第29話 厄介事の匂い

老人と連れの女の子、エッボンとアライダと共に喫茶店のような所へ移動した。

個室もあるお高めの店だ。


「ここのコーヒーは中々飲ませるぞ、トール殿はコーヒーは好きかね?」


「値段が値段なので頻繁には飲みませんが、割と好きですよ。」


「それは結構、先に言った通りここは奢るから存分に楽しんでくれ。」


コーヒーが運ばれてきた、うーむ中々良い香りだ。

割と高級な店だからか砂糖も席に置かれている。ちなみに砂糖はそこそこの高級品で、この国では甜菜から抽出しているらしい。


砂糖をスプーン一すくい入れてから飲んでみると、コクのある苦みが広がり味も良い。

この世界に来て飲んだ中では一番出来が良いコーヒーだ。豆挽きや焙煎が上手い店なのかも。


エッボンはブラックのまま飲んでいるが、向かいに座ったアライダはめちゃくちゃ砂糖を入れている、

あれだとゲロ甘ブラックコーヒーになるぞ。


「さて、トール殿。依頼の内容の前にわしの詳しい身分について説明をさせて貰おう。多少なりとも疑っておるじゃろうし。」


「わしはエッボン、正確にはエッボン・ヴィースバーデ。現ヴィースバーデ州を治めるアルフォンス・ヴィースバーデの先代にあたる。

ヴィースバーデ州は商業が盛んでな。商人とも交流が深い、なのでその方面への顔が広いというわけじゃ。

このコーヒーも実は我が州で栽培されておるコーヒーでの。」


「それでザレの情報もお持ちだったという事ですか。」


「いかにも。さらに身分を疑うのであれば、ギルドで証明しても良い。依頼について説明しても良いか?」


「ええ、伺います。」


「まず説明の前にこの依頼と結果がどうであれ、他言は無用に願いたい。もしもの時はヴィースバーデ家として対処が必要になる。

失礼ながら前もってトール殿の素行については総合ギルドに聞いている。その上で信用に足る人物という事で依頼をしたいと考えたのじゃ。

もちろん、ボトロック家の娘とのいきさつも含めての事じゃ。」


「(なるほど、一通りのことは知った上で信頼に足ると判断したから依頼したかったのか。)

承知しました、他言しない事はお約束します。」


「では話すぞ?依頼と言うのはとある盗賊団の捕縛または討伐じゃ、近いうちにボルンから少し行った所にあるヨダ村を襲うという情報がある。

身内の話で恥ずかしい限りだが、その盗賊団にヴィースバーデ家筋の者がいるという噂がある、あくまで噂の話だが…。

だが事実であれば、醜聞をさらし続けている事になる故、家として早急かつ出来れば内密に対処することにしたわけじゃ。」


「しかし、わざわざ先代当主がその対応をするんですか?」


「当主の座を降りてから気楽な身となった故、今は皇国全土を旅しておっての。

旅をしてる途中その話を聞いたので、本当ならまずいのでわしが対処してしまおうというわけじゃ。

トール殿は薬師としての腕が良いと聞いておる上、槍もそこそこ使えるとか?盗賊団を対処するときの種々のサポートをお願いしたい。

盗賊と戦うのは基本的にわしらがやる、トール殿の役目はあくまでも補助になる。

報酬は金札10枚(100万円)とザレにある薬屋の土地建物購入の紹介状じゃ、もちろん使った薬代などは別で支払わせてもらう。

この条件でいかがか?」


「(水戸黄門みたいな事をしてるジジイって事か。正直、金札10枚は安い気がするが、紹介状は欲しい。

人間相手なら、『薬師の加護』を使えば最悪の事態も切り抜けられはするはず…。よし。)

分かりました、お引き受けしましょう。」


「大変結構。急ぎで悪いが、明日の朝にはボルンを出てヨダ村に向かいたい。馬車で丸一日ほどかかる。

その後、盗賊団が来るまで村に泊まりになるやもしれぬ。

馬車のチャーターはこちらでやっておく故、物資類の準備だけして早朝に北の馬房に来て欲しい。あとこれは今晩の宿泊代じゃ、取っておいてくれ。」


そう言われて銀札1枚(約1万円)を渡された、中々気前が良い爺さんだ。


その後、盗賊団の詳細やどういう仕事になるかなど、詳細を打ち合わせた後、明日に備えて宿に戻った。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



トールが店から去ってから、コーヒーを飲みながらエッボンが話しかける。


「アライダ、トール殿はどうじゃ?」


さっきまで大量の砂糖を投入したコーヒーを飲んでいたアライダが答える。


「身のこなしを見るにそこそこの使い手のようです。

そしてあの槍あれは相当な逸品と推察いたします、もしかすると天授やもしれません。」


「やはりボトロックの娘の見立て通りか、まだ15やそこらと聞いておるがあの落ち着いた態度。わしが貴族と聞いて驚いた様子も無かったな。

ヴィースバーデも南西には爆弾を抱えておる故、身内の恥を正すついでに使える輩には唾を付けておきたいのう。」

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