幕間 迷惑な超越者
最初に麻雀を行った日、トールの家で3匹の大きい猫が密かに喋る。
『トールは寝たのかい?』
ミズーが隣の部屋のトールの様子を伺う。
『うむ、寝たようだ。お主ら、麻雀はどうだった?』
『いや、実に楽しかったよ。こういう娯楽を、人がやっているのを遠目で見た事はあるけど実際にやった事は無かったからね。今後は君が契約したトールを通せば、娯楽なり食べ物なりその他なりといろいろ楽しむことが出来るのだろう?』
『…遊戯は定期的にやりたいのう。』
『何を言うておるか、トールと契約したのはあくまで我ぞ。
お主らは我が呼ばない限りは基本的に祖の命通り、人と積極的に干渉してはならんのではないか?』
『うーん、そう言われるとそうかもしれないなあ。』
『…では、儂らもトールと契約すれば良い。』
『お主らはそのようなご指示を祖から頂いておらぬだろうが。』
『しかし実際に彼を見て分かったけど、彼の「大いなる天主」から与えられた『加護』は相当なもんだね。
ここまでのは今まで見た事が無いよ。あれを貰っちゃこの世界の通常の人間だと生まれてすぐ消滅だね。』
『然り。つまり寿命延伸しなければトールが死んだ時の周りの崩壊はとてつもない事になろう。今死ねば、少なくともこの国と生物全ては死滅することになるだろう。下手すればこの星も半壊するやもしれぬ。「大いなる天主」も気まぐれか知らぬが、とんでもない事をしてくれたものだ。』
『トールはどれぐらい生きる予定なんだい?』
『契約による延伸で、人間の年月でおおよそ2000年といったところだな。それぐらいあればそこまでの影響は出ないだろうというのが祖の見立てだ。』
『ふーん…。そんなもんか。』
ロシアンブルーぽい大気の調整者は上を向いて、考えるそぶりをしている。
『…それでは短い。』
マヌルネコのような大地の調整者が独り言のように喋る。
『それについては祖もおっしゃっていた。影響が小さくなるだけで、なくなるわけではあらず。2000年程度ではおそらくそれなりの崩壊は起こるとな。
だが人の精神があまりに長期となると耐えられぬやもしれぬともおっしゃっていた。
「大いなる天主」の権能でトールの精神もかなり強化されてはおるはずだが。』
『なるほどねえ。例えばだけどさ、同じぐらいの寿命を持つ「親しい連れ合い」がいればもっと伸ばしても大丈夫だったりしないかな?人は助け合いの生き物なんでしょ。』
『しかし「大気」よ、そのような生物おるまいよ。北におる古の奴らとてトールの寿命には若干及ばぬだろう。』
『それがねー、いるんだよなあ。それも人で、もっと長い寿命を持っている者がこの大陸に。』
『そんなわけがあるまい。』
『要はアレに見染められた人がいるんだよ、この時代にはね。トールにとって幸いな事にメスだよ。』
『なんと、まさか…。』
『トールの寿命からすればいずれ出会うのは間違いないよ、それで上手い事くっつけるのが前提であれば寿命を延ばしても良いんじゃないかなあ。それに君は常に同居するし、僕らも話し相手にはなれるんだしさ。』
大気の調整者はニヤリと笑う。
『…では儂らも契約して構わぬな。』
『そうそう、流石に「全契約」とはいかないけどね。「半契約」なら問題ないと思うんだ。
寿命を延ばしたり体を頑丈にする分には、より世界への影響を小さくできる、言わば祖の御指示通りだからさ。
最悪、精神がおかしくなったら君が海中深くまで沈めるか、僕が星の外まで連れて行けば良いでしょ。』
『…まあ我としても特に反対する気は無いが。「半契約」の後に、祖への報告はするのであろう?』
『それは当然だよ。』
『…決まりだ。』
三匹の大きな猫が、物音を立てないようにしてトールが寝ているベッドの近くまで移動する。
『完全に寝ておるようだな。』
『僕は契約で寿命をもう少し伸ばすよ。』
『…儂は体躯を強化しよう。』
『トールは寿命が伸びすぎて困るような事を言っておったから、契約印は目立たぬ所にした方が良かろう。』
『そうだね、背中の辺りが良いかな。』
丁度トールが寝返りを打って、横を向いて寝ていた。
大気の調整者が前足をそっとトールの背中に当て、何やらブツブツ唱えると体が発光しはじめ、それがトールに移っていきやがて光が収まった。
それが終わるのを見てから、大地の調整者も同様の作業を行う。
『これで寿命が1000年ぐらいは伸びただろうし、体も相当強くなったはずだ。言わなきゃ分かんないだろうけど。しかし異世界の魂は素晴らしいね。普通僕らみたいな高次存在とこれだけの複数契約したら魂自体が破裂しちゃうよ。』
『…これで儂らも契約者、トールに直接干渉しても問題なくなった。』
『じゃ今日の所はこれで失礼するよ、今後は定期的に集まって色んな遊戯をやりたいなあ。次にトールと会った時は僕らにも呼び名を付けて貰わないとね。短い間とは言え仲良くやっていきたいし。』
『…。』
大気の調整者は空気に混じるように色合いが薄くなっていき、やがて消えた。大地の調整者は潜るように足元から家の床と同化していきこちらも消えた。
寝ているトールを見ながら、ミズーが小声で呟く。
『お主の望まぬ形かもしれぬがこれも定め、諦めて貰おう。』
最高位の調整者たちが集まってしまったのもトールの天運ゆえなのだろうか。
ミズーはトールに神々が手前勝手な理由で人に『加護』を授けると説明したが、手前勝手なのは神々だけではない調整者たちもなのだ。
そしてその手前勝手な超越者たちに、人があらがう事は出来ない。
トールは付き合うのが強制ならミズー達を便利に使ってやろうと考えているが、それは逆もまた然りなのである。
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