第43話 撤退

予定していた通り、イリンゲ村へと続く街道を進んでいく。

町から出てしばらくは何もなかったが、数キロ進んだあたりだろうか。

数人の屍人とおぼしき人がふらふらとしながら立っていた。


集団の前方にいる衛兵と狩人が、何度か呼びかけを行ったが、

俺が馬車に乗っていた時と同様に何も反応せずこっちに駆け寄ってきて、見た目の特徴も屍人そのものだったため討伐された。


ちょうど、緩い下り坂のあたりだったため、後方部隊からも討伐の様子がはっきり見えた。


「ヒッ…。」


馬の上から怯えるような声が聞こえる、どうやら隊長のウドはこの手の件には不慣れなようだ。

傍にいる護衛者が大丈夫です、落ち着いてくださいなどとなだめている。


「(何をしに来たんだこいつは。連れてきて大丈夫なのか?)」



それから同様の確認・討伐をしながら、村へと続く道を少しずつ進んでいく。

やってる業務が業務なだけに、士気はかなり低い。

衛兵だろうと、狩人だろうとこんな事をやりたいわけがない。


街道にはそれほどの屍人はいなかったらしく、ある程度進んだところで村への方向を指し示す立て看板が見えた。

立て看板を見て、フロレンツが言う。


「ここまで来れば、村まで3キメート(3キロメートル)ぐらいですね。」


それを聞いた、ウドが続ける。


「フロレンツ君はこの村出身なんだ、だからこの辺りの地理にも詳しいし副隊長になってもらった。

僕は隊長だけど未熟なのは自分でよく分かってるから、フロレンツ君に補助してもらってるんだ。」


町にいた時とは違う随分穏やかな物腰だ、こっちが本当のウドなのかもしれない。


「へー、フロレンツさんはこの村出身なんですか。それで今はオットヴァで衛兵を?」


「ああ、まあね…。」


「??」


なんか煮え切らない返事だな。思うところでもあるんだろうか?

深入りはしない方が良さそうだ。



それからしばらくして村の入口辺りに着いた。規模は大きい村なものの、見た目はのどかな農村という感じだ。

ただし、村民が全く見当たらない所は除いてになるが。


集団で襲われる可能性があるので、村の中には入らないようだ。


「他の町の討伐隊とはここで待ち合わせてから、全員で村に入って端からまわっていく計画ですか?」


「ああ、その予定だ。みんな、ここで一旦待機とする。ただし、何が起こるか分からないから気を抜かないでくれ!」


フロレンツが全員に呼びかけを行う。とりあえずは小休止というところか。


数分待機したぐらいの頃だろうか、何かが大勢近づいてくる足音がする。

なんだ?と思って村の入口の方を見ると、遠くの方から数十名は超える、下手したら百名近い人がこちらに近づいてくる。

気配から察するに明らかに屍人だ。


「き、気を付けろ!!屍人だ!!」


「なんでこんな大量に村の入口に集まってくるんだ!?屍人はある程度まで近寄らなければ襲って来ないはずなのに!?」


そういえば最初に見かけた時も、今日の道中でもフラフラ歩き回らず道端にずっと立っていたり、座り込んだりしていたな。

無駄なカロリー消費を避けるためにあまり動かないのかもしれない。


だが、この村にいる屍人は遠くの方から明らかにこっちに向かってきている。何かが違うのだろうか?

前方の集団と戦闘になるのは時間の問題だ。

流石にこの数になると、こっちにも少なからず被害が出そうだぞ。と思っていたらフロレンツがウドに問う。


「ウド様、いかがいたしますか?このままだと当部隊は崩れかねません、ご指示願います。」


「ししし指示?どどどどうしよう…。フロレンツ君どうしたら良いと思う?」


ウドは慌てふためいていて使いものになりそうにない。

フロレンツは考え込むようなしぐさを見せ、発言する。


「この集団がまとまって逃げるのも難しいですし戦うしかないと考えます。

金属鎧で全身をしっかり守っている衛兵を前に行かせればそうそう被害は出ないでしょう。

その補助を害獣狩人にさせましょう。」


「わわ分かった、それで行こう。フロレンツ君、前方部隊に指示してくれ」


「承知いたしました。」


フロレンツが部隊の前方に指示を伝え、それから間もなくして戦闘が始まった。

やはり屍人の数が多く、かなり押されている。

ただ、数が多いだけではなく個体としても強いように見える。


「ぐぐぐっ、なんだこいつらの力は。先ほどまでとは全然違うぞ!」


「くそっ、とにかく傷を受けないように注意しろ!!」


戦闘部隊はかなり苦戦しているようだ。

前方から衛兵が発したとおぼしき大きな声がする。


「ウド様!!このままだと総崩れです、早急にご指示ください!!」


ウドは相変わらず馬上で慌てふためいている。

すかさずフロレンツが言う。


「ウド様、後方部隊から徐々に撤退する事と致しましょう。全速力で走れば屍人は追いつけないはずです。

このまま戦闘を続けるとウド様もやられますよ。」


フロレンツ、さっきは逃げるのは難しいと言ってたのに?

丸っきり正反対の事を言い出したが本当に大丈夫かこいつ。


「ええっ、僕も!?分かった、そうしよう!」


「では前方部隊に伝達してまいります。」



フロレンツが戦闘している部隊に伝達した後、後方部隊から撤退し始める。

先導はこの辺りの土地勘に優れるフロレンツだ、彼について後方部隊全員で元来た道を戻る。


「(??おかしい、来た道と違うところを通っていないか?)」


俺と同様の疑問をウドも持ったようだ、ウドは馬を止めフロレンツに問いかける。


「フロレンツ君、道はこれで合ってるのかい?来た道と違うようだけど…。」


「ええ、合ってます。」


「あと、いつ頃前方部隊が合流するのかな?」


笑顔でフロレンツが答える。





「ああ、戦闘部隊の事ですか?彼らなら来ませんよ。」

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