第31話 盗賊団殲滅

「お父さん…お父さん…」


少女を見るとうつぶせに倒れた父親とおぼしき男に泣きながらすがっている。

近づくと少女がビクッとしたが、声をかけてから男性の脈を見てみたが既に亡くなっている。

腹部分に大きな血だまりがあるから、残念だがレベルの高い傷病回復薬を使ったところでもう手遅れだ…。


「思うところは色々あるだろうが、まずは自分の命の事を考えて欲しい。

鍵をかけて家の中にいてください。」


うつむいたまま少女がちいさく頷いたのを確認してから、家を出た。

この様子だと他の家でも似たような事が多かれ少なかれ起きてると考えた方が良さそうだ。



あの後、村を見て回るとロクデナシが何人か襲い掛かってきたが

加護のマテンニール霧状散布のコンボで楽に討伐できた、『薬師の加護』さまさまだ。


そう思っていると片手には手斧、もう片方には出来は粗末ながら木製の大きな盾を持った盗賊団の一員が物陰から急に襲い掛かってきた。


「てめえ!!ぶっ殺してやる!!」


盾に向かって、槍を素早く突く。


「盾に向かって攻撃するとか馬鹿じゃねえのか!?なあっ!!」


槍が盾を軽々と破壊し、貫通して盗賊の腹に深々と突き刺さる。


「そ…そんな馬鹿な…」


そう、腹を刺されてたった今絶命した盗賊の言う通りでそんな馬鹿なだ。普通の人間が普通の槍を使ってこんな事が出来るわけがない。先ほどのバルトルとかいう悪党の肩から腹まで一気に裂いたのも同じ理由だ。


これは、ヘルヒ・ノルトラエで買った黒いグレイブ状の槍の効果に他ならない。


この槍を買ってから色々試した結果、二つの特徴がある事が分かった。

一つ目の特徴は極めて頑丈だという点だ、どんな硬い物に叩きつけても歪んだり刃こぼれ一つしない。切れ味も相当良いのに、その切れ味が落ちないのも強みだ。

どんな素材で作ったらそうなるのか謎でしかない。


二つ目の特徴は、俺以外が持つと尋常じゃなく重いという点だ。販売してくれた武器屋のオヤジが80kg以上あると言っていたアレだ。

この重さというのは対象や対象が持つ武器などに触れた時点でそうなるらしい、つまりこちらの斬撃を受けた・切られた相手は80kg以上ある刃物で高速で斬りつけられたようになるという事だ。


確か、日本に現存する一番大きな太刀が80㎏ぐらいだと何かで読んだな。全長が5mぐらいある特大剣だったはず。そんなものを使える人間は破軍と名乗る巨人ぐらいしかいないだろう。


他に80kgというとそこそこのサイズのスクーターと同じ重さになる、先に刃物を付けたスクーターが突っ込んでくることを想像してもらいたい。

その上その刃物は尋常じゃなく頑丈で切れ味も良いわけで、多少力自慢あっても普通の人間がこれを受け止める事が出来るのかという話だ。


それでいながらその反作用が槍を持ってる俺に来ることが無い、という点が便利過ぎる。こっちからすると普通に取り扱ってる感覚だ。


『薬師の加護』だけでも破格の性能だが、この武器も相当な物だ。

こんな武器にめぐり合わせるという点から考えても、やはり加護の恩恵の一つに天運なり強運なりも含まれているのは確実だろう。



概ね見回ったところは落ち着いたので、馬車の方向へ戻ると何か騒がしい。

騒がしい方へ向かうと、服装がやたら立派で両刃の剣を持った金髪の男が何やら叫んでいる。


「ジジィ、てめぇ俺の邪魔ばっかりしやがって鬱陶しいんだよ!!」


アイツが盗賊団にいるっていうヴィースバーデ家の関係者かな、醜悪なツラしてんなあ。見ると、その男の前にエッボンとアライダが対峙している。


「御屋形様、この場で処分しますか?」


「待て。ゲスタフまさかお前がこんな事までするようになるとは嘆かわしい限りじゃ、領地に戻って然るべき沙汰を受けよ。」


ええっ、この場では生かしとくつもりなの?盗賊団に入ってるような外道を?


「うるせぇクソジジイ、死ねっ!!」


男がエッボンに剣で襲い掛かるが、棒でうまくいなされ肩口を思いっきり叩きつけられて姿勢を崩したところで、滅多打ちにされている。

へー爺さんも中々やるもんだ。


「げっ!がぁっ!!」


滅多打ちされた後、頭を強く打たれたと思たら白目を向いて倒れてしまった。

アライダが倒れた男の手足をきつく縛り上げる。こっちに気付いたエッボンが振り向き、俺だけに聞こえるような小声で話しかける。


「こいつが盗賊団の首謀者じゃ。ヴィースバーデ家筋の人間がいるやもとの噂だったが、まさかわしの孫がそうだとは夢にも思わなんだわ…。ヴィースバーデの情報網を悪用していたようじゃ…。村の者たちには到底顔向け出来ん。」


「ここで殺さないんですか?状況から鑑みるにさっさと処分した方が良いと思いますが。」


「……言いたい事は分かるが、ヴィースバーデに連れ帰ってそこで沙汰を受けさせたい。」


「(村の人たちに爺さんの身内、しかも現ヴィースバーデ州を治める貴族と近しい身分の者だと知られたらまずいだろうに。内密に処理したいとか言ってたが随分身内に甘いなあ、孫バカか?)そうですか、分かりました。」


一緒に来た3人がこちらに走ってきた、軽傷は負っているようだが全員無事なようだ。


「御屋形様、村内の盗賊団はすべて片付きました。」


「ごくろうじゃった、続いて被害に遭った村民の補助を頼めるか?」


「承知いたしました。」


盗賊団が片付いたと知ったのか村人たちが集まってきて、その中から出てきた老人が声をかけてきた。


「総合ギルドから来た方でしょうか?私はここの村長です。

助かりました、ありがとうございます。この男はいかがいたしましょうか?」


「盗賊団の首領故に総合ギルドに引き渡したいと考えておる。明日連れて帰るので、使っていない家か納屋のような所に一晩閉じ込めておいてはもらえんか?加えて悪いが、今晩はこの村に宿泊させてもらいたい。もちろん宿泊代は払う。」


「分かりました。」


ぐったりした男を、村民の男性が二人で運ぶ。


「私が付き添いますよ、村民のフォローはそちらにお任せします。」


「トール殿、面倒をおかけする。」


遠巻きに見ている村民はみな憤懣やるかたない顔をしている、そりゃそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る