第32話 悪党の末路

男は汚い納屋のような場所に運び込まれ、放り投げられる。

それと同時に目を覚ましたようだ。

手足を縛られているので芋虫のように暴れながら、叫び出す。


「てめえら、こんな所に俺を閉じ込める気か!ぶっ殺してやる!!!」


おうおう、こんな状況にもなって随分と威勢が良いな。

と思ったら、突然大声で笑いだした。


「ハッハッハッハ、てめえら俺がこれで終わりだなんて思ってるんじゃねえだろうな?こんなナリでも俺は貴族の一員なんだ、つまり特権がある!

総合ギルドで沙汰を受けたところで、死刑にはならねぇ!!精々禁錮刑それも環境も悪くねえ禁錮刑だ。ざまあみろ!」


流石に爺さんの身内だとは言わないんだな、まあバレたら爺さんでも流石にこの場で殺さざるを得なくなる事ぐらいは分かってるのか。

運びこんだ村民が、憤怒の形相で睨んでいる。


「こんな奴に俺の親父が……!?」

「くそっ…」


「盗賊団の被害はどんなもんだったんですか?」


「ああ、うちの親父を含めて何人かは殺されちまったよ。酷いのになると強姦の被害にあった上で殺された女もいる。

そういや、あんたはアリーセをギリギリの所で助けてくれたんだってな、本当にありがとう。アリーセの親父は残念な事になっちまったが…。」


「見てるだけで腹が立ってしょうがねえ、正直この手でこいつを殺してしまいてえよ!!」


「なるほど、お悔み申し上げます。ところでこれは独り言なんですがね。

やっぱり腐ってもお貴族様ゆえに、突然自責の念にかられて、私はなんてことをしてしまったんだと後悔されるって事があると思うんですよ。」


その言葉に、縛られた男が叫ぶ。


「……??てめえ、何を言ってやがる!」


「それで、深い自責の念ゆえに自分の体を傷つけるなんて事もあるかもしれません。

ロープが緩んでいて手が自由になって、棒のような物が落ちていて、それで自分の頭を自分で殴りまくるとか?」


二人の村民が??顔でお互い見合っている。


「自戒で殴りまくった後にふと気づいたら納屋の端にナイフのような物が落ちていて、最後はそれで自決するなんて事も考えられますね、

何せ恥ずべき行為をしたお貴族様なわけですから、自らの処し方ぐらいはよくご存じだと思うんです。

縛り付けた後、扉を閉めて外を見張っていたのでは、そうなったとしても誰もわかりませんよね。死人に口はありませんので。」


縛られた男は、言わんとする事を理解したのか顔が青くなってきた。

二人の村民は小さい声で話し合った後、こちらに小声で尋ねてきた。


「……あの爺さん達は知っているのか?」


「?、何の話です?私は悪党を納屋に連れてくるのに付き添って、閉じ込められたのを確認してからその後は宿で一泊するだけですよ。」


「おいっ!てめえ、そんな事が許されるとでも思ってんのか!?俺は貴族だぞ!!」


「うるさいので猿轡をした方が良いかもしれませんね。では、これで。後はお任せしても大丈夫ですかね?」


村人がさっそく納屋に落ちていた汚いぼろきれで男の口をふさぐ。


「ああ、本当にありがとう。こいつの事は俺たちに任せてくれや。よ。」


その言葉を聞いて納屋から離れる、少しすると納屋の方からドガッというような低い音と、くぐもった叫び声のような音が聞こえる気がするが、多分気のせいだろう。



村にある唯一の宿で、爺さんらと合流した。状況をすり合わせた結果、盗賊団のリーダーが先ほど捕らえられた爺さんの孫。

名前はゲスタフ・ヴィースバーデ、現ヴィースバーデ領主の弟の子供らしい。現領主の甥が盗賊団に入ってあまつさえ他州で好き放題やってたとか、他の貴族や皇国上層部に知られたらタダじゃ済まないのでは?


副リーダーは俺が殺したバルトルという男だ、怪力自慢だったそうだが俺のトンデモ性能の槍からすれば相手にすらならなかった。


盗賊団は全体で50人ほどにもなるそこそこな規模で、ジーゲー州の村を転々として荒らしまわっていた。

ここの州は元々農業や畜産が盛んな州で、州全体が平穏なのもあってか州の軍隊の規模が小さめで練度が高くないのを知ったゲスタフが目を付けていたようだ。

名前に相応しいゲス野郎としか言いようがないな。


盗賊団はほぼ全員死んでおり、生き残ったのはゲスタフと他二人だけとの事だ。

その二人のうち一人は片腕の肘から先が無くなった状態で、もう一人は腹に深い傷を負っているので数日で死にそうな感じらしい。

生かしてるという事は、ゲスタフが爺さんの身内の貴族だという事までは知らないんだろう。なお、この手の悪党に傷病回復薬を使っても勿体ないから最低限の手当だけしている状態だ。


どちらもゲスタフとは別の場所に縛った上で閉じ込めている。

そういう事なら、一人ぐらいは証言用として連れて帰れるかな?


ちなみに盗賊団の死体については、こちらの村で燃やして処分するそうだ。


「明日の朝一で、ゲスタフを含めた盗賊団の生き残りを連れてボルンの総合ギルドに向かいたい。そこでトール殿の報酬もお渡しして解散とする。」


「分かりました、こちらはそれで構いません。」


ゲスタフを生身の状態で連れて帰れると良いけどな。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



一晩経って、爺さん達と一緒にゲスタフが捕らえられた納屋に行くと、村人が大勢集まっていた。


「何かあったのかの?まさか逃走したとか…。」


「ああ、中を見てください。」


中をのぞくと、判別できないぐらい顔がはれ上がったゲスタフが倒れていて

腹には複数回刺したような傷跡とおびただしい血痕、そしてナイフが腹に突き刺さっていた。

縛られていた縄は切られている。


昨日、ここにゲスタフを運んだ男のうちの一人が言った。


「一晩中外を見張っていたんですが、今日になって中を見たらこんな状態になってまして。」


爺さんはそれを聞いて、眉間にしわを寄せ怪訝な顔をする。

そこで俺がわざとらしく、こう言った。


「なるほど、彼は落ちぶれて盗賊になった元貴族と聞いています。エッボンさんに打ち据えられ自分がやった罪に初めて向き合うことが出来たのでしょう。

そして、罪に耐えきれなくなって自らを殴り、納屋に落ちていたナイフで自刃されたのに違いないです。

エッボンさん、今更手遅れとは言え貴族として立派な最期を遂げたと言えるのではないでしょうか。」


「いや、トール殿…」


「えっ?何か他にありますか??に何か特別な感情でもお有りですか?」


さらに難しい顔をするエッボン、そして目を瞑って何かを考えているように見える。

しばらくして小さい呟くような声を出す。


「……そうじゃな、あいわかった。この死体は盗賊団首領ゆえ、総合ギルドに提示する物証として持っていくこととする。アライダ、ザームエル頼む。」


「承知仕りました。」


アライダと一緒に来た部下の一人が、村人と相談し大きなずた袋のような物を貰って

手早く遺体を布でくるんでからずた袋に入れた。肩に担いで運ぶのはザームエルと呼ばれた男のようだ。


ちなみに他の二人は、生き残った盗賊団の二人を閉じ込めたところに行っている。


連れだって馬車の方へ向かって歩いていく途中、ふと納屋の方を振り返ると、

集まっていた村人たちがみな俺をじっと見つめているのに気づいた、そして深く頭を下げた。

軽く手を上げて答えて、足早に馬車へと向かった。

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