第58話 雀士

雀卓を置くのに丁度いい大きさ、かつ少し高めのちゃぶ台のような机があったので、そこに雀卓を置く。そして麻雀牌を卓上にばらまいてから、点棒を2万5000点ずつ全員に配る。


『これが点数計算に使用する点棒ってやつか、なるほどね~。』


俺は低めの椅子に腰かけるが、三頭(三人?)の猫は体の大きさ的に地べたにお座りすれば丁度いい高さだ。


『ふうむ、これを混ぜてから並べるのであったな。』


人一人と、馬鹿でかい猫三頭で麻雀牌をジャラジャラと混ぜている画は相当シュールだ。地球で動画サイトにアップすれば1億再生も狙えるかもしれない。

牌の動きを毛が邪魔しそうに見えるが、全く支障がないのは上手くコントロールしてるんだろう。


それぞれ山を積み上げる、上手く積み上げないとバーンと崩してしまうものだが三体とも余裕だ。


「お前ら、やったこともないだろうに積み上げるのが上手いな。」


『ふふ、そうであろう。これも我らの力をうまく制御してやっておるのだ。』


ミズーは得意げだが、お前たちのその強大な力を麻雀なんかに使って祖から怒られないのだろうか。


「とりあえずは半荘で良いか?」


『うむ、良かろう。』


親を決めてから、サイコロを振って順番に四個ずつ牌を取っていく。

ここでも三頭とも器用に二個ずつ取っていく、見た感じだと前足の肉球に麻雀牌がくっついているようで、それが手元に来るとパッと離れる。


『…。』


マヌルネコっぽい「大地の調整者」は相変わらず無口だ、見た目は猫だが何となく麻雀が上手そうな雰囲気がある。


『うーん、どういう手にするのが良いのかなあ…?』


ロシアンブルーっぽい「大気の調整者」は調整者らしからぬ、軽い感じだ。


『ふうむ、ここから最善とされる役を導き出すわけか。』


「水の調整者」ことミズーは小難しく考えているようだ。

とりあえず回していってみよう。



しばらくやってると、同じ調整者なので似たような打ち筋なのかと思っていたが、三頭とも全然違う打ち方をするのが分かった。


まずは「大気の調整者」ことロシアンブルーっぽい猫だ、こいつはとにかく鳴きまくって安い手でも早上がりをする傾向が強い。

猫だけにこれが本当の鳴きだなと少し思ってしまった。


『貴様、さっきから鳴いてばかりではないか。』


『ふふ、この遊戯は手が安かろうととにかく早く上がりまくった人が強いんだろ?なら鳴き散らした方が得じゃないか。』


確かにその通りだが、手が読まれやすくなったり、打牌出来る種類が減るから放銃する可能性も上がるんだよな。


一方で「大地の調整者」ことマヌルネコは一切鳴かない、面前厳守マンだ。

高めの役と理由は分からないが「三色同順」が好きらしく、上がった時に満足そうな顔をしていた。


ほぼ喋らないが、三色同順で上がった時には


『トールよ、儂の「三色同順」をどう思う……?』


めちゃくちゃ渋い低めのおっさんボイスで問いかけてきた、ちょっと怖い。


「いや、良いと思います…よ?」


そう答えると、


『そうだろう、そうだろう。』


と満足げに頷いていた、何が言いたかったのかはよく分からない…。


ミズーについては、「水の調整者」だけあってか変幻自在の打ち筋だ。必要とあれば鳴きもする。上がり役もバラバラで、何かが好きと言うよりはとにかく最善手を打つという印象が強い。そのせいかやや長考する傾向にある。

何より強いのがほとんど放銃しないところだ、ミズー恐るべし。


しかし三頭ともそうだが、麻雀を初めてやったはずなのに一切チョンボしないのは流石としか言いようがない。

むしろ俺が一回誤ロンでチョンボしてしまって、ミズーから『トールよ、それは間違いではないのか?』と指摘されてしまった。


結局、ミズー達にとって初の麻雀の結果は1位がミズー、2位が「大気の調整者」、3位が俺、4位が「大地の調整者」になった。


『やはり我が一番だな。』


ミズーはかなり得意げだ、一方でロシアンブルーっぽい「大気の調整者」は悔しそうだ。


『ぐぬぬぬ、次は僕が勝つ!!』


『…。』


マヌルネコっぽい「大地の調整者」は一切しゃべらず、何を考えているのか分からない。


「半荘が終わったが、まだやるのか?」


『当然だよ、勝ち逃げなんて絶対に許さない!』


『ふふ、何度やっても我が勝つに決まっておろう。』


『…。』


どうも三頭ともまだまだやる気満々なようだ、これは長くなるぞ…。



その後、夜までぶっ通しで麻雀をやりまくった。

結果として、やはりミズーが一位になる事が多く、「大気の調整者」がそれに続く感じだ。

「大地の調整者」はとにかく高めの役を狙おうとしているので、順位こそ振るわないが、一度オーラスを四暗刻で上がり大逆転して一位になっていた。


「もう夜も遅いし、そろそろ終わりにしないか?」


『うーむ、我はまだまだ出来るのだが…。』


『僕もだよ。』


『…。』


「俺は普通の人間だから、そんなぶっ続けで麻雀出来ないぞ。また今度やれば良いだろ。俺の健康を守るのもミズーの仕事じゃなかったのか?」


『お主は既に普通の人間では無いと思うが、それを言われると弱いな。分かった今日はここまでとしようではないか。』


『分かった、また今度やろうよ!麻雀、僕は気に入った!!』


『…。』


今後もこの謎メンバーによる麻雀大会が定期開催されそうな雰囲気があるな。


『我らはまだ話す事がある故、トールはそちらで寝るが良い。』


「そうか?じゃあ俺は休ませてもらうぞ。」


そういって、俺は隣の部屋にあるベッドで横になった。

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