皇国流浪西編

第19話 ヘルヒ・ノルトラエに向かう

宣誓書を書き終わったところで、待合室からユリーとボルソンが出てきた。


「無事試験を終え、宣誓書に記入まで終えたようだな。

トール君、これで君も私と同じ皇国民だ、おめでとう。」


「ありがとうございます、これもひとえにユリーさんの推薦のおかげですよ。」


「ふふ、それは良かった。では皇国に入ろうではないか。

後からになってしまうが、我がボトロック家が推薦したからには、一度我が家に来て家長に紹介しておきたい。

なので、まずは私と一緒に我が家に行ってもらおう。」


「(ゲゲッ!しかし、これは断れそうにないぞ、やむを得ないか…。)」


顔に出てしまっていたのか、少し苦笑いしたユリーが肩に手を置いた。


「何、心配しなくとも上納金を寄こせとか、面倒な仕事をやれとか、家に仕えろとかそういうわけではない。

先にも言ったが、変な奴を移住推薦した訳ではない事を家に説明しなくてはいけないのでな。」


「家長に紹介し、一言挨拶すればそれで終わりだ、気難しく考えなくて良い。

そもそも我が家はそれほど格式が高い貴族でも無い。」


「王国との国境に一番近い町、ヘルヒ・ノルトラエに向かおう、そこに我が家もある。」


兵士に軽く挨拶し、審査所を出ると皇国側に向かってユリー・ボルソンとともに歩き出す。

巨大な門から入るのかなと年甲斐もなく少しワクワクしていた。


ユリーとボルソンが紙のような物、おそらく出入国証明書か何かを兵士に見せた後に

俺も先ほど貰った宣誓書を見せると大きな門の横にある通用口のような普通のドアを開けられ、そこから3人で皇国に入った。


「(…別に悪くは無いが、なんかショボいな。)」



門をくぐったところで、ユリーに話しかけられる。


「ああそうだ、トール君。こっちじゃ王国の金は使えないから、町に向かう前にそこの出国審査所で両替した方が良いぞ。」


「やっぱり共通通貨じゃないんですね、ありがとうございます、両替してきます。」


出国審査所に入ると、入国審査所と同じような受付所があり、40代ぐらいの兵士が座っていた。


「すみません、王国の貨幣の両替をお願いしたのですが。」


「お前さん、見かけない顔だが王国からの移住者か?ようこそ、皇国に。換金レートはこういう風になってるぞ、確認してくれ。」


紙に書かれた換金レートを見てまず驚いたのが、皇国では金属通貨に加え、紙幣を使っているという点だ。

紙そのものに大した価値が無いので、紙幣に価値を持たせるには簡単に偽札が作れないレベルの印刷技術に加え、国の権威とその十分な後ろ盾が必要になるが、それがこの国では出来ているという事だ。

国からすれば金属には色々使い道があるから、紙幣を使えるならそっちの方が良い。


こちらでは、小銅貨・銅貨・銀貨・金貨の4種類に加え、銀貨金貨の代わりの銀札と金札なる紙幣がある。価値からすれば1万円札と10万円札だ。

基本的には小銅貨が王国の鉄貨とほぼ同価値で、銅貨・銀貨・金貨は同じ、銀貨と銀札、金貨と金札が同じ価値の様だ。

聞けば、銀貨と金貨は存在はするもののほぼほぼ、こちらの国の民間取引では使ってないという。


ただ、交換レートは王国の10銅貨が皇国の9銅貨となっている。


「ああ、王国貨幣の交換レートが低いのは貨幣の質が悪いからだ。あっちは混ざりものが多いんだ。」


大丈夫とは思うが、念のため王国金貨10枚だけ残して、残りの金貨約70枚全てを、皇国の紙幣と数十枚の銅貨・小銅貨に両替した。


「若いのに随分持っているな、両替する金が足りるか少し心配になったぞ。

しかし流石に移住推薦されるような奴は違うってことか。」


両替を終えて、ユリーの元へ帰る。


あらためて景色を見ると皇国側は、巨大な門から遠くに見える町のようなところまで、しっかりと石で舗装された道幅の広い道が続いている。

門の近くには、大きな建物が何棟もあり、おそらく国境警備隊か何かだろう。広い訓練場のようなものも併設されている。


うーむ、やはり国としてのレベルが王国とは段違いだ。


「歩いて行っても良いが、馬車を使うか。ヘルヒ・ノルトラエまで約50キメート(50km)程あるからな。馬車なら夕方には着くだろう。」


門の近くに大きな馬房があり、何台も馬車が止まっている。この辺は王国と皇国の間で貿易をやっている人向けかもしれない。

ユリーが御者と思しき人に声をかけ金を渡し、1台の馬車を借り、3人で乗り込んでから出発した。


「馬車で直接我が家まで行くことにする、トール君、今晩はうちに泊まると良い。」


王国製の馬車よりは上等なのか、進むスピードが速く揺れも少ない。

ただそれでもやはり結構揺れる、ゴム製のタイヤや完璧なサスペンションは皇国でも普及していないらしい。


「(前よりはマシだから、今回はケツが4つにはならないかもしれない…。)」


やはりケツの心配をしながら、ヘルヒ・ノルトラエまで進んでいくのだった。

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