

さらに、女性兵士が二人後ろからついてきている。


金髪の女性の容姿は20代ぐらいに見え髪型はショートヘアで、顔立ちは非常に整っている。立派な薄ピンクのドレスを纏っていて、容姿の華麗さとばっちりマッチしている。


「(よくよく見ると耳が少し尖ってないか……?)」


そう、普通の人にしては耳の上側が少し尖っているように見えるのだ。と言っても、創作物に出るようなエルフのように長いわけでもない。


金髪の女性はカーテシーのような礼をする。


「水の調整者様、使徒様。お初にお目にかかります。ドミニクの娘、エーファ・アーヘンです。以後、お見知りおきください」

「私はエーファ様にお仕えしている、ケーテと申します」

「同じくエーファ様にお仕えしている、クラリッサと申します」


三人が自己紹介を終えたのを確認して、ドミニクが続ける。


「今後はトール殿の近所にこのエーファと従者を住まわせます、何でもお申し付けください」


俺の視線に気づいたのか、エーファが自分の耳を触りながら話しかけてくる。


「私の耳が少し尖っているのにお気づきでしょうか? そうです、私は古の民との混血でございます。それゆえ、水の調整者様のお世話を長く出来るかと思います」


古の民ってなんだ? そう思っているとドミニクが説明し始めた。


「トール殿は古の民を御存じでしょうか? 皇国の北の方に古くから住む特殊な民族でございます。美しい容姿に尖った耳が特徴で、寿命が非常に長く千年ぐらい生きるとされております」


聞いた感じだと、ファンタジー創作に出てくるまんまエルフだ。しかしそれでも俺の寿命よりは全然短いというのがアレだな……。


「実は旅をしている古の民がザレを訪れたことがあり、珍しい方ゆえ話を伺いたくて、我が公邸にお招きして食事や酒を出したところ、大変に意気が投合しましてな。私も古の民も酒を飲み過ぎて泥酔してしまい、朝起きたら同じベッドに裸で同衾しておりました。恥ずかしながら、そういう事でございます」


おいおい、領主ともあろう者が行きずりの女抱いて良いのかよ。


「旅をしている最中だということですぐに旅立たれたのですが、その一年後に赤子を抱えて戻ってきて『あの時出来ていた。お前の娘だ、悪いが育ててくれ』と娘を渡してまた去って行ってしまったのです。

それがこのエーファです。それ故、人間と比べて長寿命になると思われます」


どういう遺伝子の受け継ぎ方をするかにもよるんだろうが、ハーフだと千年の寿命が五百年になるのだろうか?

しかし、聞く限りでは古の民と人間とはDNA構造が全然違う気がするが、子供が出来てしまうのか。


「エーファは著名な発明家でもありまして、そういった面でもお役に立てるかと思います。トール殿は皇都を走っている馬無しで動く車をご存知ですか?」


エーファが自動車を発明したのか!?とすると、今後地球で当たり前のように使っていた家電を作らせたりできるかもしれないな。


「はあ、まあそういう事でしたらよろしくお願いします」


そう俺が答えると、エーファがにっこりと笑いながらこちらに右手を差し出してきた。握手かなと思い右手を差し出すと、両手でしっかり包み込み思ったよりも強い力で握ってきた。


「使徒様!!水の調整者の使徒様ともなれば、常人には考えつかぬような発想をお持ちかと存じます。もし、何か思いつかれましたら是非私エーファにご相談ください!!私は発明を生きがいとしております!!発想の具体化は私にお任せください!」


見た目から可憐なお嬢様かと思っていたが、どうやら全然違っていたようだ。

欲しいと思っていた家電はいくつかあるので、今度相談してみよう。全自動雀卓の存在を教えたら、ミズーが作れと煩くなりそうなのでこれについては秘匿しておこうと思う。


「では、水の調整者様、使徒様。本日の所はこれで失礼します、エーファの居宅については後日お知らせいたします」


礼をしてから、ドミニクとエーファとそのお付二名は薬屋から出て行った。

外の集団が店から離れたのを確認してから、俺はミズーに問いかけた。


「さっき、ドミニクが言っていたことは本当なのかミズー?」


『うむ、お主らの言う所の二百年ほど前に大雨が降り続くと言う異常気象が続いてな。お前も会うた湖の調整者から、抑えきれぬと相談がきたのだ。祖と相談したところ、ここは介入すべきということになった』


「そんなまずい事態だったのか」


『放っておいたら、ヴァンド湖一帯の生物と言う生物が死滅し、自然や生態系が破壊されておっただろう。異常気象については特に理由もない、本当のたまたまだ』


「それをドミニクの祖先に見られていたのか」


『うむ。我から話しかけたりした事はない故、そうなのだろう。まあ、我から接触しなければ問題は無い故、奴らはお主が便利に使ってやれば良かろう』


「うーん、まあ向こうから積極的に接触して来なければ良いか」


これも天運のなせる業か、スローライフはまだ大丈夫だ、多分。


ちなみに、程なくしてドミニクが言っていた通りエーファとお付の二人は俺の近所にある家に住み始めた。仮にも領主の娘に当たるエーファがこんな所に住んでいいのかと思ったが、本人が言うには「私は四女で、継承権は長男にあるし、次男も三男もいる。そもそも寿命からして私がアーヘン州の領主になる事は無い。私としても、発明に集中したいから家を出られて丁度良かった」だそうだ。


俺を身内として取り込みたいとか人身御供的な意味だったりとかがあるのかと最初は思ったが、エーファは自身で言った通り発明やら開発やらにご執心で、そういったアプローチは全くしてこなかった。

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