第53話 皇都滞在開始

皇都に入る頃には、すっかり日が落ち夜になってしまった。


皇都内は日本ほどでは無いが、レンガや石材と思しき材質で出来たそれなりに高い建物が並んでいる。

窓も透明で、おそらくガラスであろう材質で出来ているところが多い。


道の舗装はここまでこの世界で見た中では一番立派だ。形が同じ四角い石を幾何学的に並べて、その隙間にアスファルト?コンクリート?を流し込んだようなスタイルだ。

道自体も緩やかなアーチ状になっていて、脇に排水溝のようなものもある。もちろんグレーチングは無いが。


街灯が等間隔で立っていて、日が落ちても歩けるぐらいには街中が明るい。

ガス灯だろうか?ただ、「精霊石」なる便利アイテムがあるようなのでそれかもしれない。そのため夜でも行き交う人は多く賑やかだ、夜に大勢が出歩けるという事は治安も相応に良いのだろう。


建築にそう詳しいわけでもないので、それぞれが具体的にどういう物なのかはよく分からないが皇都と言うに相応しい環境なのは分かる。

こちらの世界の基準で言えば、相当な都会だと思う。


『トール、夜も遅いがどこかに泊まるのか?』


ミズーが話しかけてくる。


「ああ、そうしたいがお前と一緒に泊まれる宿が皇都にあるんだろうか?昨晩も探すのが大変だったぞ。」


『なんだそうだったのか。短時間なら霧状になって移動できると言っていただろう?

最初に出会った時のように、お主一人で広めの宿を取っておいて、我が霧になって外から入れば良いだけだ。』


なるほど、そう言われればそうだな。あまり褒められたやり方ではないが、一晩泊まるだけならバレる事もないだろう。


道を進むとホットドッグのような物を売っている屋台があったので、晩飯代わりにそれを買ってついでに良い宿が無いか店主に聞き、宿を取る事が出来た。一泊銀札1枚だ(約1万円)、やはり皇都だけあって高い……。

なお、ホットドッグはミズーにも食べたいとねだられたので余計に買う羽目になった。食費が倍以上に膨らみそうだ。



宿で一息ついてから、部屋の中央にどっかりと香箱座りしたミズーが話しかけてくる。


『さっきの肉の腸詰を挟んだパンは中々美味かったな、味付けは赤い果実のようだったがそれも悪くなかった。』


「食事と言えば、お前も排泄したりとかするのか?あと毛が抜けたりとかも。」


『我は食した物を完全に我が活力と変える事が出来るゆえ、排泄行為はする必要がない。これは毛に見えるが実はすべてが体と一体化しておる、つまり毛が抜ける事も無い。』


コイツ、なんて便利な体してるんだ。


『それでお主の目的地であるザレとやらに向けて、皇都からもすぐに旅立つ予定なのか?』


「いや、俺はまだこの国の事をよく知らないからな。この国の最先端の文化が集まっているであろうこの皇都にしばらく滞在して情報を集めようと思ってる。

少なくともこれは急ぐ旅で無い、誰かのせいで2000年も生きるはめにもなってしまったし。」


愉快そうにミズーが笑う。


『ハハハ、まだそれを言っておるのか。いい加減諦める事だな。ここに滞在するならそれも結構、我も付いていくぞ。』


「付いてくるなと言っても付いてくるんだろう?まあ、どうしようもないから諦めは付いてるよ色々と。『老若の加護』で若いままなんだと言えば、長期間定住してもさほど問題にはならなさそうだし。

ああそうだ、付いてくるのは良いとしても店の中などは連れて入れないと思うからその時は待っててもらうぞ。」


『その辺りは我が柔軟に対応してやろう。この国ではお主の飼い猫という事になっておるしな。

しっかり我の面倒を見るのだぞ、飼い主。ハハハハハ。』



翌朝、しばらく滞在するなら月極のマンスリーマンションのような所を借りる方が良いかなと思い立った。毎度ミズーを泊り先にズルで入れるのもどうかと思うし。

こういうのは総合ギルドで聞くのが一番良いだろう。


道行く人に総合ギルドまでの道のりを聞いて、ミズーと共に向かう。

皇都では大川辺猫を飼っている人が稀にいると聞いていたが、少なくとも街中では見かけない。

すれ違う人にも相変わらずジロジロ見られるし、子供には触って良いかと聞かれることもあった。

契約の腹いせもこめて、大人しいから触って良いよと子供に言うと、子供に触られながらミズーがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。その後、余計な事を言うなと圧し掛かられた。


この感じだと、大川辺猫を飼ってるのは貴族とか豪商とか金に余裕がある人の遊びの一環なのではないだろうか?よくよく考えると、この図体の猫を飼ったら食費だけでも馬鹿にならないだろう。

だとすると目立ってしまうので良くないが、もうどうしようもない。


そうこうしながら歩いていると、総合ギルドに着いた。ここが皇国全土にある総合ギルドの本部にあたるところだ。

流石本部というか、めちゃくちゃデカい上に立派な造りで、階数を数えると6階建てだ。


ドアを開けて中に入ると、かなり多くの人が詰めかけている。ただ、狩人っぽい人はあまり多くないようだ。

おそらく皇都の周りは常に衛兵が巡回していて安全度が高く、深い森があるわけでもないので害獣が少ないからだろう。護衛任務を請け負う人ぐらいしかいないのかもしれない。


まずは、前にヘルヒ・ノルトラエにいた時に国民登録でお世話になった皇国民総合受付で聞いてみるか。

空いているカウンターがあったので、そこで話しかける。


「すみません、旅をしている者なのですが、しばらく皇都に滞在して観光をしてみたいと考えています。

宿に泊まり続けると高いので、例えば月極めの短期で借りられる家みたいなものはあったりしますか?」


カウンターの担当らしき、親切そうなおばさん職員が答えてくれる。


「なるほど、そういう方は結構いらっしゃいますよ。金糸が付いているという事は、そちらの飼われている大川辺猫も一緒に暮らすという事ですね?

そういう事であれば、広さも要るのでかなりのお値段になりますね。もしかすると宿暮らしとそんなに変わらないかもしれません。

不動産業を営む店をこちらでご紹介も出来ますが?」


「訪ねてみますので教えて貰えますか?」


「かしこまりました、少々お待ちください。」


ついでに薬の納品窓口に寄ってみたが、皇都の総合ギルドにおいては薬の納品需要はそこまで高くないようだ。

高級な薬については戦闘を行うような狩人向けの仕事の需要が少ないため、低級については量産している商店があるからとの事だ。


国の軍隊には必要じゃないかと思うが、もっと安定した供給ルートを持ってるか。

そもそも1~2年ぐらいなら遊んで暮らせるぐらい貯蓄はあるので、皇都では仕事しないでも特に問題は無い。

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