第24話 皇国総合業務請負所(3)

「皇国総合業務請負所、通称総合ギルドは運営資金の2/3を皇国、残り1/3が様々な商業ギルドが出資して運営しております。」


「(要は第三セクターって事だ、王国はどうだったんだろう?)」


「業務内容としては国に関わる登録や処理、税金の納入。業務の依頼とその請負者の仲介。納品物の買い取りなどを行っております。

国が関わる登録業務にはお金をいただきませんが、業務依頼や納品については税金を含めた仲介手数料をいただいております。

仲介手数料は、依頼者請負者の等級に応じて上下いたします。具体的には等級があがればあがるほど手数料が減る仕組みです。」


「ただし、先ほども説明しましたが、一定等級以上になると国または商業ギルドから強制的な指名依頼をされることがあります。」


「業務請負にはそれぞれ等級が決まっていて、等級ごとに受けられる業務内容が異なってきます。なので広く業務を受けたい、

より儲けたいのであれば等級を上げざるを得ないかと思います。等級を上げるには、総合ギルドの試験を受け認定を得る必要があります。」


「業務請負はほぼありとあらゆる業務があります、害獣を狩る害獣狩人、獣から食肉や皮などの採取まで行う狩人、悪党を討伐する賞金首狩人、素材採取士、探索士、護衛者、などが戦闘が関与する請負人になります。

技能工とも呼ばれる請負人が建設作業人、木工作業士、皮革・裁縫作業士、薬師、鍛冶士、彫金師などなど、もちろんそれぞれで等級分けされております。」


「業務請負でなく店を持って商売するにしても、総合ギルドで認定された高い業務等級を持っていれば信頼性に繋がりますので役に立ちます。」


「等級については、後程お渡しいたします国民証に記録されますので、もしこの州を出て別の州に移られてもそちらの総合ギルドで国民証を提示いただければ変わらず業務を受けることが出来ますよ。また、全国民の記録は一か月ごとに各州の州都にある総合ギルドおよび皇国直接管理地域で同期されています。」


ちなみにこの世界でも地球と日時の単位はほぼ同じで7日で1週間、30日で一か月、12か月で1年と分かりやすくて助かる。

しかし、インターネットも無いのにどうやって一か月おきに同期しているんだろうか?多分人力でやってるんだろうな。本当に皇国内に1億人もいるとするとゾッとする作業だ。


「国民証というのはこういうサイズのよく分からない文字が入った金属の板みたいな物ですか?」


手で、一万円札ぐらいの大きさを示しながら尋ねる。


「よくご存じですね。ああ、そうか移住の際に推薦者の国民証をご覧になったのですね。あの国民証には各人の情報および精霊紋が登録されております。」


「精霊紋???」


「精霊紋というのは個人を識別する証らしく、国民証登録時に装置に乗せた状態で手で置く事で、目には見えない特殊な印をつけることが出来るそうです。

ただ、精霊紋自体が何かは我々も分かりませんし、国民証がどういう仕組みで作用しているのかも分かりません。」


急にファンタジー要素が入ってきたな…。


「大昔に『天眼の加護』というものを授かった方がいまして、その方が国民証と精霊紋とそれを製造・加工する装置・読み取りできる装置を発明されたそうです。それが今も使用されているという状態です。」


「発明された方は初代メールス卿で、その子孫が今でも第四級貴族をやっており、この国で唯一、永世貴族の認定を受けています。

つまりその仕組みや装置の調整・修理などをメールス一族が一手に担っている状態です。加護がどういうものだったのか、調整・修理は一体何をやっているかは一族のみに伝えられていて全く不明な状態です。」


「ただ、今やなくては皇国が成り立たない必需品となっております。」


とんでもねえオーパーツじゃん、これありきであらゆる事をやってるぽいからそりゃそうなるわ。下手すりゃメールス一族が国家転覆出来るレベルだと思うが、その辺は何らかの形で国として制御してるんだろう。


「次ですが……」



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「以上で、説明することは終わりです、何かご質問はありますでしょうか?」


「当面の生活に必要な情報は得られました、特に質問はありません。ありがとうございました。」


「何か質問や疑問があれば、気軽に皇国民総合受付までお越しください。あと皇国に関する冊子を差し上げますので、こちらをお持ち帰りください。」


やや厚めのカタログのような冊子を渡される、そういやこの手の本を引っ越しの転入手続きで市役所に行ったら貰ったな。


「そろそろ、登録手続きが終わった頃だと思います、受付に向かいましょう。」


女性職員と一緒に、皇国民総合受付に向かう。

職員はカウンターの中に入って、何かの紙を見る。


「ああ、必要な手続きは全部終わってますね。あとは国民証の精霊紋登録だけですが、家名を何にするか決まっていますか?

王国出身でよく分からないという事であれば、こちらで候補の提示も出来ますよ。」


「うーん、どうしようか…。では、ハーラーにしてください。」


「ハーラーですか、それなら皇国でもそれなりに聞く家名ですから違和感ないですね、かしこまりました。」


それを聞くと、女性職員は奥の部屋に入っていった。

俺の前世の名字が原なので、それを伸ばしてこっちの世界でも違和感なさそうな名字っぽくしてみたら正解だったようだ。


奥からユリーが持っていたのと似た金属の板と、四角い箱のようなものを持ってきた。箱の上に金属の板を置くと、受付カウンターに置きこちらに差し出す。


「板の上に手を置いてもらえますか?」


言われたので、板の上に手を載せる。そうすると箱の中からピーッという甲高い音がしばらくしてから止まった。

手を外していいと言われたので手をのけると、金属の板を渡される。


「国民証の登録が終わりました、国民証は無くさないように気を付けてください。

無くしてもこの受付で申し出いただければ再発行は出来ますが、その際は金札2枚(約20万円)かかりますのでご注意ください。」


再発行費用、高っ!


「これで皇国の国民登録は終わりました。今後、こちらで仕事を受けられるとの事でしたから、先に各業務窓口で登録することをお勧めします。」


「ありがとうございました。ああ、そうだ、こちらのギルドでは武器の取り扱い講習みたいなのはやってますか?」


「体捌きと剣、槍、弓の使い方講習は常時やっております。あちらの受付で聞いてみてください。」


さて、とりあえず薬師と害獣狩人の登録だけはしとくかな。



薬師と害獣狩人の受付で聞くと、先ほどの国民証を渡してすぐ登録できた。どちらも七級だ、七級は年齢性別など問わず無条件でなることが出来る。


七級薬師、正確には皇国認定七級薬師は皇国で三級頭痛薬、三級胃腸薬などと呼ばれる比較的純度と効果が低めの薬の納品が出来るようだ。


前に調合したヤナギから抽出した頭痛薬を自分で調合した薬として見せると、これが調合出来る力があるならすぐに五級ぐらいまでは上げられるだろうとの事だ。

さらに、効果が低めの加護回復薬・傷病回復薬が作れれば四級になれるらしい。聞けば、四級からは全ての級かつ全ての薬の納品が出来る。


ならささっと四級薬師にはなっておくか。当然だが、納品義務が発生する三級にはなるつもりはない。

稼ぎが増えようと余計なしがらみが増えるのは御免だ。

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