第74話 黄泉がえり

うーん、手助けと言われてもなあ。


『ふむ…、トールどうするのだ?』


「義憤を感じないわけでもないんだが、それほど関りがあったわけでもないからなあ。湖自体や生態系がおかしくなるレベルの話でもないんだろ?それなら、皇国の別の保護官なり警吏になりに任せるのが筋な気がするんだが。」


『まあ、確かに。水の調整者としてもそこまでの案件ではないと考えておる。』


俺とミズーが手伝わない方向で話をしているのを聞いてか、慌てて湖の調整者が言葉を挟む。


『お待ちいただきたい、このまま密猟され続けると水兎の数が減り過ぎて水質が悪化してしまう。湖の東の方にヒトが大勢住む町があるだろう?そこにも影響が出るぞ。』


あーそういう事か、確かにザレでの生活に影響が出るのは困るな。どういう手伝いなのか聞くだけ聞いてみるか。


「その手助けというのは具体的にどういう内容なんだ?」


『使徒よ、我が言葉に耳を傾けてもらって助かる。知っているかもしれないが、祖は我らが基本的には直接ヒトに干渉するのを禁じている。つまり私が密猟者を直接退治する事は叶わぬのだ。』


それはミズーに聞いて知っている、こういう事態でも適用されてしまうのは面倒だな。


「ミズー、こういう火の粉を振り払うような場合でも干渉したらダメなのか?」


『然り。湖自体を破壊するぐらいでなければヒトへの干渉は許されぬ。」


『トゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥ様の仰るとおりである。そこでヒトの子よ、お主を介したい。』


何となく話が見えてきたな…。


「直接じゃない、つまり使徒である俺が調整者から依頼を受けて密猟者を撃退するのは問題ないという事か?」


『その通り、だがお前に直接密猟者を討伐してもらいたいというわけでもない。あくまでお前が密猟者を討伐する意思さえ示してくれれば良い。』


「というと?」


『今までにも何かする際にトゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥ様に手助けしてもらった記憶は無いか?普通、我々が人の世に干渉する事は禁止されているが、契約しているお前を通してであれば問題ないのだ。』


「つまり、俺が討伐する意思さえ示せば、それに協力するという体であとはそちらで諸々の片を付けるという事か。」


『その通り、私とお前は契約していないがトゥゥツォルンオミィイテテテヤインオノンスンウスヤエゥ様は私からすると上位存在になる。つまりそれを手助けするのも道理という事だ。』


「ミズー、祖とやらはこの理屈なら許してくれるのか?」


『うむ、加えて意味もなく人間を大量虐殺するというわけでもないから問題あるまい。』


「しかしそれならそれで湖の調整者が適当な奴、それこそそこらの保護官あたりと契約したら良いんじゃないかとも思ったが実際の所、相当難しいのか?」


『お主は理由が理由なだけに本当の特例だ、調整者がヒトと契約するなどほぼ有り得ぬ。トールよ、気は進まぬやもしれぬが、ザレとやらで生活するなら助けるのもやむを得ぬとも思うが。』


「まあ確かになあ…。」


ザレに日本の上水道局のような立派な浄水施設があるなら話は別だが、流石にそこまで技術が発展していないだろう。


『先ほども言った通り、お前に直接密猟者を殺してほしいわけではない、密猟者と戦う意思だけ示してくれれば良いのだ?如何か。』


「密猟者がまだこの辺りにいるとは限らないんじゃないのか?既に数十匹も集めたのなら湖から去ったのでは?」


『水兎が言うには小屋のような所にとどまっているようだ、水兎を根こそぎ持っていく気かもしれない。』


殺されたのが俺が知ってる三人の中の二人なら、昨日立ち寄った小屋にいるんだろうか? 随分と大胆な密猟者だな。もしくは自分の腕に相当な自信があるか。


『トールよ、とりあえずは了承したらどうか?内容によっては破棄すれば良い。』


「今後のザレでの生活にも関係するし、ミズーがそう言うならまあとりあえず、仮で了承するという形でも良いか。」


『おお、使徒よ感謝する。お前に危害が及ばないようにするからそこは安心して欲しい。』


湖の調整者はそう言うと、遺体に近づき手をかざす。

手から光のような物が出て、遺体を包み込む。光が遺体に吸い込まれると、二人が立ち上がる。


「あれっ、我々は密猟者に殺されたはずでは…?」

「あなた!」


二人とも顔色が著しく悪いが、起き上がって普通に話し始めた。


「えっ、生き返らせたのか!?湖の調整者ってそんなことまで出来るのか!」


『トールよ、そうではない。水兎と同様の存在に作り替えたのだ。未練故か魂が未だ近くに彷徨っておったから出来た事だ。』


水兎と同様って、生物と精霊の相の子のような存在になったって事か。


『ヒトの子らよ、聞け。』


湖の調整者がそう言うと、突然二人の目から光が失われ、まるで意思が無くなったように二人が調整者の方に向き直って、片膝をついて頭を垂れる。


『お前たちは湖の守護者として我が作り替えた、湖の周りに住み続ける内はヒトとしての生を全うする事も出来ようぞ。水兎を守護する仕事についても承知しておる、その体で仕事を続けるが良い。』


抑揚のない声で、それに答える。


「……承知いたしました。」

「……承知いたしました。」


おいおい、なんか操られてるみたいになってるが。


「…ミズー、これ大丈夫なのか?」


『作り替えられた以上、湖の守護者の強制的な命令にはこのように逆らえんが、湖の近くにいる限りは普段の生活は今まで同様に送る事が出来よう。』


それが良いのかよく分からないが、俺がどうこう言ったところで、どうもならないだろうな。


『使徒よ、こやつらを使って密猟者を殲滅したい。』


「密猟者にやられてしまったこの人たちで殲滅できるのか?返り討ちに会いそうだが…?」


『作り替えた故に問題はない、小屋に向かおう。水兎に案内させる。』


水兎が水面を跳ねて移動をし始める、それに続いて湖の調整者が水面の少し上をスライドするように移動する。

そして生き返ったらしい二人は項垂れたまま立ち上がり、空中に浮いている。そして調整者の後ろについて移動をし始めた。


「ミズー、とりあえず追いかけるか。」


『承知した、乗れ。』


ミズーに乗って、湖の調整者たちを追いかけはじめた。

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