第27話 東へ
アーヘン州に向かうと決めたヘルヒ・ノルトラエでの最後の夜。
前もって考えておいた、今後の流れを再度思い起こす。
アーヘン州の州都ザレに向かうルートについては既に検討済みだ。
具体的には、ノルトラエ州からジーゲー州、レムシャント州を経由して皇国管理区域に入る。
皇国管理区域は皇国の中央にあるかなり広大な国直轄の統治エリアだ。
文献などを見ると、やはりここが一番文化的に発展しているらしいので、
しばらく滞在してみる予定にしている。ここで色々この国の見聞を広げたい。
そこからベンネン州を経て、ようやく目当てのアーヘン州に入る事が出来る。
ただ州境のあたりにヴァンド湖というかなり大きな湖があり、
これを超える必要がある。ここを超えて少し行くとやっと州都ザレに着く。
もちろん州都から州都へ直接行けるような距離ではないので町から町への移動が基本になる。
移動については、割と頻繁に馬車の定期便が出ているのでそこまで不便はしない。
王国とは違い、道の整備もそれなりに整っているのもあり基本的には朝出て夕方には次の町に着く感じで野宿の必要は無い。
文明レベル的に蒸気機関ぐらいあっても良さそうだが、少なくとも皇国内の各州には高速な長距離移動手段は無いらしい。
『加護』とかいう訳が分からん力があるから、地球とは別のエネルギー源があったりするかもしれない。
その辺は皇国管理区域で何か分かるかもしれないな。
路銀については、それぞれの州の総合ギルドに行けば国民証を使って引き出せるので大量に持ち歩く必要はない。
ただ途中の町でお金を引き出せない場合もありそうなので、20連泊出来るぐらいを目安に多めには持つようにする。
装備については先日購入したものに加え、マテンニールだけはしっかりと補充しておいた。
野宿はしないので食料は持っていかない。万一を考えて水だけは持っていくことにした。
ただ、水については加護で極端に薬の濃度が薄い水薬を作る事が出来るのは試せたので、砂漠ででもなければその辺の草から水も生み出す事が出来てしまう。
しかし薬師の加護、汎用性が高すぎるな。
急ぐ旅でもないので、名産があったりとかで気が向いたら途中の町に何日か滞在してみても良いかなと思っている。
まずはジーゲー州の州都ヴィトゲを目指して馬車を乗り継いで進む感じだ。
この町でやり残したことがあるか考える、……特にないな。
予約済みの馬車に朝一で乗り込んでこの町を離れることにしよう、
朝一にヘルヒ・ノルトラエを出る馬車に乗って、次の町へ向かう。もちろん、その町はまだノルトラエ州だ。
王国で馬車に乗った時のように賊が出る事もなく順調に町へ着く。
ヘルヒ・ノルトラエに比べるとかなり小さい町だ、それでも宿泊所はあるし、雑貨屋や食事処もある。
馬車便はそこそこの規模の町向けにしか出てないので、やはりその辺は心配する必要はなかったようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな感じで、割と移動は順調でジーゲー州に入った。
少し手持ちが減ってきたので、ジーゲー州のボルンという町に着いた時、総合ギルドで金を卸す事にした。
ボルンは数万人規模の町だろうか、そこそこの規模の町と言う感じ。
総合ギルドは3階建てで、王国のカンブレスの町にあった総合ギルドと同じぐらいの大きさだ。
総合ギルドに入って、銀行業務受付窓口に向かう。
当然、ATMなんか無いので全て受付で手続きをする必要がある。
受付のお姉さんに声をかける。
「すみません、銀札10枚(約10万円)引き出したいのですが。」
「かしこまりました、国民証の提示をお願いします。」
国民証を渡すと、四角い箱のような物の上に置く。ピーッという音が鳴り、それが終わると箱に接続されている
板の上にある紙にインクが浮き出る。身分と銀札10枚と記載されている物だ。
紙をじっと見つめ時間をかけて確認してから奥の部屋に持って行った。
しばらくするとお金を持って帰ってきて国民証と一緒に渡してきた。
「(普段、こんなに紙をじっと確認したりしないはずだが…?」
「銀札10枚になります、ご確認ください。残高照会もされますか?」
「ありがとうございます。残高照会は不要です。」
手続きが終わったので、早々に去ろうとすると呼び止められる。
「トール様、少しお待ちください。先ほどの国民証を確認した所、トール様は四級薬師と六級害獣狩人との事ですが、
この町で依頼を受ける気はありませんか?」
「うーん、実は移動中でしてこの町に長く滞在するつもりが無いんですよね。なので申し訳ないんですが依頼は遠慮させてください。」
「……そうでしたか、お引止めして申し訳ありませんでした。」
軽く礼をされた。
何か知らないが面倒ごとの臭いがするから、とんずらするに限る。
今日はもう遅いから馬車便が出ていない、明日早々にこの町を離れよう。
さっさとギルドを出て、今日の宿を探そうとしていたその時だった。
「ちょっと、待ってくれんかのう?」
この面倒ごとからは逃げられないかもしれない…。
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