第46話 顛末
あれから村の入口に向かって戻り始めた、途中で屍人が襲ってくる事があったものの、数人に留まった。
フロレンツが近くに待機させていた屍人かもしれない。
村の入口近くまで戻ると、大群で襲ってきた屍人は全て排除することが出来たようだ。討伐隊は町を出た時の人数よりも明らかに多いから、おそらく途中で他の村の討伐隊が合流したんだろう。
そんな中でこちらに手を振りながら近づいてくる男がいる、ジギスムントだ。
なんとか無傷で乗り切ったようだな。
「よお、トール。こちらは何とか片付いたぜ。お前らは別の討伐隊を呼びに行くって事らしいが、それが中々来なくてな。
ギリギリのタイミングで到着したから良かったものの、結構ヤバかったぜ。」
「実はですね…。」
フロレンツの事情をジギスムントに説明する。
「はあ~、なるほどあの副隊長が加護使い、その上で裏切り者だったとはな。村の入口で戦った屍人がやたら強かったのも納得だぜ。
そっちもよく乗り切れたな。」
「ええ、まあなんとか。」
「六級だとか言ってたが、トールお前相当な実力者だもんなあ。もう一人いた薬師と荷物持ちがいねえようだが…?」
「ええ、フロレンツが操る屍人にやられてしまいました。」
「そうか…、こっちも死人こそいないが屍人に傷を付けられたり噛まれたりした奴が結構いるぜ。発症しなきゃ良いんだがな…。
俺が無事なのは運が良かっただけだ。」
「まだ、村の中には?」
「ああ、中には入ってないから。おそらく数百人の屍人がいるはずだ。」
そう、フロレンツのせいで大混乱に陥ったが、まだこの部隊の任務は終わっていないのだ。
そういえばウドはと思い辺りを見渡すと、他の村の討伐部隊の隊長や総合ギルド職員と何やら話し込んでいる。
おそらく状況のすり合わせとこの後どうするかについてだろう。
ある程度時間が経ってから、ウドがこうなった事態について全員に説明をする。
この事態を招いた原因のフロレンツについては、この計画を立案しフロレンツを副隊長に任命した総合ギルドとアスペルマイヤー家の落ち度を認め謝罪した。
後日、原因であるとか補償であるとか責任であるとかについては追究すると宣言した。
当然ウドに向かって非難囂囂だったが、言い返すでもなく頭を下げたまま黙って受け入れていた。
そして、他の町村の討伐部隊と合流してから少しずつ村の屍人を討伐して回って制圧する旨が発表された。
傷を負った者については発症の恐れがあるため、最低限の治療だけ行いオットヴァの町に戻り、隔離される事になった。
彼らについては屍人病を発症しない事を祈るしかない。
その後、別の町村の討伐部隊と合流し、村の入口から虱潰しに屍人を討伐して回った。
俺はあくまで後方部隊という事で討伐には参加しなかったが、後からジギスムントに聞いたところによるとやはり村中の老若男女問わず全員が屍人化していた。
屍人になった年端もいかない子供もそれなりにおり、かなり悲惨な討伐作戦だったらしい。残念ながら屍人じゃない生存者はゼロだったとの事だ。
屍人病になった者を早急に隔離しておけばこうなる事は無いと思うが、この村は何故ここまで酷いことになったのだろうか?
夕方頃になりようやく、村中の屍人を討伐し終えた。予定ではここまでかからないはずではあったが。
今からオットヴァに戻ると途中で夜になるため、一晩村で夜を明かす事になった。
大量の死体と一緒に過ごす夜…、思う所はあるが彼らも屍人になりたくてなったわけではない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……以上が、アンスガー・アスペルマイヤー卿からの『イリンゲ村・屍人大量発生およびその処置と顛末』についての報告になります。
その他仔細につきましては、こちらの報告書をご覧ください。」
「ご苦労。痛ましい惨事という他ないが過去の例を鑑みるに、この程度の被害で済んだのは不幸中の幸いとも言える。
しかし、討伐部隊長だったアスペルマイヤーの倅は気が優しいのもあってか、軍務においてはてんで使えないと聞いていたが、特殊な加護使いまで現れたこの事態をよく収められたものだ。
報告書によれば、『フロレンツの裏切りにより窮地に陥ったが、ウド・アスペルマイヤーの見事な指揮で部隊を最大限に活用し事態を打破した』とあるな。
てっきりアスペルマイヤーが息子の箔付けのために名ばかりの隊長として行かせたんだろうと思っていたが、実はウドが切れ者でこういう事態を想定でもしていたのか?」
訝し気な顔で報告書をペラペラめくりながらそう言うのは、バルタザール・アウフェンミュラー。皇国における内務を司る内務省の長、皇国第二級貴族である。
内務卿と呼ばれている。
「ウド・アスペルマイヤー卿がそのような人物とは私も聞いた事がありません。」
「屍人の大量発生と言う状況ゆえに、どのみち本件は皇国専属の衛生調査部隊に詳しく調べさせるつもりであった。まあ、その辺りもおのずと分かるであろう。」
「しかし、何故イリンゲ村中の全員が屍人になってしまったのでしょうか?初期に隔離すれば、起こり得ないと思いますが。」
しっかりと蓄えた口ひげを触りながら、バルタザールが問いかける。
「カウフマン君。君は100年ほど前に起きた、『ハイルブロの悲劇』を知っているかね?」
「いえ、寡聞にして存じません。」
「そうか…、確か君はつい先日五級貴族に昇格したのだったな?ならば、『皇国加護研究所』から特別講習の受講要請があったのではないか?」
「はい、必ず今月中に受けるように要請を受けております。」
「ではその特別講習で知るところとなるだろう。屍人病、特にこういう事態で起こったものは厳密には単純な病気では無いのだよ。」
「…もしかして『加護』と密接な関係が?」
「もちろん皇国加護研究所も全てを把握しているわけではないがな。」
「…なるほど、講習を受け学ぶことといたします。」
「うむ、そうしたまえ。下がって良し。」
カイ・カイフマンが執務室から出て言ってから、バルタザールが独り言ちる。
「比較すれば被害は圧倒的に小さかったが、100年前と同じ悲劇が起こるとはな…。やはり『加護』は人には過ぎたる力よ。」
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