第30話 急転直下
エッボンとの話し合いの翌日、打ち合わせの通り早朝に馬房に行くと、
エッボンとアライダに加えて、武器と防具を装備した男が3人いた。
「おはようございます、エッボンさん。そちらの方々は?」
「おはよう、トール殿。こちらはわしの部下じゃ。3人とも中々の使い手じゃぞ。」
3人に軽く礼をして、早速馬車に乗り込みヨダ村に向かう。
昨日聞いた話だと50~60kmぐらい先だろうか、石で舗装された道を馬車で進む。
夕方に差し掛かるあたりになって、遠くに村のような物が見えてきた。
遠くから騒がしい音がかすかに聞こえるのと、遠くからでも様子に違和感がある…。
「…エッボンさん、なんか騒がしい音と村から煙のようなものが上がってませんか?」
エッボンが荷物から望遠鏡のような筒を取り出し、注意深く村の方を見ている。
「うーむ、あの煙は生活の煙ではない。
まさか、明るい内から村に襲い掛かったのか?アライダ、先行して行け!!」
「承知!」
アライダが馬車から飛び降り、短距離陸上選手にも匹敵するような凄まじい速さで村に向けて走り出した。
「御者!馬車も急がせろ!!」
うなづいた御者が手綱を操作し、馬車のピッチも上がる。
「総合ギルドからの情報だと村への到達はまだ先との事だったが…、ぬかったな。村に着き次第、盗賊団を討伐し村を守れ!トール殿も頼んだ!」
「(頼んだって…。うわあ、大変な事になっちゃったよこれ。あくまで補助だって言ってたのになあ…。)」
村に着くと、火矢でも使ったのか一部の家屋から火が上がっている。
そこかしこから叫び声も聞こえる。
「散会して、村に入った盗賊団を討伐しろ!!」
エッボンと3人が散会して村へ走る、エッボンは長い棒を持っていたから棒術使いみたいだ。
御者を守る人がいないが、御者も剣を装備しているのでそれなりに戦えそう。
もしかするとこの人もエッボンの部下なのかも。
正直困った事になったなと思いつつ、俺も続いて村を見回って歩くと、すぐに先行していたアライダが見つかった、さらにその周りに剣を持った小汚い男が3人。
「立派な剣を持ったお嬢ちゃん勇ましいねえ、俺たち三人相手で戦えるのかなあ?」
「十分に痛めつけた後、たっぷりと楽しませてあげるからねえ。」
ハハハハッと三人で笑う。
その刹那、凄まじい速度でアライダが抜刀したらしい。
らしいというのは早すぎてほぼ見えなかったからだ、悪党の首に向かって振り抜いた日本刀のような片刃の剣をそのままゆっくり上段に構える。
「…は???」
ぼとっ…
言った男の首が背中側に落ち、首から血が噴き出す。これは抜刀術みたいなものか?
ユリーも良い腕だとは思ったが、そのユリーとですら比べ物にならないレベルの達人のようだ。
「なっ!?」
「え??」
突然の出来事に動きが固まっている二人に高速で剣をふるい、残りの首も簡単に落としてしまった。
剣を軽く振って血を払いさらに悪党の服で拭いながら、こちらに話しかけてきた。
「トール殿、私はこちらに向かいますので、そっちをお願いします。」
「…ええ、分かりました。」
もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな、というセリフが一瞬頭をよぎったがそっちをと言われた方を見て回る。
出会う村人には総合ギルドから盗賊団討伐に派遣された者だ、とにかく家に入って鍵を閉めろと言いながら見回っていると、小さい家の扉から出てきたどう見ても悪党にしか見えない輩がいた。
家の中からは甲高い女性の叫び声が聞こえる、確実にこりゃ良からぬ事になってるぞ。二人がこちらに気付く。
「ああ?なんだてめぇは、バルトルさんが今からお楽しみを始めようとしてんだ。邪魔すんじゃねぇ。」
「始めようとしてるなら、まだ間に合うかもしれないですね。」
「ヘヘヘ間に合わねぇよ、てめえは俺たちが今から殺すからな。」
二人が剣を抜くと同時に、小麦粉が入った小さい袋を投げつけた。
袋は剣で叩き落とされた。
「はん、なんだこりゃ?こんなもんでどうにかなると思ってるのか……ああああ!、目が痛ええええ!!!」
「何も見えねぇ!!くそぉ!!てめえ何を投げつけやがった!?」
小麦粉を投げつけると同時に、いつものように『薬師の加護』で悪党の目の前にマテンニールを霧状散布した。
うん、これなら加護を十分誤魔化せるな。
「今から死ぬんだから、何したか知っても仕方ないでしょ。」
手早く、二人の腹を槍で深く突く。叫び声を上げつつ倒れ、動かくなった。
念のためもう一度腹に槍を突き刺してから家の中に入ると、助けてやめてと叫び続ける少女を抑えつけて服を破っている半裸の男がいた。
少女の顔には殴られたような跡もある。男は背を向けているから、こっちに気付いていないようだ。
「大人しくしろ、今からお前を女にしてやる!」
間一髪間に合ったようだが……。
こういうのは好きじゃない、極めて不愉快だ。
怒りに任せて男の股間を後ろから思いっきり蹴り上げた。
ちなみに今履いている靴だがつま先の部分に金属が入っているショートブーツだ、いわゆる安全靴のようなタイプ。
なので蹴るだけでも相当な威力があるだろう。
「○×△☆♯♭●□▲★※!!!????」
よく分からない叫び声を上げて、男がもんどり打って倒れ、股間を抑えて震えている。ボールが一つ二つ無くなってしまったかもしれない。
少女に助けに来た旨と、そっちで大人しくするよう指示をすると、震えながらも小さく頷き移動した。
目や鼻や口から色んな汁を垂れ流している男が、なんとか立ち上がり股間を抑えながらこちらを睨みつける。
プルプルしながらも、置いてあった片刃の大きな刀を持ち上げる。
「……てめえだけは絶対許さねえ、絶対に許さねえぞ!!!」
言うか言わないかのタイミングで素早く近づき、そいつの左の肩口に向かって槍の刃を上から振り下ろすと、男は両手で刀を持ち槍を頭の上で受け止めようとした。
が受け止めきれず、そのまま槍の刃が肩口までめりこんだ。
「があっ!馬鹿な、てめえなんて怪力だ!?
…やめろ、やめろぉっ!!頼む、助けてくれ…」
「今までそう言ったであろう善良な人たちにあなたは何をしたんですか?」
そう言って一気に押し込むと、肩口から腹のあたりまで槍の刃が入って鮮血が噴き出た。
「ぎゃぁっ!!??」
短い断末魔を上げ、男はあおむけに倒れた。多分即死だろう。
うわっ、血がコートに着いたじゃないか。きったねぇ。
さて、俺は特別力が強いわけでもないのに、こんなとんでもパワープレイできたのには当然理由があるわけだが…。
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