第57話 麻雀

麻雀の本を道端で堂々と読んでいたミズーを連れて、そのまま家まで帰る。途中の屋台で晩飯として、ピザのような物が売られていたのでそれを買った。

ミズーは家に帰るまで何故か無言だった、何かを考えこんでいるのだろうか?

とりあえずこのピザみたいなパンを食べよう、と思った時だった。


ずっと黙っていたミズーが突然声を出す。


『トール、我は麻雀がやりたいぞ。』


「は?」


『あの入門書を読み規則は理解した、故にやりたくなったのだ。』


「やりたくなったのだと言われても二人で麻雀は出来ないぞ、そもそも道具一式も無いし。」


『その、例えばだが、今日お主が入っていった店で我が麻雀を打つとおかしいだろうか?』


「猫が麻雀を打つわけがないから、どう考えてもおかしいだろ。」


『人の形態になればどうだ?』


「いや、身長が俺の倍あって肌の色が青色で、顔が猫みたいな人間なんていないから駄目に決まってる。」


『そこを何とかならないか?』


「いや流石に無理だぞ。」


『う~~~~~む………。』


唸った後にいつもの香箱座りをしながら、上を向いて何か考え込んでいる。

考え込んだ所で、お前が麻雀をやるのは無理だと思うが。



ミズーは結局、食事の催促もしないでそのままの恰好で考え込み続けていたが、ふと声を出した。


『うむ、これしかない。』


ミズーがこちらを向く。


『トールよ、麻雀道具一式だけ買ってきてはもらえぬか?道具さえあればこの家でも麻雀は出来るのだろう?』


「まあ、確かに道具があればどこでも出来るが、四人集まらないと麻雀は出来ないぞ(ああ、サンマなら三人でも出来るか)。」


『うむ、残り二人は我が集める。』


「ええ??お前、祖とやらに人と関わったらダメって言われてるんじゃなかったか?」


『そこはこちらで何とかする、だから道具を買ってきてくれ。頼む。』


と言いながら、こちらに圧し掛かってくる。抗議したり、何かしらのお願いがあったりすると、いつもこうやって纏わりついてくる。


『なあ、頼むトール。我の願いを聞いてはくれんか?寿命も伸ばしてやったし、家を安くで買わせてやったであろう?』


「(寿命を伸ばしてくれと頼んだ覚えは無いが)ああ、もう分かった分かった!道具を買ってくれば良いんだろ?」


『おおそうか、では明日買ってきてくれ。我は残って二人を集めるゆえな。』


こいつは一体何を考えているのか…?



ミズーに麻雀の道具一式を買ってきてくれと頼まれた次の日の朝、雑貨屋に見に行くことにした。

昨日はそこまで見て回らなかったが売っているんだろうか?


ミズーは家に残り、何やら準備をするそうだ。メンバー二人をどうにかして集めるんだろうが、実際どうするんだろう?


マーケットエリアの雑貨屋を見て回ると、多くはないものの、ちらほらと中古の雀卓と牌が売られていた。

日本で売られている牌はおそらくほとんどがプラスチック製で、重量を増やしたり全自動対応のために中に鉄などの金属が入っているんだと思うが、こちらの牌は何で出来ているんだろう。


地球だと確か象牙の麻雀牌があるらしいので、こちらだと害獣の牙とか骨とかを使っているのかな?


雀卓も緑色の布が張られている物が一般的なようだ、ざっと見て回って状態が良さそうな中古品一式を購入した。

しかし牌はともかく、机に置いてやる事を想定して足がないタイプの雀卓を買ったが、槍も持ってるからこれを持って帰るのは一苦労だぞ…。



牌や点棒、サイコロのセットはリュックに入れ、雀卓を担いで何とか家まで持ち帰った。もう昼過ぎだ。


「はーっ、これは結構大変だったな。」


雀卓を脇に置いて、一息つく。そして家のドアを開けて中に入る。


『おお、早かったなトール。』


リビングに入ると、いつものミズーだけではなく、さらに大川辺猫が2匹増えていた。なんだこいつらは!?


「おい、ミズー。なんか新しいのが増えてるんだが、こいつらはなんだ!?」


うち一匹はビロードのような青紫色をした短毛の大川辺猫で、目はミズーと同じ緑色だ。地球にいたロシアンブルーに似ているように見える。


『ミズーって君の名前かい?面白い名前を付けられたね。ふうん、これが祖のおっしゃっていた天主の加護を直接授けられた人のオスかあ。』


そう言いながら、こちらに近づき興味深げにまじまじと見つめてくる。こっちの大川辺猫も喋ることが出来るのか。

砕けた口調の声は少年のような少女のような中性的な感じだ。


もう一匹の大川辺猫は、長い黄土色の毛が密に生えていて、そのせいかボワッとした体格に見え、顔のパーツが真ん中に集まっているように見える猫だ。

目は他の2匹同様緑色だ、これは一時期話題になったマヌルネコとかいう野生の猫に似ている。この猫も近づいてきて、こちらをじっと見つめている。


『……。』


この猫は喋れないのだろうか?一切声を発さず、こちらを見続けている。

大きさもあって二匹にじっと見られると圧が凄いな。


『トールよ、麻雀の面子についてはこちらで集めておいたぞ、この二人がそうだ。そちらが「大気の調整者」だ。』


ロシアンブルーの方を前足で指し示す。


『そしてこちらが「大地の調整者」だ。』


なんか立派な名前の調整者だが、麻雀をやるから今晩集まれーという大学生のようなノリで集めて良い存在なんだろうか?

しかし猫は液体と言うが、気体でも固体でもあるらしい。全なる存在それが猫、地球の猫愛好家は喜ぶかもしれない。


「この二人?はどういう存在なんだ?」


『うむ、我らは祖、つまり「不動なる地母」直属の三大要素たる存在でな。旧知の見知った仲だ。』


それを聞く限りでは気軽に集めたらダメそうなメンバーな気がするが、その内の一人であるミズー自体が俺に付いてるから良いのかもしれない。


『僕らもその麻雀とやらに興味があってね、規則は君を待ってる間にその本で学ばせて貰ったよ。なかなか楽しそうな遊戯じゃないか。』


『…。』


無口なマヌルネコも頷いている。


『聞いてるかもしれないけど、僕たちは基本的に人とは関わってはいけないって事になっててさ。興味はあれども遠くから見てるだけだったんだ。

でもトール、君と言う存在が出来た。調整者と契約した君になら関わっても問題がないからね。早速、麻雀とやらをやろうじゃないか。』


ええ、本当にこのメンバーで麻雀をやるのか?


「お前たちは牌を取ったり戻したりとか出来るのか?」


『無論だ、我は全ての水を操る事が出来る。つまり、極めて小さい大きさの粘性が高い水球を我の前足に出せば、牌を前足にくっつけることが出来る。』


『僕は牌と前足の間の空気を無くす事で、牌をくっつける事が出来るんだ、便利だろ?』


『…。』


マヌルネコは何も言わないが、多分何かしらの方法で出来るんだろう。器用な奴らだな。


『そこの机の上に卓を置け、早速やるぞ。』


どうやら調整者3体プラスワンの謎麻雀大会が始まるらしい。

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