第40話 発生の理由

怪我をした御者が歩いて付いてくるのもあり、馬車の進行スピードがかなりおそくなったが、襲われたのが比較的町近くだったため夜になる前に、元々の目的だった町に着いた。


金属の重厚な鎧で全身を武装した衛兵らしき兵隊が10人以上、町の入口門の前に立っている。


「そこの馬車、止まれ!!」

「お前たち、屍人に出くわさなかったか!?」


開口一番屍人について問う当たり、この地域一帯で屍人が問題になっているのかもしれない。馬車からジギスムントが降り、説明をする。


「私は五級害獣狩人のジギスムントです。ここから少し行った先で10名ほどの屍人に襲われ、同乗していたもう一人の害獣狩人と私で全て撃退いたしました。

御者が…奴らにやられています。」


「なんだと!!御者はこちらに来い!」


青ざめた顔の御者が衛兵の前に出る、衛兵たちは武器を突き付けた上で御者を凝視する。一番立派な鎧を付けた、おそらくこの場の責任者とおぼしき衛兵が声を上げる。


「この傷…、これはもう手遅れだな、誰かこの男を感染者とみなして隔離せよ!」

「はっ!!」


衛兵二人に武器を突き付けられたまま、御者はどこかに連れていかれた。

治療法が無い以上、多分牢屋か何かに隔離して発症するか確認するんだろう。発症したらその後は…。


「ジギスムントとやら、貴様服に血が付いているではないか!!まさかやられたのではあるまいな!今すぐここで服を脱げ!!」


衛兵たちは一斉にジギスムントに武器を突き付けられたジギスムントはすぐに服を脱ぎ説明をする。


「これは奴らの返り血ですが、外側の外套にのみ付着し中の服には染み込んでおりません。奴らから攻撃も貰ってはおりませんし、奴らを攻撃した武器は水で丁寧に洗いました。私の体は存分にお調べください。」


下着だけになったジギスムントを、衛兵たちが念入りに調べる。


「…よし、傷が無いのは確認できた。悪いが外套はこちらで処分させてもらう。」


「馬車に乗っている他の者も調べさせてもらう。」


流石に服は脱がされなかったが、国民証で照合をして、さらに全員の外見をかなり念入りに調べている。


衛兵が一通り調べた後、責任者の方に向き頷いて合図を出す。

調べた結果、特に問題はなかったようだ。


「よし、お前たちは大丈夫なようだな。だが、念のため全員我々が用意した宿場で1週間隔離させてもらう。馬車はこちらで預かって清掃するので歩いて向かってくれ。

これは皇国執行令による強制措置である。悪いが従ってもらおう。

屍人と戦った害獣狩人の二人は残ってくれ。」


俺とジギスムント以外の乗員は、何人かの衛兵に連れられて町の中に入っていった。

隊長らしき衛兵が俺に向かって話しかけてくる。


「そちらの害獣狩人殿は、国民証によると確かトール殿か。」


「トール・ハーラーです。」


「うむ、悪いが襲い掛かってきた屍人について詳しく聞かせて欲しい。」


襲い掛かってきた屍人病と思しき人たちの服装などの外観、声をかけたが全く反応しなかったこと、全員おそらく殺したがその後焼却処分などはせずこちらに向かったこと等を話した。


「ふむう、なるほど。聞く限りではやはりイリンゲ村の村民っぽいか…。一応、明日の朝にでも現地を調べさせる。」


「やはり、とおっしゃるのは?」


「うむ、ここオットヴァの町から40キメート(40キロメートル)程北へ行った所に、イリンゲという名の村がある。

村とは言っても1000人ぐらいの人がいる村でな、布製品の生産が盛んな村だ。

そこで屍人病罹患疑い者が出たという報告が2週間ほど前にあったのだ。」


「しかし、すぐ隔離すればそんなに大きな被害が出ないのではないですか?」


「いかにも。だが、それから1週間経っても村から何の連絡もない故、衛兵二人を調査に行かせたのだが未だに帰って来ていない。

その後、責任者が見に行ったが村への途中で屍人に襲われ、這う這うの体で帰ってきた。それからすぐに、近隣の他の街道にも屍人らしき人が現れたとの報告が出て、今に至るというわけだ。

行商の者など数人が既に襲われてしまっている状態で、このように近隣の町では厳戒態勢を取っている。

おそらく、何らかの理由で村中が屍人でいっぱいになって、溢れた者が街道にまで来ているのだと考えている。」


インフルエンザやコロナじゃないんだから、そんなに簡単に感染が広がる物なのだろうか?何らかの人為的悪意が関わっているような気もするが…。


「ここオットヴァの町も含めて、近隣の町村から衛兵や害獣狩人、護衛者などで構成した部隊を各地で構成し、一斉に屍人駆除作戦を近日行う予定になっている。

故に、近隣の町村には行き来を禁止する命令が本日出たのだが、お前たちが出発するまでに伝令が間に合わなかったみたいだな。

相手は生きた人なので、高ランクの狩人に限るだろうが君たちにも召集がかかるかもしれない。ちなみに、君たちの級はどれぐらいなんだ?」


ジギスムントがそれに答える。


「私は五級害獣狩人兼五級護衛者です。」


トールも同様に答える。


「私は六級害獣狩人です。」


ジギスムントは驚いた顔をしながら


「お前、あの腕で六級なのか!?俺よりはるかに強いと思ったが…?」


「いやあ、買いかぶり過ぎですよ。実力相応です。」


それを聞いて、衛兵はうんうんと頷く。


「召集されるとしたら五級以上だろうから、ジギスムント殿は呼ばれるかもしれないが、トール殿は対象外となりそうだ。

どちらにせよ、お二人も我々が用意した宿場にて一週間は滞在してもらう事になる、基本的に外出は禁止だ。

ただし皇国執行令によるもの故、宿泊費・食費はこちら持ちなのでそこは安心して欲しい。おい、ジギスムント殿とトール殿を宿までお連れせよ。」


「はっ!」


衛兵二人に連れられ、ジギスムントと町に入る。


「やれやれ、大変な事になってしまったなあ、トール。」


「ええ、そうですね。」


これはまた厄介事に巻き込まれてしまったな。

宿に一週間カンヅメにされるだけで済めば良いが。

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