第70話 返り討ち

「ゲヘヘ、腕の一本ぐらいなら死にはしねえよな!」

「おらあ、精々あがいてみせろや!!」


口々に叫びながら、武装集団が数人で襲い掛かってくる。

すかさず小麦粉が入った袋を投げつけ、マテンニールを『薬師の加護』で散布する。


「はっ、何を投げつけやがったか知らねえが効くかよこんなもん!ぐあっ、目が痛ぇ、何も見えねえ!!」

「目が…目がッ!!」


マテンニールはいつも良い仕事をしてくれる、マテンニールにやられてフラフラしている連中をすかさず槍で斬りつける。

一人目、二人目は真横に薙ぎ払って体を上下に真っ二つにした。

三人目は斜めに切り上げ、四人目は斜めに切り下げる。

五人目は腹に槍を突き刺してからぶん回して吹き飛ばし、六人目は石突で頭を思いきり突き飛ばした。


うん……?あれっ???

何か腕力が上がって体のキレが前にもまして良いような…。特にパワーアップする心当たりはないが…、たまたま調子が良いだけか?


全員死んでるとは思うが念のため、トリカブトも追加で撒いておく。いつもの癖でやってしまったが、全員殺すんだし、よくよく考えたら小麦粉を投げつけなくても良かったな、勿体ない事をした。


武装した集団はそれを唖然と見ている。少ししてハッとした集団のリーダーらしき男の顔が驚きで歪む。


「てっ、てめえナニモンだ!!その力は一体!?先に大川辺猫をやれっ!!」


その言葉と同時にミズーへ3人が襲い掛かる。お座りしているミズーが前足を上げると、ビームのような細い水流が出て、3人の額をあっさりと貫いた。3人はそのまま力なく倒れ込む。


「ばっ、馬鹿な…!?てめえら、一体どうなってやがる!」


「ギャーギャー言ってないでさっさと来てもらえませんか?」


「くっくそお…、全員でかかれっ!!」


残りの集団が武器を構えて一斉に俺へと襲い掛かってくる、すかさずマテンニールとトリカブトを連中に撒く、今度は小麦粉は無しだ。


「……なんだ?がああっ、目がっ目が痛えええ!!何なんだこりゃあっ!?」

「くそぉ、何も見えねえ!!てめえ、よく分からねえ『加護』を使いやがったな!!」

「おっ、俺はオッサンに雇われただけでお前に恨みはねえ!!頼む、助けてくれえ!!」


目を押さえて立ち竦んだり、武器をを振り回して暴れながら叫んだりしているが、もう手遅れなんだよなあ。これまでにも似たような悪事を働いてきたんだろうし、年貢の納め時ってやつだ。あの世に行ってもらおう。


