第20話 ボトロック家
しばらく進んで、馬車のままヘルヒ・ノルトラエに入った。
入口に立派な門と衛兵はいるものの王国と違って、町に入る際の検問は無かった。
馬車の窓から見てると、カンブレスと比べても明らかに頑丈そうな5mぐらいだろうか、高い塀に囲まれたかなり大きな町だ。
街中もしっかりと舗装されており、道端に馬糞が落ちていたりもしない。
この辺、衛生観念も王国に比べて高いらしい。
町を馬車でどんどん進むと、かなり大きな邸宅が並ぶエリアに入った。
それぞれの邸宅の前には、衛兵とおぼしき人が数名立っており、おそらく貴族や豪商などが住むハイソなエリアなんだろう。
「御者、そこの家の前で止まってくれ。」
ユリーが声をかけると、ある邸宅の前で馬車が止まった。
ここもまた広い邸宅だ、ざっと見た感じでも日本の大きめのスーパーマーケットぐらいの敷地がある。
馬車を降り、ユリーが衛兵に声をかける。
「ユリーだ、今帰った。父上はいらっしゃるか?」
「お嬢様、お帰りなさいませ。邸宅にいらっしゃいます。」
「それは僥倖。この時間ならおそらく執務室だろう、トール君行こう。」
大きな金属製の門が開き、中に入る。庭もしっかり手入れされていて見事で、明らかに金がかかっているのが見てわかる。
庭を抜け、玄関ホールに入る。この世界は家で靴を脱ぐ習慣はないようだ。
知った家とばかりに、そのままどんどん進むユリーの後に着いていく。
メイドや執事が、ユリーが通ると頭を下げ、お帰りなさいませと挨拶するのを見ると、ユリーが貴族のお嬢様なのを改めて実感するな。
進んでいって、奥まったある部屋の大きな扉の前に着いた、ユリーがノックを2回する。
「父上、ユライシャイアです。ただいま戻りました。報告がございます。」
「うむ、入れ。」
中から重厚な声が響く。中に入るとどうだろう20畳ぐらいの部屋だろうか、地味ながら質の良い家具に囲まれている。
その奥にあるデカい机の向こう側、立派な椅子に腰かけた、口ひげを蓄えたしっかりした体格で50~60歳ぐらいの男が座っている。
「ユライシャイア、よくぞ戻った。そちらの御仁は?」
「報告とはそのことです、私が移住推薦をして、無事移住条件を満たして王国から皇国に来たトール殿です。
若いですが非常に腕のいい薬師で、害獣駆除も出来る槍の腕前も持っております。」
父上と呼ばれた人物が髭を触りながらこちらを見る。ここは一言挨拶した方が良いな。
「トールと申します。ユライシャイア様にご推薦いただき、この度皇国に移住する事になりました。お見知りおきください。」
言ってから一礼する。礼の仕方が合っているかは不明だ。
「ほう、これはご丁寧に。私はユリーの父でもあり、七級爵位を有するボトロック家当主アーブラハム・ボトロックだ。
ユライシャイア、彼は当家に仕えるのを希望しているのか?」
「いえ、市井にて薬屋を営むなどして生活する予定との事です。一緒に豚人討伐も行い、本人の能力と人となりで皇国の発展に寄与する人物と判断し推薦したまでです。」
「あい分かった。今日はもう遅い、当屋敷に泊まられるが良かろう。ボルソン、トール殿を客間に案内せよ。
ユライシャイア、王国での事を聞かせてくれるか。」
「承知いたしました。」
無口なボルソンが礼をすると、こちらを見て頷く。
ボルソンが部屋を出ていくので、アーブラハムに軽く一礼してから、後をついて部屋を出る。
そういえば、さっきから尿意を催してんだよな、ボルソンに聞いてみるか。
「ボルソンさんすみません、トイレに行きたいのですがご案内いただけますか?」
ボルソンが頷くと、ある部屋の前まで案内してくれた。
中に入って驚いた。
「(うおおお!水洗じゃねぇか!皇国素晴らしい!!最高!!)」
声には出さず、トイレで思わずガッツポーズをしてしまった。
転生してから数か月、ぼっとん生活からの脱出が見えたぞ!
邸宅内の人間が水洗で排泄物を流しまくってたらどんな大きな貯水タンクがあってもすぐあふれるだろう。
つまり皇国にはたぶん下水道の概念があるということだ。これだけでも皇国を定住の地に選んだ甲斐があった。
ウキウキ気分で用を足し、ボルソンに連れられ客間に行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます