第17話 推薦
吹っ飛ばされた人は幸い気絶していただけで、怪我自体は打ち身程度で済んだようだ。傷病回復薬を使う必要は無さそうだ。
今の所、豚人の変異種も生き返る雰囲気はない。
ボルソンが、森の入口の職員と護衛を連れて戻ってきた。
職員はいつものガンガスだ。
「おいトール、大変だったんだってな。豚人の変異種だとか。」
「その変異種というのは何なんですか?」
「ああ、豚人に限らずたまに現れる特殊な害獣だ。やたら頑丈だったりして、どれもかなり手ごわい奴でな。
今回は腕利きのユリーさんとボルソンさんに加え、薬師のお前がいたおかげで何とかなったな。どちらもいなかったら本当にまずいことになっていたかもしれない。」
「そんなまずい個体だったんですね、何とかなって良かったですよ。」
「他の豚人は、別動隊が概ね狩りつくしたから今回の目的は達成した。
これで終わりだ、ご苦労さん。」
やれやれだな、やっと終わった。
ちなみに変異種の豚人は毒で死んではいるっぽいが、念のため首を落とすそうだ。かなり硬いから大変そうだ。
カンブレスの町に帰りながら、ユリーと話をする。
「トール君、今日は本当に世話になった。例の件は、後日改めて話をさせてもらいたい。」
「分かりました、色よい返事がもらえる事を願ってますよ。」
「ふふ、今日の活躍を考えれば、私の返事は決まったようなものだがな。」
「だと嬉しいです。」
「そうだ、今回の報酬についてなんだが…」
その後は報酬の分け前や、雑談をしながら帰路についた。
二日後に、前に相談した同じ店で落ち合った。ユリーとボルソンが先に来ていたので、急いで席に座る。
「すみません、お待たせしましたか?」
「いやそうでもない。トール君、二日ぶりだな。」
「ユリーさん、どうもです。」
「さっそくだが皇国へ移住権の話の前に、私の身分を明かさせてもらおう。
私は皇国貴族であるボトロック家の四女、ユライシャイア・ボトロックと言う。
こっちのボルソンは私専属の執事だ。」
やっぱり貴族だったか、家名もさることながら、服の上等さや前に食事した時の所作を見たが明らかに平民とは思えない感じだった。
「貴族と言っても土地を納めたり、中央で政治を担っているような貴族とは違っていてね。辺境貴族ノルトラエ家に仕える、皇国では業務貴族と呼ばれる貴族だ。」
「その皇国貴族の末子がなぜ王国にいるのかについては話すことは出来ない。」
「(潜入任務?でもその割には俺や王国の総合ギルドに身分を明かしているみたいだし、特殊な事情でもあるのか?)」
「だが、私は皇国への移住推薦権を持っている一人ではある。
君の薬の調合能力や戦闘能力については既に把握している。その上で一つ尋ねたい、皇国に移って何とする?」
横にいるボルソンに嘘は通らないぽいし、ここは正直に答えるのが吉か。
「王国同様に薬師を生業に生活するつもりです。王国でも生活自体は出来ますが、より良い生活を求めて、というのが正直なところです。
文化レベルは王国と皇国では大違いですよね?」
ユリーがボルソンの方をちらっと見る、ボルソンは小さく頷いた。
「いかにも。理由に嘘はないようだし、君の能力なら皇国でも何かと貢献できるだろう。分かった、移住推薦をしよう。他3つの条件に付いては満たしているのか?」
「はい、金貨・識字計算能力は問題ありませんし、犯罪歴もありません。」
「分かった。一つだけ約束して欲しい、国家に反逆するような重大な犯罪だけは皇国で起こしてくれるな。
その場合はボトロック家総出で君の処分をしなければいけなくなる。推薦人の責任でもあるのでな。」
「承知しました。元より犯罪などするつもりはありませんよ、薬師で十分稼げるので犯罪なんか割に合いません。
私はそれなりの生活を送れれば十分なので。」
「うむ、では食事をしながら移住に関する諸々を詰めようではないか。
先の変異種では助けられたからな、ここは私の奢りだ。」
食事をしながら、時期や必要な物など移住の打ち合わせをした。
ついに第一の目標としていた、王国から脱出する時が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます