第26話 天授の武器

さらに3か月ほど経った、ブフマイヤー氏は既に町にはいないが槍は十分学べたし、金も相当に余裕が出た。

あれから色々調べたが、やはりアーヘン州の州都ザレを定住の地とするのが良さそうだ。


装備も色々と整えた、鞄は四角いリュックサック型でカンブレスで買った物より一回り近く大きく、さらに相当頑丈なものに買い替えた。

名前は忘れたが、何とかという大きな害獣の皮から出来た物で、金札4枚(約40万円)もするレア物だ。


肉弾戦をまともにやるつもりはないので、皮や金属の鎧は付けていない。

厚めの布で出来た襟が付いたヘンリーネックシャツのような長袖の上着にズボンのセットで、その上から同じ素材で出来たフード付きのコートを羽織る、フード付きなのは首を守るためだ。なお、コートは一部オーダーでポケットは多めにしてもらった。染色はしなかったので色は生成り色だ。


ただ布とはいっても、鋼蚕と呼ばれる虫が出す極めて頑丈な糸を使って作られた布で、刃物で切られた程度では傷すらつかない超一級品だ。

特殊な折り方で刺突にも強い、つまり弓矢対策も兼ねている。

コートに上下、その予備1セットを合わせて金札30枚(約300万円)もした。

しかし命は金で買えないからな、バイオレンス度が日本よりははるかに高い世界なのを考えると、この出費はやむを得ない。


さらに槍も新調した、新調するのにひと悶着あったが、かなり良い物が入手できた。

そのひと悶着だが……



総合ギルドの薬師受付にいるおばあちゃん職員に、槍の話をしたらここの武器屋が良い物を取り扱っていると紹介された。

いざ来てみると、看板が薄汚れていてあまり商売繁盛していないようだ。やや心配。


ノブを回してドアを開けて中に入る。


中に入ると、剣や槍、盾などが所狭しと並んでいる。見た感じどれもしっかり手入れされており、埃が積もっているなんてこともない。あの婆さんの言ってた通り、置いてる物自体は良さそうだ。


奥から長い無精ひげを生やした、筋肉質の小柄なおじさんが声をかけてくる。

ドワーフ?ただ、この世界にドワーフがいるという話は聞いたことが無いが。エルフやドワーフはいたりするんだろうか?


「らっしゃい!どんな武器を探してんだ?」


「槍を新調したいと思っていまして。金額は特に決めていません、ビビッと来た物があったら買いたいです。」


「俺が見繕ってやっても良いぜ、ちょっと手持ちの槍を構えて振ってみろや。」


「こうですか?」


言われたとおりに槍を構える。その様子を黙ってじっと見つめる店主。


「……ほお、その動きに構え。お前さん相当槍が使えるんだな、ブフマイヤー流と見た。よく見りゃ服も相当良い物着てるじゃないか。

それなのに、その槍はそこまで使っている感じはしないが狩人はやってないのか?」


「専門は薬師でして。襲われた時だけ害獣は狩る事にしています。」


「それだけの腕があるのに勿体ねえな。まあいいや、その腕ならこの辺の槍はどうだ?」


何本か槍を紹介されるが、どれもなんかしっくりこない。

何本か槍を見ている最中に、ふと端っこに置かれている少し長刀に似た黒い刃が付いていて、金属?にしては質感が違う同じく黒色の柄を持ち、金色の立派な石突きが付いた重厚そうな槍が目に入った。総じて、グレイブに近い槍に見える。

しかも槍の刃が、薬師の加護を使った時の必要素材のようにうっすらとだが光り輝いて見える。


「あの黒い槍はなんです?」


「ああ、あれか。畑仕事をやってる農家が昔の戦争の遺物か何かなのか土の中で見つけたモンだ。ただ、変な槍でまともに使えるモンじゃなくてな。

農家も邪魔だから引き取ってくれって事で、二束三文で買い取ったんだ。」


「へえ、そうなんですか。ちょっと持ってみても良いですか?」


「ああ、もちろん構わねえが…。」


黒い槍を片手で持って、軽く振ってみる。おおっ、持ちやすくて重量もほどほどでしっくりくる槍だな、これ良いじゃん。


「見た目と違って結構軽い槍ですね、これ。」


それを見て、店主は唖然とした表情をしている。


「お、お前それが軽いって言ってんのか??見た目と違って、めちゃくちゃ力が強いのか…?」


「??、見た目の通りですよ、そんなに力に自信があるわけでもないですが…。」


「おめえ、その槍はおれでも両手で抱えるのがやっとの代物だぜ!どうやって片手でしかも軽々と持ち上げてんだ!?」


「ええ…、いや普通に持ち上げてるだけですが…。」


ほれと店主に槍を渡すと、ぬあっと声を出しふらつきながら店主が受け取った。言う通りで両手で持つだけでも精一杯に見える。ヨロヨロしながら槍を引きずりなんとか置場に戻していた。


「おめえ、この重さの槍をどうやって持ち上げてんだ!?どう考えても80キーグ(80kg)以上はあるぞ!!」


「ええっ!?そんな重くなかったですよ、今使ってる槍と変わらない重さに感じましたが…。」


そう答えると、店主は腕を組んで考え出した。


「……もしかしたら、天授の武器なのかもしれねえ。ただの噂だと思っていたが…。」


「天授の武器って何ですか?」


「文字通りよ、天から授けられた武器ってやつだ。特殊な資格がある奴だけが使える。火が出せたり、欠けたり錆びる事が無かったりする武器らしいが、御伽噺レベルの話だぜ?」


「それがこれかもしれないと?」


「ああ、それが土に埋まってたり、湖に沈んでたり、遺跡の奥に鎮座してたりするんだとよ。お前以外の奴はその槍は持つだけで精一杯なんだぞ?

仮に天授の武器だとしたら、どういうわけかお前に引かれたのかもしれねぇな。

…元々あってないようなもんだし、使いこなせる奴がいるならそれに越したことはねえ!買うなら買値の銀札1枚で良い。」


「(うーん、騙されてないかこれ?でも演技しているようには見えないけどな…。

まあしっくりくるし、安いから騙されたと思って買ってみるか)。」


「分かりました、これを下さい。」



という事で、買った黒い槍。一緒に槍の講習を受けていた人に、試しに渡してみたらやはり持つだけで精いっぱいなようで

てめえ殺す気か、腕がちぎれるかと思ったわ!なんてもん持たせるんだ!というかお前そんなもんよく持ち歩けるな、どんな腕力だ!と怒られてしまった。


国民証以外では、急にファンタジー感が出てきた武器が手に入ってしまった。

害獣退治で使ってみたが、前の槍よりも頑丈な上に切れ味も抜群で、非常に使い勝手が良い。これも加護のおかげで使えるのだろうか?


まあ、使えるもんは使えるんだしラッキー程度に思っておくか。


ともあれ、アーヘン州に向かう時がついに来た。

夢の文化的のんびり生活に向けて、さらなる前進だ。

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