第44話 傀儡
フロレンツは今なんて言った?
「…フロレンツさん、戦闘していた部隊が来ないとはどういう事ですか?」
俺の問いかけに、貼り付けたような笑顔のままでフロレンツが答える。
「言葉のままですよ、トールさん。私はこう伝達しましたから、
『ウド様のご指示です、他の町の討伐部隊を増援としてすぐに呼んでくるから、このまま何とか耐えきってくれ。』とね。」
取り乱しながらもウドが、さらに問いかける。
「フ、フロレンツ君!何故そんな事をするんだ!?」
フロレンツの顔が歪んで、醜悪な笑顔を見せる。
「何故って、そりゃもちろん貴方がたを全員殺すか屍人にするためですよ。」
帯同していたもう一人の薬師が、口から唾を飛ばしながらまくしたてる。
「こ、殺すか屍人にするだって!?なんでそんな事をするんだ!我々が君に恨みを買うような事をしたかね?」
「嫌だなあ、覚えてないんですかルベルさん?僕の母さんを診てくれず、見殺しにしたじゃないですか。」
「見殺し……、もしかして10年以上も前に君の母親が急病で亡くなった時の話か?
あの時は私とオットヴァの医師が、たまたまアスペルマイヤー様の指示もあって訪問診療で別の村に行っていたからじゃないか!見殺しにしたわけじゃない!」
それが本当なら、見殺しと言うのは無理筋な気がするが。
ただ、フロレンツは明らかに理屈が通るような様子ではない。
「まあ言い訳はいいんですよ、あの時お二人がいれば母さんは助かったのは事実。そして、ウド様。貴方の父上がそれを指示したのが悪かったんです、だから今度はウド様の番にしようかと思いまして。」
「あの時は、別の村が流行り病で大変だったし父上は悪くないよ…。」
ウドについている護衛者の一人が、剣を抜いてウドの前に出る。
「フロレンツ、貴様血迷ったか!そもそも、貴様一人でこの人数を相手にする事が出来るとでも思っているのか!?」
「いや、もちろん私一人じゃ勝ち目なんてないですよ、ハハハ。だからね…。おーい!!」
フロレンツの掛け声とともに、遠くから人が走って近づいてくる。
近くまで来て分かった、十数人の屍人でみんなガタイの良い成人男性だ。
思わず身構えたが、フロレンツの真後ろまで来ると動きを止め襲い掛かろうともせず立っているだけだ。
「…屍人なのに襲い掛かって来ない?」
「ハハハッ、トールさんそうなんですよ。そこが重要な所でね。」
立っている屍人の頭をなでたり肩を叩いたりしながらフロレンツが話す。
頭を撫でられても、屍人は微動だにせず立っている。
「トールさんは御存知ですか、ここの村で屍人病罹患者が出て、しばらくして衛兵が二人見に行ったけど帰って来なかった。
その後、責任者が確認しに行ったら屍人に襲われて帰ってきたって話を。」
いつ屍人たちに襲い掛かられても対応できるように、用心しながら答える。
「ええ、その話ならオットヴァの町に来た時に、衛兵に聞きましたが。」
「その責任者って実は僕なんです。屍人に襲われたまでは本当なんですが、そこから先が実際は少し違うんですよ。
襲われた時もう少しで噛まれるって時に大声で『やめてくれ!!』と叫んだら、屍人たちがピタッと動きを止めたんです。
なんでだと思います?」
「……もしかして、加護ですか?」
それを聞いてか、さらに興奮したフロレンツが両手を大きく広げ上を見上げなら大声で答える。
「そう!!そうなんです!!あわやという所で、素晴らしい加護を神から授かったのです!!屍人を自由に操る事が出来る加護、言うなれば『傀儡の加護』と言ったところでしょうか!?
今や村中が屍人で溢れかえっている、その全てが私の配下と言っても良い!
しかも私が屍人を操ると、普通の屍人よりも圧倒的に強くなるんです!!この力があれば復讐…、いやそんなものはもはやどうでもいい!!
全ての人間を屍人にして、この国を支配する事さえ可能なのです!!」
確か、加護を後天的に授かる事は無いと本には書かれていたが…。
その通りならおそらく生まれた時から『傀儡の加護』とやらを持っていて、ピンチにたまたま発動して気づいたといったところか。
しかしこの態度はあまりにもおかしい、今までは完全に猫被っていただけなんだろうか?そうだとしても仮に本気で国の支配を目指すなら、もっと秘密裏に屍人を増やすなりした方が賢い。加護に気付いてからが行き当たりばったり過ぎる。こんな目立つような事をしたら、今は上手く行ってもいずれ皇国の軍隊なりで鎮圧されるだろう。
もしかすると『加護』、特に強力なものは本人の性格にも影響を及ぼすのでは…?
「これは神が私に王となれと授けた、天命に間違いない!!…そこで皆さんにはその礎になってもらおうと言うわけです。
トールさんや護衛者のお二人、荷物持ちの方には何の恨みも無いんですがね、運が悪かったと思ってください。」
「うわあああああ!!」
「い、いやだあああああ!!」
「俺はこんなところで死にたくねえ!!」
ルベルと呼ばれた薬師と、荷物持ちをしていた内の二人がフロレンツとは逆側に走り出した。
道に沿うとフロレンツが呼んだ屍人に追われると思ったのか、散らばって林の中へ入っていく。
「逃げても無駄なんですよねえ、ハハハハ…。」
フロレンツのその言葉の少し後、三人の断末魔とおぼしき叫び声が聞こえた…。
おそらく近くに待機させていた屍人に襲わせたのだろう。
ウドが半泣き状態で呟く。
「こんなのあまりに酷すぎる…。」
「ウド様。それは『持たざる者』の意見に過ぎません。持てば分かりますよ。
では、皆さんもそろそろお別れの時間です。」
そう言うと、待機していた屍人たちがゆっくりと動き出した。
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