バルシュミューデ親子は茫然として立ち尽くしている。

後でこいつらも片付けないと。


『トール、終わったか。お主に死なれると困る故、念のため見守っておったが無用であったな。』


「思ったよりも大した事無くて助かったよ。それより水って出せるか?武器を洗いたい。」


『無論だ。』


ミズーの出してくれた水で槍の穂先をざっと洗ってから、さきほど真っ二つにした死体の服で奇麗に拭き上げた。

この槍は手入れが適当で良いのも利点だな。


そうこうしてる内に、武装集団が倒れて苦しみだした。トリカブトが効いてきたか。


「嘘だ…、四級狩人の俺が六級にやられるわけがねえ!!あががっ、苦じい…助げでぐれ…。」

「嫌だっ、死にたくねえ……。」

「あぶぶぶぶ…。」


これで世の中が少し奇麗になったな。

バルシュミューデ親子を見ると、二人ともへたり込んでいる。カスパルに至っては股間部分から生温かいであろう液体が漏れている。


「さあてと、次は貴方たちですね。」


バルシュミューデは慌てたように叫ぶ。


「やっ、やめろ!!貴族である私を平民が殺しても良いと思っているのか!?」


「良いと思ってますよ、こっちを殺しに来たような輩ですし。それにその連中を使って今までにもこんな事してきたんでしょう?悪人は消えた方が世のため人のためです。」


「まっ待て、もう二度とお前をどうにかしようとはしない!!金なら幾らでもやる!!幾ら欲しいんだ!?」


「いやあ、それを信じるのは流石に無理でしょ。さて、どうするかなあ。正当防衛とは言え、貴族を殺したら面倒な事になりそうだが…。」


『トールよ、先ほども言った通り処理については我に考えがあるが。』


「何か良い方法があるのか?」


『ダイチを使うのだ。既に呼んである。』


ミズーがそう言うやいなや、地面がボコボコと沸き立ち、そこからダイチが姿を現した。


『儂に何用か?』


『おお、丁度良い頃合いに来たな。そやつらはトールを殺そうと襲った輩だ。もろもろ土に還してもらおうかと思ってな。』


『トールを…?それは捨て置けぬ。』


泡を吹いて動かなくなっている武装集団の死体にダイチが前足を向ける。

前足を向けられた死体は、足元から服や体の色が茶色くなっていき、ボロボロと崩れ始めていく。やがて全てがボロボロの土くれへと変化した。


「ほお、ダイチはこういう事も出来るんだな。」


『…うむ。』


そう言うと、全ての死体が同様にボロボロの土くれになった。

それを見たバルシュミューデ親子の顔面は蒼白だ。


「じゃあ、最後は貴方たちの番です。死体や服が消えると探しようがないので殺人事件にすらならないですね。」


「やっやめてくれ、頼む!何でもする!!」

「いやだああ、死にたくないよ父上!!」


ダイチが前足を、バルシュミューデ親子の方に向けると、生きたままでバルシュミューデ親子の足先から土になっていく。


「いっ痛いいいい、やめてくれええ!!助けてくれええ!」

「ぎゃああ、助けて助けて!!」


よく分からないが相当痛いようだ、バルシュミューデ親子は断末魔を上げながら全身が土くれになった。


『では儂は帰るぞ。』


『そうだ、ダイチよ。あちらに干物になっているのもいるから、それも土に還しておいてくれ。』


『承知…。』


「ダイチ、わざわざ来てくれてありがとう、つまらない事で呼んで悪かったな。」


『構わぬ、それより次の遊戯を楽しみにしている。』


そう言うとダイチは地面に潜るように同化していき、消えてしまった。完全犯罪に持ってこいの能力で助かるが、祖から禁止されているらしい直接人に干渉する行為に該当するのに大丈夫なんだろうか?それに、よくよく考えたら貨幣ぐらいは残してもらった方が良かったな。


ともかく、今後も荒事を完全に避けられないであろうと考えると、この場にいないタイキも含めてやはりは重要という事になる。

しかし、ほんとにこいつらテーブルゲーム好きだなあ…。皇都を出る前日の夜にトランプもやったが随分盛り上がっていた。


「やれやれ、とんだ回り道になってしまったなミズー。」


『しかし、これで面倒は消え去った。』


「そうだな。」


そろそろマテンニールとトリカブトがだいぶ減ってきたから、途中で在庫も補充しないと。この辺りの林には『薬師の加護』で探した限りでは、無さそうだった。皇国による造成森林なんだろうか?



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



バルシュミューデ卿に馬車の迎えを頼まれていた御者から衛兵に通報があった。というのも予定した日時に向かったが、いくら待てども指定場所に現れないとの内容で、辺り一帯が捜索された。


家の者には鹿狩りに行くと言って部下も連れずに出立したらしいが、馬車で林の前に降りてからの足取りを掴む証拠になりそうなものがいくら探せども一切見つからず、ちょっとした騒動になった。そもそも、皇都から馬車で一日程離れた辺りにある森林には鹿はほぼ生息していない。


ただでさえ降格直後なのに、あまりに不用意と皇国上層部、特に厳正・厳格で知られるシンデルマイサー翁の怒りを買った。元々評判や評価が良くなかった、跡継ぎがいない等の複合的な理由で、後日バルシュミューデ家はあっさり改易となった。そういう事情と、証拠らしい証拠も無かったため、害獣か野生動物に襲われ連れ去られたのだろうと結論付けられ、バルシュミューデ親子の捜索も早々に打ち切られた。


これ以降、バルシュミューデ家は皇国の歴史から消えてしまった。

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