第56話 ぶらり皇都巡りの旅(2)

今日はマーケットの店を詳しく見て回ろう。


皇都の食について、色々見て回る。マーケットエリアでは屋台も多く出されているが、店舗を構える飲食店も多い。

昨日買ったパイを使った料理は、色んな店で出されているようだ、魚・肉・野菜も豊富に使用されている。宗教上、食べてはいけないとされる動物もいないらしい。

皇都で食される魚は、オーデルン川でとれる川魚が多い。海魚は運搬が問題で、塩漬けされたものは出回っている。


調味料についても、塩以外にも色々あったがやはり醤油が無い。あとトンカツにかけるようなウスターソースもやはり無かった。

日本においてはお高めのトンカツ屋では塩で食う事もあるらしいが、俺はトンカツには粘度のあるトンカツソース派だ。

これをいつでも食べられるようになるのが丁度良いってやつなんだ。

とりあえず、この辺は自分で作るしかなさそうだ。作るにしても朧げな記憶を辿るしかなく、相当難航するのは間違いないだろう。


地球では昔は香辛料が高価であまり使えなかったみたいな事を聞いた事があるが、こちらの世界ではそこまで高価ではないらしい。

皇国の南の方はそれなりに温暖な気候らしく、そちらで取れるとの事だ。

そういえばヴィースバーデの爺さんが南の方の領地だと言っていたが、そこかもしれない。


甘味についてもやや高価ではあるが比較的豊富にある印象だ、甘味や酸味がある果実を使ったタルトやパイが売られているのを見かけた。


中世から近代までのヨーロッパや日本の食文化がどういうものだったのかは詳しくは知らないが、この国もそこそこのレベルには行っている気がする。

ちなみに店での食事はおおよそ一食で銅貨2枚(約2000円)程度が相場だ、やや高く感じる。


どこかに入って食べようかと思ったが、当然ほぼ全ての店でミズーの入店を断られた。仕方ないので俺だけ中で飯を食うからその辺で待っててくれと言って、店に入ろうとしたところ、

『お主だけ食べるのは狡いぞ、我にも食させよ』と、のしかかって邪魔してきたので結局店で食事が出来なかった。前にその辺は柔軟に対応してやるとか言ってたくせに困った奴だ…。



次は、前から欲しいと思っていた時計だ。結論から言うと、時計屋が皇都にはあった。

携帯できる時計としては数日に一回、竜頭を回す事で動作させるゼンマイ式の懐中時計が売っていた、カバーが付いたいわゆるハンターケース型?とか言われる物だ。流石にクォーツ式の時計は売られていない。


価格は手のひらに収まるぐらいの大きさの物が、金札5枚(約50万円)とかなりお高い。ただ、今後も時間を知る必要は出てくると思ったので、必要経費と判断し購入した。金属製の長い鎖が付いていたので首から下げて、服のポケットに入れ持ち歩くことにした。



そして気になっていた皇国の娯楽についてだ。この町に来るまででもカードゲームのような物があるのは分かっている。ただ、この手の異世界に転生させられるパターンだと、リバーシや将棋、チェス等の遊びを発明したことにして、パテント料で大儲けだぜワッハッハ!みたいな展開になる事が多いので、この世界でももしかしたらワンチャンあるか!と思っていた。


だが、その期待はあっさり裏切られた。というのも、皇都には既にリバーシがあったのだ。その上、チェス、バッグギャモン、ダイヤモンド、その他のボードゲームも豊富で、かなりバリエーションに富んだゲーム類がある事が分かった。

無いのはテレビゲームぐらいだ。


何より一番驚いたのは、麻雀がある事だ。確認してみたら、ルールが日本で行われている物とほぼ変わらなかった。

ピンズやソウズは良いとして、マンズの漢数字は分かんねえだろと最初思ったが、マンズの数字部分はこちらの数字が使われていた。

そういえば、地球でやっていたMMOにある麻雀もこういう形式だったことを思い出した。


雑貨屋で話を聞くと、だいぶ前に皇帝をやっていた人がこの手の娯楽品を発明し、国民に広めたそうだ。その功績を称え、今では「娯楽帝」と呼ばれている。

「キメート」「キーグ」という単位を発明したとされる「計量帝」、そして「娯楽帝」。何か地球との縁を感じるが…。


ちなみに、娯楽としてダーツやビリヤード等の屋内スポーツもそれなりに流行っているらしい。ダーツは地球にいた頃は結構やっていたので、こっちでも出来るのは割と嬉しい。



前から言ってる通り別に急ぐ旅でもないし、あると聞いたらやりたくなったので麻雀を一局打ってみるか。実際の卓で打つのは久しぶりだが大丈夫だろうか?

雀荘みたいな所が皇都にあるのかを雑貨屋で聞いてみた所、あるらしい。

ただしお金を賭けると処罰対象になるとの事だ、もちろんテンピンでもアウトだ。


雑貨屋で聞いた雀荘へ行こうとした所、一緒に歩いているミズーに声をかけられる。


『トール、その麻雀とやらをやりに行くのか?我はよく知らぬが面白い遊戯なのか?』


「(ミズーはこういう事は知らないのか)ああ、元の世界にいた頃にやってたんだよ。こっちにもあるって聞いたらやってみたくなってさ。」


『どういう規則の遊戯なのだ?』


「うーん、口で説明するのは難しいな…。入門書のような物が売ってないか本屋で探して見るか?」


『うむ、我は興味がある。』



本屋で聞いてみると、簡単なルールが記載された冊子のような物が売られており、それを購入した。

それをミズーに渡して、雀荘らしき店の前で待ってもらう事にした。半荘一回ならすぐ終わるだろう。



半荘を終えて、雀荘の外に出ると何やら外が少し騒がしい。


「おい大川辺猫が本を読んでるぞ、あいつらって『水の加護』が使えるだけあって、本も読めるんだな。」

「わー、本読んでて可愛い!」


どうやら、ミズーが本を読んでるのを見られているようだ。確かに猫が麻雀の入門書を読んでたら目立つに決まっている。

どうやってページをめくっていたのか分からないが、とりあえずここを急いで離れよう。

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