第49話 猫は語る
『まず最初に加護を与えるとされる、お前たちからすると神と呼ぶべき存在だが、その始祖たる存在が三柱いる。
生命を司る「大いなる天主」、世界を司る「不動なる地母」、そして次元を司る「次元の翁」だ。』
なんか長い話になりそうだなと思いつつも、おそらく聞いて損になる話ではないのは俺にも分かっている。ただ、こっちに来てからこういう具合で厄介事が降りかかってくる印象が強いので、どうも警戒してしまう。
まあ警戒した所でもうどうにもならないし、じっくり話を聞いて今後の判断するために、槍は一応持ったままで部屋にある椅子に腰かけた。
『そして「大いなる天主」とその下にいる神々はありとあらゆる生命の祖である。
「不動なる地母」とその下にいる存在はこの世界を構成する要素の祖である。
「次元の翁」は単独で動く特殊な神だ。』
「貴方は祖の命でこちらに来たと言っていましたが?」
『その通り、我が祖は「不動なる地母」である。我はこの世界のありとあらゆる水を調整・維持するための存在だ。何故その命を受けたか、それは先ほど言った通り、お主が授かった『薬師の加護』のためとなる。』
『お前たちが『加護』と呼ぶ特殊な力、それを神が授けてくれた特殊な能力と理解しているだろう。
だが、正確には違う。あれは生命の祖たる『大いなる天主』とその下にいる神々の力そのものなのだ。』
「与えられた物ではないと?」
『うむ、神との
「(地球の神話も内容によっては、神様ってえげつないレベルで自分勝手だったりするよな)生物、と言ったのは『加護』を授けられるのが人間とは限らないからですか?」
『ほう、察しが良いなその通りだ。神との縁が出来た生物は、言わば神との直通経路がある状態になる。
そしてその経路には神から溢れ出た、いわば神力が満ちている状態になる。
何らかのきっかけで生物がその神力に気付くと、経路から自らの体を通して神力を取り出し行使することが出来るようになるというわけだ。
これが『加護』と呼ばれるものの正体になる。』
『生物によっては稀ではあるが『加護』の神力を目視や感覚で感じ取る事が出来るものもいる。例えばお主の体からは、眩いばかりの金色に輝く極めて強い光が見えている。我もそれを追ってここに来ている。』
『そしてそのあまりに眩く強い光は、お主にとって良い縁も悪い縁も強く引き寄せてしまう、灯に集まる蛾のようにな。良い縁を引き寄せたかと思えば、厄介事に関わらされたり、それは身をどう振ったところで避けられるものではない。その特殊な槍を持っているという事は、どちらも心当たりがあるのではないか?』
「(やっぱりそうだったか、良縁も悪縁も引き寄せる天運が漏れなく付いてきていたわけだ。楽々スローライフが送れるのかどうか、かなり怪しくなってきたのが悲しい…。)」
『話を戻そう。縁を結んだ神々の権能で行使できる神力の種類が変わる。そして最初の縁の深さで、経路の太さが決まる。
太ければ太いほど経路に神力が多く満ちる、つまりより強力な『加護』を行使できるというわけだ。
だが、強い神力を使えれば生物にとって良い事かと言われるとそうでもない。』
「……精神に影響を与えたりするとか?」
『お主、中々鋭いな。そう、生命を生み出した神々から漏れる神力が、その生命を通れば影響を与えないわけがない。使用が一定を超えると、『加護』が使えなくなり体に悪影響が出るのも、神力により一時的に魂が摩耗するからだ。
そして行使できる神力が強ければ強いほど、生物の精神や肉体に何らかの影響が強く出る。つまり有用かつ強力な『加護』が使えるとしても、精神がおかしくなってまともに生活が送れなくなるという事も有り得る。』
「(ということはもしかしてフロレンツは……。)」
『さらに加えてお主らは『加護』が良い物だけと思っているかもしれぬが、中には生物に試練を与えるのが種としての進化・進歩に必要と判断する神もいる。
その場合は、意図的に悪意ある縁を結び、そして悪意ある神力を経路に満たし、それを渡されてしまう事もある。』
「例えば、治す事が出来ない病気だったりとかですか?」
『もちろん、そういう物もある。生物側からしたら傍迷惑以外のなにものでもないが。』
「それで、その辺りの話からどうして私との契約が必要と言う話に繋がるのでしょうか?」
『それはお主と経路を繋いでおるのが大いなる天主だからだ。大いなる天主は最初に説明した通り、生命を司る神々の始祖ゆえに比類なき強大な神力を持つ。
人が神々と直接出会う事など無いに等しい。だがお主はその比類なき強大な神力を持つ大いなる天主と直接やりとりをして『加護』を授けられた、つまり大いなる天主との経路はかつてないぐらいに極めて太い。
本来、大いなる天主と太い経路で繋がっている場合、『加護』を行使すればその精神は強い影響を受け、元の精神が木っ端微塵に破壊されるであろう。
だがお主はこの世界の魂ではない、故にいくら使用したとしても魂の摩耗がごく僅かな上、精神への影響も極めて最小限で済んでいる。ここは幸運だったな。』
『大いなる天主の権能は「全能」だ。故に比類なき強さの『薬師の加護』が使えるのみにあらず、おそらくお主の体は「全能」の影響を強く受けている。
槍を持っておるからには槍術を多少なりとも学んだであろう。学ぶ際に、他の者より数十倍習熟が早かったり、天賦の才があるなど言われなかったか?』
トールの元の体のセンスが良いんだろう程度に思っていたが、槍術を比較的早期に修められたのはそういう事だったのか。
『ここからが本題だが、『加護』というものは時間が経つと世界に馴染んでゆく。
問題は『加護』を持つ生物が馴染む前に死んだ場合だ。その場合、経路の神力が死体の周りにまき散らされてしまう。
とは言え、ある程度の年数を生きていたり、そこそこの『加護』であればどうという事はない。』
『問題となる場合は二つ、強力な『加護』を行使できる人間が生まれてすぐ死んだ場合だ。この場合は周りに大きな影響が出る。』
これを聞いて、ふと思いついたことがある。
「例えばの話ですが、先に説明された治す事が出来ない病気のような悪意ある『加護』を渡されて生まれた人間が、生まれてすぐ死んだりしたらどうなります?」
『その場合は、おそらくその『加護』によって受ける不具合が辺り一帯にまき散らされることになる。
お主の言う病気のようなものなら、周りの人間が全員その病に罹患する可能性が高い。そしてその病は医学や薬では治す事が出来ないだろう。強い『加護』がある人間なら罹患しないだろうがな。』
「……そうですか。」
『続けるぞ、問題となる二つ目、それがお主だ。神との経路が異常に太く、その神力が極めて強力な場合だ。
この場合は生物としての寿命を全うして死んでも、周りどころか世界に絶大な影響を及ぼす。故に我との契約が必要と我が祖「不動なる地母」が判断なさったというわけだ。』
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