皇国流浪東編

第69話 襲撃

皇都ベルンの東の門から出て、皇国管理区域を進む。

当然移動手段はミズーで、俺は背中に乗りっぱなしだ。

微妙なしっとり感がどうしても気になるが、馬車より早いし、揺れという面では乗り心地も良いので不満は言うまい。


町を出て半日以上移動したあたりでミズーが話しかけてくる。


『トール、何やら遠くから監視されておるようだぞ。』


「面倒だな…、どこのどいつだ?」


『どうもよからぬ輩である事は確実なようだ。』


そう話していると、遠くから何かが飛んでくるのが見える、矢か!?

ミズーが話しながら右に逸れて、矢をかわす。


続けて矢が何本か飛んでくる、さらに右にそれて矢をかわす。

ただ、俺やミズーを狙うには微妙に狙いが外れている気がする。


『どうやら、どこかに誘導したいように見えるが。どうする?』


「このままずっとつけられても面倒だから、とりあえずは誘導に乗ってやるしかないんじゃないか?」


『ふむ、そうか。では誘導に乗せられるとしよう。』



そのまま矢をよけながら進むと、街道から逸れて林の深くへ導かれていく。

やがて少し開けた場所に出た。


そこには、十数人のガチガチに武装した人と見知った顔が二人いた、バルシュミューデと呼ばれていた親子だ。

長いひげを撫でながら、バルシュミューデ父の方が話しかけてきた。


「やっと来おったか平民。」


「まったく、平民はどこまでいっても無能だな!」


ミズーから降りて、二人に対峙する。


「私に何か御用ですか?」


「ふんっ!貴様のせいでシンデルマイサーの爺に目を付けられ、色々調べられた結果降格されてな。今や八級貴族、チビで青臭いシュナイダーより下の貴族だ。

元々死にかけてた孫が術式の失敗で死んだぐらいでゴチャゴチャうるさい爺も爺だが、元々の原因はお前だ平民。」


「(こいつ最高に口が悪いな…)それは御愁傷様ですね。」


「何がご愁傷さまだ、お前ら愚民は黙って我らに従っておれば良いのだ。あの時は余計な事を言いおってからに!!」


「父上の言う通りだ、お前のようなゴミが余計な事をしたせいでこうなったんだ!」


「八つ当たりはご勝手になさればよろしいが、それで結局どういったご用向きで?」


バルシュミューデ親子の顔が醜い笑みに歪む。


「執事も連れずに何故このような場所に我らがいるかなど決まっておるだろう、お礼参りというやつだ。お前と言うゴミをどうこうした所で私の地位はもう戻らぬ、この先出世の見込みもあるまい。

だが、ゴミを片付ければ奇麗になって留飲が多少は下がるであろう?そういう事だ。」


「最初に会った時からこの平民が気に入らなかったんだ。おい、お前ら!」


その掛け声とともに、バルシュミューデ親子の周りにいた武装した男たちがぞろぞろと前に出てきた。


「おめえと猫に恨みはねえんだが、バルシュミューデの旦那は金払いが良くてなあ。ま、運が悪かったと思ってくれや。」


それを聞いてか、カスパルが得意そうにまくしたてる。


「知っているか、平民!こいつらはなあ、表向きは害獣狩人をやってるが、裏でお前のような気に入らんゴミを片付ける「清掃者」って有名な集団なんだぞ!

こいつらは全員四級か五級の狩人だ、六級狩人のお前じゃ手も足も出ないだろ!!」


「おいおい、坊ちゃん。俺らの事をあまり広めねえでくだせえよ。ま、こいつらは今から死ぬから構やしませんが、ハハハハハ。」


武装した集団が一斉に笑う。

こいつらにとって都合が悪い人を秘密裏に殺すための集団ってところか。バルシュミューデは思っていた以上に悪党だったようだ。


「前もって話したことは覚えているだろうな?この平民が憎たらしくて仕方がないゆえ、私と息子がじっくりとトドメをさしたい。」


「もちろんですぜ、バルシュミューデの旦那。死にかけの状態で引き渡しやす。こっちの大川辺猫はどうしやすか?」


「ああ、そっちは殺しさえすれば後はどうでもいい。」


「へい、分かりやした。珍しい色をしているから皮が高く売れるかもしれねえなあ、へへへ。」


やっぱり、俺を逆恨みして秘密裏に殺すためにここに誘導したわけか。しかし、俺とミズーが町から出て後を追いかけたんでは間に合わないだろうから、秘密裏に皇都を発つ事を調べて先回りしてたんだろうが、バルシュミューデ親子はいつからここにいたんだろう?今更俺を殺したところでどうもならないだろうに、執念深さがエグいな。


まあそういうつもりなら仕方がないし、容赦する必要もない。そんな事しなかったら長生きできたのにな。


「バルシュミューデさん、一つ聞きたいんですがここに表向きにはどういう理由でお越しになったのですか?」


「ハハハハ、教えてやる平民。鹿狩りだ、お前と言う名の貧弱な小鹿のな。皇都に土産は持ち帰れぬがな。」


腕を組んで、少し考えてからミズーに問いかける。


「なあ、ミズー。これなら全員殺しても野生動物にやられたって事で通るかな?少し無理があるようにも思えるが。」


『なあに、死体を消してしまえばどうにもできまい。』


「確かにそうだが、死体や衣服を完全に消す方法に何か心当たりでもあるのか?」


それを聞いた武装した集団のリーダー格の男は、怪訝な顔でこちらを見ている。


「何を言ってやがるてめえら、頭がおかしくなったのか?…待て、大川辺猫って喋れるんだったか…?そこまでの知能はねえはずだが…?」


思い出したかのように、ミズーが言う。


『おおそうだ、トール。弓を撃ってきた輩は途中で片付けておいたぞ。』


「そりゃご苦労さんだな。」


『文字通り、干物になっておる。』


人も水分が減って干物になると味が濃くなるんだろうか?獣は喜ぶかもしれない。


「…そういや、ここに合流する手はずだったのに、あの二人いつまでも来やがらねえ。まさかとは思うが…。」


考え込んでいる武装集団のリーダーに向かって、バルシュミューデが怒号を飛ばす。


「何をしている、さっさとそいつらを片付けないか!!」


「…分からねえが、やるしかないな。お前ら、ささっと畳んじまえ!!」


武装集団が全員各々の武器を構える。

ここで全員死ぬなら『薬師の加護』を見せても問題ないな、こちらもフルパワーで行かせてもらおう。


「ミズー、そっちに行ったのは任せて良いか?」


『何なら全て我に任せて貰っても構わんが、お主もたまには体を動かすのも良いだろう。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る